実は

 もう、ワイバーンと男たちのことはみんなに任せた。僕は、スラちゃんにだけ集中すれば良い。

 そんなことを感じつつ、僕はそっとステータスを確認した。



名前 ウタ


種族 人間


年齢 17


職業 冒険者


レベル 2300


HP 3450000


MP 1840000


スキル 言語理解・アイテムボックス・鑑定・暗視・剣術(超上級)・体術(超上級)・初級魔法(熟練度50)・光魔法(熟練度35)・炎魔法(熟練度30)・氷魔法(熟練度20)・水魔法(熟練度15)・風魔法(熟練度10)・土魔法(熟練度10)・回復魔法(熟練度20)・使役(超上級)・ドラゴン召喚


ユニークスキル 女神の加護・勇気・陰陽進退・化学


称号 転生者・ヘタレ・敵前逃亡・B級冒険者・Unfinished



 ……ポロンくんの時と同じ、このステータスじゃ、ほんの少しの攻撃も、スラちゃんにとって致命傷になりかねない。なるべく、攻撃をしないで、スラちゃんを助ける。



「っ……」



 スラちゃんは、氷の槍を放って攻撃してくる。シエルトや魔法で打ち消して、なんとかそれを防ぐ。



「スラちゃん……! 僕だよ! 羽汰だよっ!」


「――――」


「ねぇ分からない!? 僕と、ずっと……ずっと一緒に! 旅をしてきたじゃん!」



 氷の槍で、剣が弾き飛ばされる。と同時に、僕に、小さな小さな声が聞こえてきた。



「……タ…………」


「スラちゃん……?!」


「ウ……タ…………」



 僕は思わず、防御を緩めた。……しかし、その隙を見逃さず、スラちゃんは僕に向かって氷の槍を次々に飛ばす。

 ……自分のMP、考えているのか? 攻撃のしすぎで死なないか? ……そう思うほど、その攻撃は異常だった。



名前 スライム


種族 スライム族


年齢 ???


職業 ――


レベル 特殊


HP 7000


MP 2275/4000


スキル アイテムボックス・透視・剣術(中級)・体術(中級)・初級魔法(熟練度6)・水魔法(熟練度4)・氷魔法(熟練2)・光魔法(熟練度3)


ユニークスキル 劇薬


称号 実験体



 心配になって鑑定してみれば、それは僕の知っているステータスとまるで違っていた。……このままじゃ、MPが尽きて、スラちゃんが……!

 ふと、スラちゃんか僕の落とした剣を拾い上げ振りかぶる。僕はアイテムボックスからもう一振りの……おさくさんにもらった剣をとりだし、それを受け止める。



「スラちゃ……!」


「……ウタ」



 ハッとしてその顔をみると、スラちゃんはぽろぽろと涙を流しながら、僕に剣を向けていた。



「スラちゃん……大丈夫? 痛くない?」


「……実験、不十分だったね…………。体は、言うこと聞かないのに、動いたら、頭が戻ってきちゃった……。ワイバーンとは、違ったみたいだね……」


「…………」



 お互いに一度、剣を弾き返し、もう一度打ち合う。固い金属の音の向こうに、嗚咽混じりのスラちゃんの声がする。



「ウタと、戦いたくないよ……。傷つけたく、ないよ……。でも、体が言うこと聞かなくて……心も、身体も、すごくしんどくて……」



 僕とスラちゃんの間でせめぎ合う刃。その力強さや残酷さと真逆であり、本心である、スラちゃんの言葉。



「死にたくない……死なせたくない……」


「…………うん」


「ぼくはっ……あのワイバーンみたいになりたくない! みんなと、まだまだ旅をしていたい! 見ていないものは見てみたいし、食べたことがないのは食べてみたい! いったことがない場所に行ってみたい……。


 戦いたくない……戦いたくないよ……ウタ…………」



 でも、と、小さくスラちゃんは告げる。



「ウタを殺すくらいなら……ぼくは……」


「――大丈夫」



 僕は、震えるその手にそっと触れて、突き返し、距離をとる。



「僕は、『勇気』を持っているんだから。そう簡単に殺されないよ」



 再び、攻防が始まる。僕はその間、どうすればスラちゃんの動きが止まるのか、ずっと考えた。

 ……ちらりと後ろをみる。アリアさんたちはもう、男たちを追い詰めにかかってる。スラちゃんの動きを止める方法は、男の指示の有無ではないようだ。それなら……?


 『スラちゃん』の目的はなんだ? ――僕を殺すことだ。僕を殺したら、動きは止まる……。でも、僕は殺される気なんてさらさらない。スラちゃんも、望んではいない。

 そのとき、僕の目に、自分の使っている剣が飛び込んできた。……これは、おさくさんにもらった剣。グッドオーシャンフィールド製の、聖剣。


 ……グッドオーシャンフィールド?



(……そうだ!)



 スラちゃんが、僕に剣を突き刺そうと駆けてくる。

 振りかぶり、勢いをつけ、僕に突き刺そうとしたその剣を



「――大丈夫」


「…………ぇ」



 その勢いのまま、体に受けた。衝撃があり、剣からスッと力が抜け、スラちゃんは急激に脱力し、重心がグラッと傾く。

 僕は、その体を受け止めた。



「……スラちゃん」


「ウタっ……なん、で……避け…………」


「よかった、上手くいって」


「…………へ?」



 ハッとして僕をみるスラちゃん。確かに命中した剣の傷は、僕の体にはちっともなかったのだ。血の一滴も流れていない。



「衝撃で多少痛かったけどね」


「……え? なんで……」


「……実はこのシャツ、」



 僕は着ていたワイシャツを指でつまみ、笑って見せた。



「グッドオーシャンフィールド製なんだ」



 一瞬きょとんとしたスラちゃんだったが、やがて、その表情は笑顔に変わった。



「……なんだ、よかった」

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