やるじゃん
「……なんだ」
僕がレベル28に相応しくない力を発揮し、一瞬だけ、ニエルの動きが止まる。その隙を狙って、僕はニエルを鑑定した。
名前 ニエル
種族 人間
年齢 58
職業 殺人鬼
レベル 100
HP 20000
MP 10500
スキル アイテムボックス・使役(超上級)・剣術(超上級)・体術(上級)・初級魔法(熟練度10)・炎魔法(熟練度8)・水魔法(熟練7)・雷魔法(熟練度10)・闇魔法(熟練度8)
ユニークスキル 支離滅裂
称号 殺人鬼・無慈悲・五体満足
……彼のステータスに、『五体満足』という文字があるのが、嫌に皮肉めいているような気がした。なにか、ドラくんのスキルを解除する手がかりがあるかもしれない。そう思った僕は、『支離滅裂』を鑑定してみることにした。
支離滅裂……全てめちゃくちゃに、バラバラに。無数の小さな刃が対象を襲う。刃の数は消費MP×10。スピード、威力はレベルに完全比例。
これだけか……。スキルを解除する手がかりがない。僕はニエルの、HPを削ることができない。
…………それなら、どうする?
例えばそうだ……。HPでないものを削るのがいいかもしれない。
「お前…………へぇ、ダークドラゴンの主人になるだけのことはある。何か、奥の手を持っているみたいだね?」
「それを、あなたに話す筋合いはありませんが、持っているには持っていますよ」
「ウタ殿……!」
僕はそっと、手のひらをドラくんに向ける。
「……ケアル」
それだけで、ドラくんの傷はみるみるうちに消えていく。何か言いたげなドラくんに背を向けて、僕はニエルへと振り向いた。
「……さて、どうする? そのドラゴンを犠牲にして俺を殺すか? ドラゴンを守って自分が死ぬか? どっちを選ぶ?」
「……どっちも選ばないよ」
「……そうか」
ニエルは、スッと僕に手のひらを向ける。そして、ニヤリと笑った。
「まずは右足だ。……支離滅裂」
「ウタど」
「ウィング!」
僕に駆け寄ろうとしたドラくんを風で吹き飛ばし、僕はその攻撃を甘んじて受けた。体を小さな刃が幾度となく貫くその感触……その痛みを知って、僕は思ったのだ。
もうこれ以上、この痛みをドラくんに与えてやるものか、と。
「自分が犠牲になることを望むか。そうかそうか、それでこそ……そいつが好き好んで遣えそうな人間だ。
ダークネスランス」
黒い槍は、僕の足を次々と貫く。しかし、勇気が発動してる今、僕は痛みこそ感じるが、傷はほぼすぐに消えていく。『女神の加護』のおかげだろう。僕はそれを確認すると、ニエルを見て、少し笑い、自分の足を指差した。
「……まだ、足、動くんですけど」
「……はぁ?」
「動かないようになるまで、痛めつけて見てくださいよ。ニエルさん。強いんですよね?」
「お主! 挑発するようなこといつてどうする!?」
「はっは、そうか。なら望んだ通りにしてやるまでだ。……バーニングチェイン!」
炎でできた鎖鎌が迫る。流石に切断は避けたいので攻撃は避ける……と、ニエルが手を上にあげる。
「……ダークネスエレキテル!」
「ウタ殿っ!!」
……流石に足元がおぼつかなくなってくる。僕は思わず、その場に膝をついた。……それを見たニエルは、嬉しそうに……さも嬉しそうに、笑った。
「どうだ? これで右足……と、左足もか? それなら次は腕を」
「まだ、動きますよ?」
「…………は?」
僕は回復魔法の力も借りて、立ち上がる。そして、少しだけ笑って見せる。
「ほら、まだ立てますから。もっと回復不可能になるくらいの攻撃……してくださいよ」
「お前……!」
「…………ウタ殿、お主、まさか」
僕は考えていたのだ。いや、思い出していたのだ。あのとき……カーターの時のことを。
アイリーンさんは言っていた。MPというのはHPを守るクッションの役割も果たしている。だから、MPが0になったら、それだけでHPは減っていくのだと。
そこでニエルを鑑定してみた。どうやら……MPを回復させるようなスキルは持っていないみたいだった。仮に回復薬を持っていたとしても、服薬する前に割るか奪うかしてしまえば、MPを回復させることは出来ない。
時間によるMPの回復は、微々たるものだ。ニエルのMPが尽きるまでの間、僕が攻撃を耐えれば、二人とも死なずにすむ。
「止めてくれウタ殿、お主……それが自分にどれだけ負担がかかるのか分かってるのか!?」
「ん、大丈夫だよ。加護もあるし、僕だってそこそこHPはある。レベルも今は高いからね」
「そういう問題じゃないだろう!?」
「――カプリチオ!」
カプリチオを受けると回復が出来なくなるので、僕は光魔法でそれを打ち消した。
「そもそも、なぜ受ける必要がある? 避ければいいものを」
「避けたら、ドラくんに当たるかもしれないし。気づかれるかもしれない。そもそも全部避けるだけの技量はないしね」
「操影!」
幾本もの刺が足を貫き、そのまま抜けなくなった。足元が固定され、いよいよ避けることができなくなる。
「……やっと腕だな? 散々おちょくりやがって……!」
「っ……」
その僕の前に、ドラくんが歩み出た。そして、
「……ダメージは入らずとも、多少の足止めにはなるだろう」
「…………ドラくん?」
真っ直ぐとニエルに手のひらを向ける。
「バーニングランス!」
「待って、ドラくん!」
したり顔のニエルに、その槍は飛んでいく。そして、その体に突き刺さる。
「――へぇ。やるじゃん」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます