次は?

「で、このあとどこに行く? ウタ兄!」



 ポロンくんが聞いてくる。が……、



「え、僕に聞く?」


「だって、ウタ兄、Unfinishedのリーダーだろ?」


「あれ? 結局それ継続?」


「男だろ?!」


「そうだけど!」



 なんか……決めてよかったな、パーティー名。言われるだけでちょっとぐっとくる。Unfinished……うん、好きだ。



「……でもまぁ、どこに行こうか。

 今日は……って、もう夜が明けてきたな」


「そういえば、真夜中でしたね」


「サイカんとこではメロウ、もう寝てただろ?」


「……まぁ、夜更かししたってことで、一旦寝ますか」


「そうですね。……ふぁあ……思い出したら、急に眠くなってきました……」


「あはは……」


「寝るか」


「ですね」



 深夜4時を回ったところだった。とりあえず僕らは布団の上で眠ることにしたのだ。



◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈



 さすがに疲れてたのだろう。ぐっすり眠った。次の日、起きたのは12時過ぎだった。ポロンくんとフローラはまだすやすやと眠っていて、アリアさんの布団だけは空だった。



「…………」



 償いでもしてるみたいな顔……か。僕はそんなに分かりやすいのだろうか。



「……ウタ」


「あ」



 僕が部屋の入り口の方を見ると、髪を濡らし、肩にタオルをかけたアリアさんが入ってきた。……うう、ちょっと目のやり場に困る……。



「お……お風呂でも入ってきたんですか?」


「あぁ! ここの風呂すごいんだぞ。めちゃくちゃ大きい!」


「温泉みたいなことですかね……」


「効能とかはないらしいから、銭湯に近いかな」


「あ、温泉は温泉であるんですか」


「ハンレルの北の方は温泉の街だぞ。お前も入ってきたらどうだ? 他の宿だとシャワーだけっていうのも珍しくないからな。ゆっくりできるうちにしておけ」


「そうですね……。入ってこようかな」



 アリアさんは、手首にいつもの髪留めをつけ、きちんと整えられた布団の上に座ると、タオルで綺麗な金髪を拭き始めた。



「……次、行く場所のことなんだが」


「あぁ、まだ全然考えてなくて。どうしましょうか? 結局ディランさんの情報もありませんし」


「とりあえず今日、このあとギルドに行こう。以来完了の知らせがまだ出来てないだろ?」


「あ、そうですね」


「それでそのとき……クラーミルに連絡を取ってもらおうかと思うんだ」


「クラーミル……前、行くはずだった国ですよね」



 アリアさんは頷くと、手首につけた紫の蝶を見つめる。



「ハンレルで、まだ行ってない街もたくさんあるが、ディランはきっとここにはいない。私が行きづらい場所にいるはずだ。たぶん……私に会いたくないんだ」


「それは……」



 それは分からない、そう言おうとしたけれど、だとしたらどうしてあのとき、アリアさんに会わなかったのか……。



「クラーミルは、私の立場としても、立地としても行きづらい。だから、きっとそっちの方に向かったと思う。

 前にも言ったかもしれないが、ハンレルは山と海に囲まれている。クラーミルとの国境も山だ。越えるよりは、貰った船で行く方が楽だろう。船で行くなら、連絡が必要だ」


「…………」



 ちょっと、考えた。クラーミルは、昔対立していたという国だ。マルティネスは今はあんな感じだし、もしかしたら良くないイメージを持たれているかもしれない。


 でも……アリアさんはそれ以上に、ディランさんに会いたいんだ。だから、こういう案を出している。



「……どう思う? やっぱり、リーダーの意見は聞いておくべきだと思ってな」



 僕がUnfinishedのリーダーだから。それもあるかもしれない。でも、アリアさんが僕に聞いているのは、きっとその向こうにある質問の答えだ。



「……良いと思いますよ。

 それに、僕は仲間が傷つくようなことにはしませんよ、リーダーとして」


「…………」


「そろそろ、二人も起こしましょうか。僕もちょっとお風呂浸かってくるんで、そしたらギルド、行きましょう!」


「あぁ」



◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈



「クラーミルか……。いいだろう、連絡を取ってやる」



 ハルさんは僕らに報酬の金貨10枚を渡しながら言った。ギルドに来る前、僕とアリアさんはポロンくんとフローラに次の予定を伝えた。二人とも概ね賛成してくれたので、予定通りギルドに来たわけだ。

 僕らが来ると、すぐにギルドマスター室に通され、ハルさんに会うことが出来たのだ。



「あちらのギルドマスターは皇族とも繋がっていたはずだ。言われなくてもそうするだろうが……一言二言、声をかけておけ。

 船の方はギルドが所有している港がある。そこのスペースを貸してもらうように言っておこう」


「ありがとうございます、助かります!」


「それと、少しお前らのギルドカードを貸してくれ」


「……え、はい」



 僕らは唐突に言われたことに少し戸惑いつつも、カードをハルさんに渡した。



「えっと……おいらたち、何か悪いこととか、した?」


「してないと思うけど……してません、よね?」


「心配するな。悪いようにはしない」



 ハルさんはそういうと、後ろの、よく分からない機械に僕らのカードを乗せる。それから少し振り向き、僕に訊ねる。



「パーティー名……決まったのか?」


「あ、Unfinished、です」


「……字が分からん。悪いが、その机の上にメモがある。書いてくれ」



 僕がそれを書いて渡すと、ハルさんはそれを見て、機械を操作する。そしてほんの一分も経たないうちに、僕らにカードを返した。



「……あっ」



 受け取ったカードを見ると、ランクがCからBに上がっているのに気がついた。それに、白地のカードに、『Unfinished』とパーティー名も刻まれているのだ。



「今後、こういうことはないぞ。なにせ、BからAに上がるのは至難の技だ。相当のことがなければ、大体の冒険者はBで終わる。パーティー名は入れる決まりだったから、入れただけだ」


「あ、ありがとうございます!」


「それと……」



 ハルさんは振り向き、僕らをじっと見ると、こんなことを言うのだった。



「クラーミルには、お前たちが会っていない個性の塊's、最後の一人がいるはずだ。訪ねてみればいい。きっと、お前らが欲しい情報を持っている」


「…………」



 最後の一人、個性の塊'sリーダー、ジュノン。

 それから三日後、クラーミルと連絡がとれたとハルさんから告げられ、僕らは二日間船に揺られることになった。

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