龍王の加護
「フラッシュランス!」
……僕の放った光の弓が、ニエルと思われる男性の腕を貫いた。危なかった。もう少し遅かったら…………。
僕はそのまますぐに、ドラくんに駆け寄った。
「ドラくん……!」
「…………あぁ、ウタ殿か……」
「何やってるの……とにかく、間に合ってよかったよ」
「ほー? 今の主人が迎えに来てくれたみたいだぞ? 一緒にあの世へ渡ってくれるらしい。他の仲間も引き連れずに」
「……急がないと危ない気がして、僕が先に来ただけです。変なこと言わないでください。……あなたがニエル、ですよね」
「あぁ」
やっぱりこの人が……。僕はドラくんの前に立ち、その人と目を会わせる。……鋭い瞳だ。そのまま、僕を突き刺してくるような。
……みんなを置いて先に来たのは、やはり正解だった。
『31と749の場所は……大体ここから2km離れているな』
『……結構ありますね』
『急いだ方がいいかもしれない』
『…………ウタ?』
『ごめん、僕……なんか胸騒ぎがして。嫌な予感がするんだ。だから……先にいかせてほしい』
僕が言ったら、不意にポロンくんが呟いた。
『……短期間ゴリラ』
『え』
『はい、ステータスアップの対象はウタ兄だけにしたから、結構早いはず。風魔法使って、ドラくんのところいってくれよ!』
『……うん、ありがとう!』
……あぁ判断したのは、間違いではなかった。危なかった。遠くからだったけど、早めにニエルの行動に気がついて、槍を放っていたから間に合った。先に動かなければドラくんの命は摘み取られていたかもしれない。
僕は鋭い瞳を、自分に向けさせた。
「ドラくんを殺すのはやめてください」
「なぜ? お前らの仲間である前に、俺にとっては裏切り者だ。裏切り者には罰を……そう決まっているものじゃないか」
「それを言うなら、人殺しには罰が必要ですよね?」
「ほー? ……まぁいいさ、攻撃してみろよ、俺に。で、勝てたら考えてやってもいい」
ニエルはおちょくるようにそう笑う。僕はそれを聞き、咄嗟に剣を構えた。そして、斬りかかろうとして――
「……待って」
やめて、ドラくんを見た。そして、そっと訊ねる。理由はあった。
「……あの人、あんなに防御しない人? そんなにHP高いの?」
「…………」
一切の受け身、避けの姿勢を見せない。今まで戦ってきた相手の中で、一番強いのは……敵では魔王、味方では個性の塊'sだろう。そして、第三勢力として、ディランさん。
みんな、少し攻撃を受けても大丈夫なくらい強いが、それでも、ある程度の受け身の姿勢はとっていた。怪我しないことに越したことはないのだ。
しかしニエルは……一切その姿勢を見せなかった。一切だ。そんなのまるで、『怪我をすることなんてありえない』と言っているようなものではないか。
「……ふーん。レベル50にも達していないやつがこいつの主なんて、って思ってたけど、勘は働くみたいだな」
「…………」
「教えてやればいいだろう? ダークドラゴン。その上で、さっきの条件をのむか聞けばいい」
「……ドラくん」
僕がドラくんに目をやると、やや気まずそうに視線をそらしながら、ドラくんは小さく告げた。
「……我のスキル、『龍王の加護』は、対象の受けたダメージを肩代わりするものなんだ。それに加えて、対象の居場所がわかる。
我は……こいつと契約を解消しきれていない。相手が認めていないからだ。だから、主従としての関係は断ち切れても、スキルの契約は切れなかった」
「…………ここにすぐ来れたのは、そういうことなんだね……。それで、スキルがまだ有効ってことは、つまり」
つまり、僕のニエルへの攻撃は、全てがドラくんへのダメージとなるわけだ。全てがドラくんに伝わり、ドラくんが死んではじめて、ニエルにダメージが入る。
「……どうすりゃいいの、これ」
「分かったか? つまりお前は、俺に勝つことができない。ダークドラゴン……お前が俺に勝つのは、お前が死んだあとだ」
そう言ってニエルは、さぞ面白そうに笑う。……酷く、面白そうに。
何とか思考を走らせる。どうにか……どうにかできないのか。ニエルを倒して、ドラくんも無事に助ける方法。何かないのか? 何か……。
「ウタ殿……よい、お主らが生きれば、それでよい。だから頼む……ニエルを倒してくれ。我が死んでも誰も困らない。だからニエルを」
「ドラくんさ…………何言ってるの?」
僕は一度考えるのをやめ、ドラくんに問いかけた。ドラくんは少し驚いたような顔をしてこちらを見たあと、僕の目を見た。
「なに……とは」
「さっきから自分のことはなにも言わないでさ。僕らのことばっかり。生きたくないの? 僕らと」
「そんなはず」
「なら! 生きたいって、いっててよ。犠牲になるとか、犠牲を払うとか、そういうの聞きたくないよ。それだったら、僕がここで死んでやる!」
「待てウタ殿!」
「……嫌でしょ?」
ニエルが苛立ったように、こちらに手を向ける。
「一に右足、二に左足、三四が腕で、五に頭。二人ともまとめてもらえば問題ない」
そうして飛んできた炎の槍を、
「だから……僕はドラくんを助けるんだ!」
僕は光魔法ですべて打ち落とした。
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