朗報……?

「え、ねぇ! いつ行く!? 今!? 今からいっちゃう!?」



 さっきまでいかにも、体がだるおもーって感じだったジュノンさんの目がキラキラと輝く。今すぐにでも狩りに行きたいって目だ。

 ……って、そうじゃない! そういうことじゃないでしょジュノンさん!



「いいいいいや、待って! 待ってください! え、魔王が復活した!? それヤバくないんですかぁ!?」


「ちょっとヤバイくらいがいーじゃーん! え? なに、今回は何レベなの? 前は500じゃん? 2、30000くらいになっててくれると嬉しいんだけどなぁ」


「いやもうそれ、レベルって概念を越えているような……」



 ポロンくんの言う通り。レベルってなんだっけ。普通は1~100のランクで、それによってステータスが変わるようなあれ、だよね? 10000とか20000とか、そんなのないよね!?



「まだ偵察してないからわかんないけどね、まさか前と同じレベルで来るバカじゃないでしょ」


「ね! いついく!?」


「チョコたべるー?」


「たべるー! ……で、いついく!?」


「一周回ってジュノンさんが壊れた人形みたいに見えてきました……」


「フローラ……悪いが全く同意見だ」



 魔王のことを聞かされてからルンルンのジュノンさん。第一、普通魔王復活の報告は悲報とかじゃないの!? 朗報ではないでしょ!?



「まぁでもほら、向こう行くには船出さなきゃいけないから。このこと連絡して船貸してもらって……でも最近貿易盛んだし、早くて一週間後じゃない?」


「さっすがドロウ、よく知ってるね」


「えー、一週間ー? 今行けばいいじゃん。サンかビャクかナイル呼べばいいじゃん」


「ジュノンはこの街を大混乱させるつもりかな?」



 まぁ魔王が攻めてきても大混乱だけどね。



「……じゃーいいや。後でお城行こー。

 …………ん?」


「え」


「んーーーーー?」


「んんんんん?????」



 なにやらジュノンさんがこっちをジーっと見てくる。な、なんだなんだ。ご飯粒でもついてたのか!? そっちの方が何十倍、何百倍ありがたいんですが!?



「……ふふっ」


「沈黙からの微笑やめてくれませんか!?」


「なんでー? 笑ってるだけだよ? 怖くなーいよ?」


「残念だったなジュノン。説得力は皆無だ」


「……おさくがまともに見える」


「アリアさんや、わいもともとまともやで?」


「いや、それは……うん、ソウダナー」


「諦めちゃダメだよアリア姉! 塊'sにまともなのはいないよ!」



 うんそうだね!?

 で、ジュノンさんはなんなの!? めっちゃ怖いんですけど!



「……スライムだねぇ」


「……えっ」


「ぷるっ?!」


「ちょっと貸してー!」


「ぷるるっ?!?!?!」


「なっ……」



 僕は肩に乗っていたスラちゃんをバッと腕に抱えると、必死に首を横に振る。とにかく、今、自分ができる全力を尽くして首を振った。



「だっだだだだダメですよ! ぜっっったいダメです!」


「なにもしないよー? 多分」


「きっともしかしてですね!? 不確かすぎるんですから! だ、ダメです!」


「……渡してよ」



 ま、また威圧つかってぇ! ででででも、これだけは絶対に許すわけにはいかない! スラちゃんの命がかかってるんだもん!



「……威圧かけてるのに渡してくれない」


「だってスラちゃんが! スラちゃんが!」


「えー……みんなもなんか言ってよー。私なにもしないよって」


「おぉーっとジュノン選手! 嘘はいけませんよ嘘は!」


「嘘じゃないよ!」


「我々には証人がいる! ……証人のテラーさん、話していただけますね?」


「またなんか始まってるし!」


「……はい。あれは、一ヶ月前……ここに遊びに来た私は、見てしまったのです。

 ――この部屋に運び込まれた動物が、八つ裂きにされているのを」


「ひえっ!」


「何事かと私が訊ねると、彼女は言ったんです。

 ……『あいつらは実験の材料になっただけだ』って」


「そこのところ、どうなんですか被告人!」


「いつから被告人?」


「……なんなんですかこの無駄な演技力」


「ジュノン以外は召喚前演劇部だったからねー。平均よりはできるかもー? あー、サスあてたい」


「演技力、無駄なところにしか使ってない気がするけどね」


「……黙秘とは。しかしそれならば! どんな手を使ってでも吐かせてみせ」


「二人とも後で覚えときなよ?」


「ヤバイヤバイ……。テラー、あとでミッションポッシブルやるよ」


「おっけー了解、インなんてつけさせない」



 …………で、あれ? なんだっけ? えーっと……ん?


 そのとき、スッとどこからか手が伸びてきて、僕が抱えていたぷるぷるを奪い取る。



「ぷるっ?!」


「す、スラちゃん! ややや、止めてください!」


「やめなーい」


「……ごめんね、ウタくん。ジュノンに勝つのは……無理だね、うん」


「そんなぁ! 諦めないでくださいよぉ!」


「だってジュノンだもん」


「「「「ねー」」」」



 そうこうしている間にも、ジュノンさんはなにやら大きめの、試験管のような形をした器具を取りだし、その中にスラちゃんを突っ込み、中を液体で満たす。



「スラちゃん!」



 ……今さらだけど、ジュノンさんって敵なの? 味方なの? どっちか分からないけど、敵わないって分かっていても、僕は衝動のままにジュノンさんの手を止めようと掴みかかる。

 思ったよりも力が入って、ほんの少しだけジュノンさんが驚いた……気がした。それでも、



「――離れようか?」



 その一言を聞いた次の瞬間には、僕は部屋の端にまで吹き飛ばされていた。



「ウタっ?!」


「ちょちょちょ、ジュノン! 手加減ってものを」


「したよ? 手加減。死んでないじゃん。

 ま、取り敢えず、これやってからね」



 ジュノンさんが指をならす、その瞬間、スラちゃんが入ったビーカーが目映く光り、そして……。



「……うん、やばいね。シエルト」



 その2、3秒後、爆発した。

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