当て馬四天王s

 ……実力が、違いすぎる。

 他の塊'sとは、わけが違う。どうりで会う人みんな声を揃えて『ジュノンは魔王だ』と言うわけだ。その意味を、この身をもってしっかりと味わった。



「……怪我してる人いるー?」


「……逆にさ、いないと、思ってるの?」


「あれ、わりと怪我してる?」



 一瞬だった。ジュノンさんの攻撃が当たった瞬間、ガーディアが見事に砕けた。それを見たテラーさんが咄嗟に光魔法で威力を殺したからよかったものの、僕も背中に怪我をした。

 ちらりと他を見ると、みんな多少は怪我をしているようだった。アイリーンさんがチョコを配っているのがわかる。



「はーい、ウタくんとテラーの分ね、これー」


「ありがとね、アイリーン。あんたがいなけりゃどうなってたか」


「ありがとうございます」


「いえいえー」



 もらったチョコを口に運ぶと、舌の上でトロリと溶けて、甘いものが広がった。あぁ、美味しい……これぞ地上の恵み! チョコレート万歳! 僕はチョコレート狂信者じゃないよ!



「……ウタ、」


「え、あ、うん? どうしたのスラちゃん」



 不意に、おずおずと言った感じでスラちゃんが僕に話しかけてくる。その様子はどこか遠慮がちで、下を向いていた。



「……どうしたの?」


「だって……! ウタ、ぼくのこと、庇ったでしょ? だから怪我したんでしょ?」


「…………」



 そういえばそうだった、と、今更ながらに思った。あのとき、咄嗟に自分の後ろにいる、誰よりも弱い存在を守らないとって、必死だった。

 小さな体を抱き締めて、自分の体に力をいれて、なるべく衝撃が伝わらないようにするために……必死だった。



「本当は……使役されてるぼくが、ウタのこと守らなきゃいけないのに。ぼく、スライムだから。ドラくんみたいに、強くないから。

 ……守られてばっかりで、ごめんなさい」


「…………」



 僕は何も言わないで、ポンポンとその頭を撫でた。



「……ウタ?」


「あはは……。

 ね、スラちゃんは僕とずっと一緒でしょ? だから、僕がどんな人なのか、大体わかるよね?」



 戸惑ったようなスラちゃんに、僕は続けた。



「ヘタレで、弱虫で、前なんてちょっと血を見ただけで気絶しちゃうような人間だ」


「そうだけど、でも!」


「僕を助けてくれてたのは、スラちゃんだよ。ずっと、助けてくれてるんだよ。

 スラちゃんは弱くないよ。それでいいんだよ」


「っ……ばか。ばかばかばか! ウタのばーか!」


「あはは、そうだね」


「ウター、スラちゃーん! そろそろ次いくぞー!」


「はーい! ……いこっか」


「うん。

 ……ヘタレな分、優しいのが、ウタのいいところだよ」



 それは、聞かなかったことにした。



◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈



 ジュノンさんが魔物を一掃した部屋の奥には扉があり、そこからまた廊下が続いていた。



「RPGならその辺に宝箱置いてあるのに、不親切だなぁ」


「いやジュノン、それは流石にないよ」


「テラー、そっちはさっき来た方だよー?」


「あっれー?」


「お、歩くマン使う?」


「使ったって意味ないでしょ」



 うーん、しまらないなぁ。不意に、アリアさんが個性の塊'sのみんなに訊ねた。



「なぁ、今向かってるのは、どの辺りなんだ?」



 ちょっと考えたあと、ドロウさんが答える。



「四天王がいるところ……かな」


「四天王!」



 あの、二秒で倒したっていう、あの! そこに向かってるんですか!?



「まー、あいつらもいちいち殺るのめんとくさいし、『どうでもいいし』で一掃」


「しないでね、ジュノン。あの辺は封印する決まりなんだからさ」


「ちぇー」


「やる気満々だったんですね」


「違うぞ少年! ジュノン氏の場合は、『殺る気満々』だっ!」


「おさく?」


「殺られるー!」



 ……こんなノリでやられちゃう四天王も四天王だなぁ、とか思いつつ進んでいくと、突き当たりに一際大きな扉があった。

 それを躊躇いもなくジュノンさんが開け放つ。そして、そこにいたのは、



「よく来たな勇者よ!」


「殺るぞ」


「「「「了解」」」」


「即答!?」



 えー、四天王は三人しかいません! 前にベリズ倒しちゃったからかな? ちょっとデブっとした男性一名、なぜか服が萌え袖の男性一名、中肉中背中年の男性一名。……何がどうしたわけではないけれど、なんかこう……いらっとする。


 ……なーんて思ってたら、



「侍の心得」


「フラッシュランスエクステンド」


「レインボー」


「ジャッジメントー!」



 効果音という効果音もつけられないような凄まじい破壊音。それが鳴りやみ、砂ぼこりもおさまったその時には、もう四天王たちはみんなのびていた。


 ……え、えー?



「ジュノンさんのこと言えませんね!?」


「いやぁ、仲間を狙わないだけましでしょ」


「別に殺そうとしてなかったじゃーん」


「いやあれ、ガーディアのタイミングずれてたら確実に死んでたよ?」


「ちょっと何言ってるかわからないなぁ」


「ジュノン、チョコあげるから、理解して」



 ……これ、魔王戦どうなるんだろう。今からスッゴク怖いんだけど。



「……ウタさん、私たちが、ついてきた意味ってなんでしょうか」


「んんんん……」


「今のところおいらたち、被害被ってばっかりだよな?」


「んん……」


「ウタ……」


「気づかないふりをしましょう」


「「「「了解リーダー」」」」



 Unfinishedは仲がいいなぁ。あはははは。

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