閑話 個性の塊'sの休日

 とある日の昼、僕は街に買い物に来ていた。なにかを特別に買いに来た訳じゃない。ただ、買いためておいた食材が無くなってしまったから、アリアさんたちと手分けして買いに来ているだけなのだ。

 僕とスラちゃんとドラくんは野菜担当、八百屋さんの前でどれを買おうかと吟味しているところだ。



「どれがいい?」


「うーん、ぼくこれがいいな! ドラくんは?」


「……一応いうが、我は元々肉食だぞ?」


「そんなこと言ったら、ぼくの主食って氷だよ? 人の体になったんだから、人の食べ物食べなくちゃ!」


「むぅ……確かにそうだが……しかし……」


「ほら! どれにしようかなー」



 和やかだなぁ……。そう感じながら、僕は口元が緩むのを感じた。だって、ドラくんがあんな反応するの、見たことないし、スラちゃんがあんなド正論言うとも思ってなかったから。



「新たな発見……ってね」


「ん? なにー、ウタ?」


「いや、なんでもないよ。どれ買うか、決めよ?」



 そして僕らは適当に野菜を買い、僕はそれをアイテムボックスに入れた。お店のおじさんがお会計の時おまけもしてくれた。やったね!

 そして帰り道、僕らはホクホク気分でアリアさんたちとの待ち合わせ場所に向かう。と、スラちゃんが僕の袖を引いた。



「ねぇ、ウタ?」


「ん? どうしたの?」


「あれって……さ? ドロウとアイリーンだよね?」



 スラちゃんが指差す先、街中の、あれは……喫茶店、の前、だろうか? そこに、確かにドロウさんとアイリーンさんは立っていた。それだけならそのまま話しかけても良かったのだが、なんだが様子がおかしかった。



「ねーねー、いいじゃん! ちょっと一緒に遊ぶだけだからさー!」


「いやぁ……でも、人を待ってて、ですね?」



 二人の前には三人の男性。がたいのよさそうな三人だが、おそらく……いや確実に個性の塊'sよりは弱いだろう。

 会話の内容を聞く限り、そんな三人に、どうやら……所謂、ナンパ、というのをされているらしい。


 ……いやいやいや、個性の塊'sナンパしようとか、どれだけ勇者なんだこの人たち! あれ、多分ドロウさんとアイリーンさんっていう二人だからまだ生きてるようなもんで、ジュノンさんかテラーさんだったら、もうすでに確実に葬られてますよ!?

 というか、待ってる人って、十中八九確実に他のメンバーなんじゃ……? そうだとしたらヤバイよ!?



「あれは……ヤバイな。よく生きてるな、あの男ども」


「ヤバイよね、確実に」



 ……しかし、いくら相手があの二人とはいえ、拒絶の仕方がある程度ソフトな感じがする。アイリーンさんは……あれはワンちゃん寝ているとして、ドロウさんは「は? 無理です。ごめんなさい」くらい言いそうなものだけど……。



「だからぁ、その人たちって友達でしょ? 友達も一緒でいいからさ! 心配しなくても、お金は僕らが持つよー」


「いやぁ……お金よりもティラノのストラップが欲しいっていうか……」



 このタイミングでティラノ!? こ、これ、助けるべき状況なの!? ドロウさん一人でも十分ぶっとばせる相手だし、なんかそこまで険悪じゃないし、強制してる訳じゃない……訳じゃないか。

 もう! どうなってるんだよ!



「……お困りか少年」


「おさ……くさんじゃない! テラーさんだった!?」


「やっほ」


「ジュノンもいたの!?」


「おさくはね、今おばあちゃんの荷物もって家まで送りにいったよ?」


「社会的にいい人の見本じゃないですか!」


「……で、ジュノン? あれもしかして……」


「うん、そうだね」


「どういう状況なんでしょうか……?」



 僕が訊ねると、二人は僕に向き合い、声をあげる。



「ひとぉーつ! アイリーンは確実に寝落ちしている! ズバリ! 男の話に一ミリも興味を示さなかった!」


「なんてこと!」


「ふたぁーつ! ドロウはきっとドラゴンの話をした!」


「どうして分かるの?」


「いやドロウね? ナンパとか嫌がるんだけど、乙女ゲームにいたら確実に攻略難易度最下位なのよ。

 とりあえずドラゴン、恐竜、殺人鬼の話をしておけば好感度上がる。おすすめデートスポットは恐竜博物館」


「単純すぎる……って、殺人鬼!?」


「みぃーっつ! それによってドロウは、独自の『ドラゴン好き=いい人』の概念に取りつかれ、拒絶しきれてない!」


「これでいいのか個性の塊's……」


「さて、」



 一通り僕に説明したジュノンさんとテラーさんは顔を見合わせ、とっても……とってもいい笑顔で微笑んだ。



「さて……行きますか?」


「殺りにいこうか。殺らないけど」


「本当に殺らないですか!?」


「うん、多分きっともしかして」


「不確か!」



 そして二人はドロウさんたちの方へ歩いていき、男の後ろから声をかける。



「ドロウー、アイリーン!」


「二人とも……おさくは?」


「慈善活動中」


「はいアイリーン、起きようね」


「ふぁーあ?」


「向こうのカフェ入ろって決めてきたら、行くよー」



 そこですかさず、男たちが止めにはいる。



「まってよ! 君たち、このあと暇なんでしょ? 僕たちと一緒に遊びに行かない?」



 すると、テラーさんが男たちにとっても優しく微笑み、口を開く。



「私たちは自由に行動したいからさ」


「でも」


「私に言われてる間にやめておきな。死ぬよ?」



 ゾクッとする、日常では感じないような寒気。それを感じているはずの男たちは、それでも懲りずに声をかけ続ける。……止めればいいのに。



「ぼ、僕らは君たちとお喋りしたいだけだって!」



 そこで、ラスボスが振り向く。



「ふーん……で?」



 その後、男たちが個性の塊'sを追うことはなかった。



「ドロウもさっさとぶっ飛ばしなよ」


「だってあの人、ドラゴンかっこいいから好きって……」


「単純かよ」

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