合流

 いい加減、人が増えてきた。

 少し下を見れば、僕らに向かって魔法やら武器やらを投げてくる。その全てを見ることなく、テラーさんは叩き落とす。



「……そろそろ、城に向かうよ? 準備はいい?」


「僕は大丈夫です」


「ぼくもー!」


「……大丈夫だ、向かってくれ」


「……よし。――氷象」



 テラーさんがまた呪文を唱える。すると、僕らのすぐ近くに、氷の道が現れた。少し斜めっていて、滑り台のような感じにも見える。それは遠く、高くそびえる城へと繋がっていた。



「テラー、今回すっごい本気だねー!」


「たまにはね。

 よしウタくん!」


「ななな、なんですか?!」


「その滑り台、すべってみせよ!」


「これやっぱり滑り台だったんですか!? いやいや、無理ですって! 高いですって!」


「ワイバーンで空飛んでるやつがなにいってるんだ」


「もー、しょうがないなぁ、ウタは。ぼくと一緒に行こ?」


「ヴッ……い、いく……」



 ふ、不意討ちのかわいさは無理だって、スラちゃん……。



「ほら行こっ!」


「ウタ……」


「し、しょうがないじゃないですか! 可愛いんですよスラちゃん」


「いや、羨ましい」


「アリアさんもそっちだったのか」


「じゃ、アリアも一緒に行こ!」


「うぅっ……行く……」


「うんもうなんでもいいから早く行ってね? 結構大変なんだよ周りからの攻撃全部打ち落とすの」


「ごめんなさい」



 僕らは三人手を繋いで滑り台に足をかける。ひんやりとした感覚がじわりと伝わり、どこか心地いい。なぜか濡れることもないのだ。



「よし……ウタ、スラちゃん、せーので行くぞ!」


「うん分かった!」



 と、その瞬間僕は氷に足をとられる。ツルッと滑ってそのまま、二人を巻き込みながら滑っていった。



「せーっうわっ?!」


「ウタぁ?!」



 恐怖を感じる暇さえなく滑り落ち、僕は背中から地面に落ちた。その上に、アリアさん、スラちゃんが続く。



「うっ……」


「あぁ、ウタ、大丈夫か?」


「あんまーり大丈夫じゃないですけど」


「でもウタが滑ったのが悪いんだよ?」


「その通りです……」



 体制を立て直し、前を見る。するとそこには、僕らを心配そうに見るいくつかの顔があった。



「お主ら……大丈夫か? 派手に転がったようだが」


「ま、多分ウタ兄がドジしたんだよ!」


「そうだね! アリアさんはそんなことしなさそうだし、スラちゃんはスライムだしね」


「それにしたって……派手に転がったね……」


「漫画みたーい!」


「みんな! ……よかった、もう体は大丈夫?」



 その場にいたのは、ポロンくん、フローラ、ドラくん、アイリーンさん、ドロウさん、そして、ロインとレイナさんだった。レイナさんは僕の言葉に手話で答えた。



『もう大丈夫。ありがとう』


「僕らも事情は聞いてるよ。

 ……マルティネスとクラーミルは戦争をしない。その方針で、間違いないんですね、アリア姫」


「あぁ、もちろんだ。……私がこの国で感じた人のあたたかさ……偽物じゃない。マルティネスと似たものを感じたんだ。それを、悪魔に奪わせちゃいけない」


『ここから上に上がる。そうすれば、大きなバルコニーがある。そこなら、外からでも良く見える。

 アリアとウタは、一緒に立ってほしい。何かあっても、今度は守る』


「……別に守られなくても、一緒についていくさ。な、ウタ」


「当たり前ですよ」



 フローラがそっと、外に目をやる。……ちらりと見ただけでも、国民たちが城の門を破り、入ってこようとしているのが分かる。



「しばらくしたら、門が破られて、人が入ってきます。私とポロン、あとスラちゃんにもお願いしたいな。その人たちを止めるの」


「とおせんぼ? いいよ! 手伝う!」


「我はウタ殿に同行しよう。悪魔が現れるとすれば上だ。仮に下でも、我ならば最悪、床を破っていける。同じドラゴン故に、ワイバーンを中に入れることも出来る」


「それ確実に……城、壊れるな」


「僕らからすれば、城はどうなっても構いません。今この中にいる人は僕らだけですから、仮に崩れても、みなさん、脱出できるだけの力は持っています」


『個性の塊'sもいる』



 不意に、背後から肩を叩かれる。振り向けばテラーさんが、そしてその後ろに、ジュノンさんとおさくさんがたっていた。



「よっ」


「あー! ジュノーン!」


「二人ともお疲れー!」


「おつかれ」


「……えー、個性の塊'sのみなさん、ならびにUnfinished、クラーミルの国王と女王へ、重大なお知らせがあります」



 そんな、ふざけたような真剣な口調で、ジュノンさんが話し始めた。



「……私たちのサポートは、ここまでになりそうです」


「……え?」


「あれ? ウタくんたちが上に行くまでサポートする予定じゃなかったっけ?」


「だってほぼ100%悪魔来るよ? 大丈夫なの?」


「正直、大丈夫じゃない気もするし、サポートする気満々だったんだけど……。聞いてくれ」


「お?」


「例の女神から呼び出しが入りました」


「……うわぁ」


「例の女神?」


「私たちを召喚した、女神」


「マジかー、このタイミングかー……」


「バックレようぜ」


「さすがにバレるって。神だし」



 ……ということは、個性の塊'sのサポートはなくなり、ここからは自力で上を目指すことになる……というわけだ。



「……30分できりつけてくるから、それまで生きてなよ」



 ジュノンさんがそう言うと個性の塊'sはその場から消えた。

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