恐怖の研究所

 地下にいけば、ジュノンさんに会える……。そういわれた僕らだったけど、そのジュノンさんからの伝言が怖すぎて先に進めないでいた。



「……これ、あれかな? 先に進んだら、殺されるのかな?」



 アリアさんが冗談半分、本音半分で、薄ら笑いを浮かべながらそんなことを言う。……冗談半分、ならいいんだけどね。



「殺され……は、しないと思いますけど、でも、戦闘になったりしたら勝てる自信なんかないですよ?!」


「そんな自信おいらだってないよ! しかも、ジュノンって、『個性の塊's最恐で最悪のリーダー』なんだろ!? 今までの塊'sでも十分すぎるくらいに強いのに!」


「……あれを越えてくるのか…………。うん、普通に考えて、無理だな」


「でも……ここでウダウダしていても、らちが明かないですよね?」


「……進むしか、ないのか」


「そう……です、ね」



 よ……よし行くぞ! 今こそ勇気を振り絞るんだ! なんで脅し文句的なの言われてるのか知らないけど! 会ったらスライディング土下座だ!


 そうして僕らは、階段を降り、地下へと向かった。



◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈



 地下は、一階とはまるで違う。

 一階の方は研究所って感じで、白一色の、無機質な感じ。しかし明るく、人も僕らと受け付け以外に何人かいた。

 しかし……地下に来たとたん、そこは薄暗く、人の気配が一切しないところに変わっていた。


 物音はなく、歩く度にその足音が廊下に響き渡る。ひんやりと冷たい空気に包まれ、思わず身震いをした。



「な……なんだ、ここ」


「なんというか……怖い……です、ね……」


「おおお、おいらっ! おいら怖くないもん! おいらは、だって、男だし! な、ウタ兄! 男は怖くねーもんな!」


「…………」


「……う、ウタ兄?」


「ウタ……? どうし」


「こわいにきまってるよぉおぉぉおおおぉ!!!!!」



 僕は震えてがくがくいってる足をバシバシ叩いて怖さを主張する。ごめんねみんな! でも、こうしないと僕もう逃げ出したくてしょうがないんだよ!



「たたたっ、ただでさえ暗いところとか人気のないところとか苦手なのにっ! あんな伝言聞いた後で! こんなところに! いるなんて!」


「その……悪かった。悪かったから、頼む、落ち着いてくれ、な?」


「落ち着いてられませんよぉ! どうすればいいんですかぁ! ジュノンさんどこですかぁ!」


「……アリア、さん」


「アリア姉……」


「……しばらくこんなことなかったから、大丈夫だと勝手に思っていた。うん、大丈夫と思ったのがいけなかったな。そもそもこいつはそういう奴だった」



 そんな感じでアリアさんは自分になにかを言い聞かせると、僕の首根っこを掴んで、ぐいっと引っ張った。



「んぐっ!?」


「落ち着けウタ! 全く、こんなんでここまでビビらなくてもいいだろう!? 魔物もなにもいないんだし、私たちはジュノンに会いに来ただけだ! お化け屋敷二期たわけじゃない!」


「で、でも」


「でもじゃない。行くぞ!」



 そう言ってアリアさんは、先にどんどん歩き出す。ハッとして急いで追いかける。ポロンくんとフローラは、普通にアリアさんについていく。



「ま、待って! 待ってくださいアリアさん! 置いてかないでぇ!」


「ちょっとはしっかりしろ。リーダーだろ?」


「アリアさん……よく大丈夫ですね、こんなちょっとしか明かりがないのに」


「それはそりゃあ…………。

 ……あのときの方が、ずっと、怖かったからな」


「――――」



 一瞬。一瞬だけ、アリアさんが見せた表情。どこか寂しそうで、それでいて、恐怖を打ち払おうと頑張っているかのような、必死に作った笑顔。

 ミーレスに連れ去られ、監禁されていたとき……。それに勝るような恐怖では全くないのだろう。

 街が襲われ、自分のせいで国民が死んでいったかもしれない。そんな不安に勝るものは、ないのだろう。


 僕は、大きく息をついた。落ち着こう。落ち着いて、ゆっくり進もう。そうだ。心の中で、誓ったじゃないか。自分に約束、したじゃないか。

 必ず、アリアさんを守るって。



「……落ち着いたな」


「はい……すみません」


「気にするな。……にしても、扉が多いな」



 廊下はいくつも枝分かれしていて、その両側に扉がある。どれがどれなのかさっぱりだ。

 しかし、扉の横にはプレートがあって、使っている人の名前、行われている研究が書いてあるようだ。つまり、ジュノンと書かれたプレートを探し出せばいいのだ。



「えぇっと……ジュノン……ジュノン…………」



 研究所は、地上がそうであったように、かなり広い。探しても探してもきりがない。

 僕らは四人がかりで扉を一つ一つチェックし、ジュノンさんの部屋を探していった。そして、探しはじめてから15分ほど経ったとき、



「あっ、ありました!」



 フローラが不意に声をあげる。そこに行ってみると、フローラの目の前にあるプレートには『ジュノン 研究内容「機密」』と書かれたプレートがかかっていた。これがジュノンさんの部屋に間違いない!

 『機密』ってのが気になるけど……まぁあとだ!



「ノック、してみますね」



 僕はそういうと、扉を三回、軽く叩いた。……返事がない。いないのだろうか。

 なんとなく物心でドアノブに手をかけると、ガチャリと音がして扉が開いてしまった。



「あっ」


「なにやってんだよウタ!」


「す、すみません!

 ……でも、ちょっと覗いてみません?」


「いやそれ、まずいんじゃ」


「気にならない?」


「「「気になる」」」



 僕らはそっと中に入り、辺りを見渡す。……大きな試験管にビーカー。薬品棚がところせましと並んでいる。

 そんな光景に目を奪われていると、



「――何してるのかなぁ?」



 背後から、刺すような視線を感じた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る