協力依頼

 僕らはそっと、大人たちのあとをつけた。

 ポロンくんと他の子供たちを連れた大人たちが向かったのは、洞穴のような場所だった。



「……ポロンが言ってた通り、あまり人数はいなそうだな。洞穴には入れて50人程度だな。売るために集めたやつの方が多いから、売人は10前後か」


「洞穴の奥が深いってことは?」


「ないな。この辺の地盤はあんがい柔らかい。火山灰で出来ているからな。大きな洞穴なんて、人工で作るにもなかなかだし、目立つ。脆い壁を広げるよりは、小分けで何回か売った方が効率的ってことだ」


「……レベルは、みんな80~85くらいですね」


「私たちだけであれを相手するのは、さすがにやっかいだな」


「……なら、」



 ポロンくんたちが奥に連れていかれる。本当に本当に心配だったが、僕らは踵を返し、ハンレルの王都へと戻るのだった。



◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈



 僕らはそのあとすぐ、ハンレルのお屋敷へと向かった。一度あいさつをしているので、わりとすんなり通してもらえた。



「アリア姫! どうしたんですか? 急に」



 僕らが来たと言うことを聞いて、一番に飛び出してきたのはライアンさんだった。ライアンさんは嬉しそうに、しかし不思議そうに僕らを見たあと、何かに気がついたように僕らに視線を向けた。



「あれ……? そういえば、ポロンくんの姿が見えませんね?」


「……ライアン様、あなたにひとつ、お願いしたいことがあります。私たちの力だけではとてもではありませんが賄えません。どうか、助けてください」



 アリアさんがそういい、僕らが頭を下げると、慌てたようにライアンさんが言う。



「えっ!? あ、あぁもちろん! 僕たちの出来ることならば何でもしますよ!

 それで、いったい何があったんですか?」



 僕らがそれを話そうとしたその時、ライアンの後ろから先帝が歩いてきた。



「おお、遅くなってすまんのお。年寄りは準備もモタモタしておってな」



 そう言いながら、流れるように懐から一振りの短刀を抜き、僕らに向かって投げる。

 それは僕らをギリギリのところで避け、後ろの壁に突き刺さる。



「うえっ?!」


「な、何をするのですか! アリア姫たちはなにも――」



 そんなことを言っている間に、刀が突き刺さったその壁がくるりと回り、何かが飛び出し、先帝に襲いかかる。

 その刃を帯刀していた太刀を抜き迎え撃つ。


 刀を押し返し、そうして、ある程度の余裕を先帝が持ったあと、不意に敵が姿を消した。そして現れたときには――



「はい、負けー」



 先帝の後ろで刀をその首に突きつけ、にっこりと微笑むおさくさんの姿があった。



「お、おさくさん!?」


「どうしておさくと先帝が……」


「いやぁ! 参った参った! 今回も降参じゃ」



 両手をあげ、先帝が降参を宣言するとおさくさんは刀を首元から離し、鞘に収めた。



「いやぁー、やっぱりさ? 土地代かかってると本気でやらなきゃいけなくなるよねぇ」


「……え、二人は、一体どういう……?」



 すると、おさくさんがちょっと離れて刀を素振りしながら言う。自由だ。



「魔王倒したあとにさー、私はこっちに来たんだけど、魔物倒してるとこ先帝に見っかってー、手合わせの相手になって欲しいって言われたんだよね」


「そうなんですか?」


「そうじゃ。腕の良し悪しに年は関係ない。おさく殿は腕は相当よかったからな。

 一度は断られてしまったが、なんだか馬があってなぁ。話をしているうちに、商売をしたいとか言い始めたから、ならば週一で手合わせをし、わしが負けている間は土地代をタダにしようと言ったんじゃ」


「……大丈夫なんですか、それ。森なんとか学園みたいになりませんか?」


「わしはもう政治から離れているしのお。土地は国有地じゃなくてわしの私有地じゃ。問題はなかろう」


「今のところ私の69連勝中だぜ!」


「うわぁ」


「して、お願いと言うのは?」



 あぁそうだった。忘れてた。

 こっちの方がいいだろうと先帝がお屋敷の奥へとつれてってくれた。先帝のお部屋らしい。僕らが部屋の椅子に腰掛けると、先帝がお茶を入れてくれた。



「ありがとうございます」



 あっ、緑茶だ。それを見たおさくさん――なぜか普通についてきてる――が懐をごそごそやりながら言う。



「あっ、そーだ! 玉露仕入れてきたんだー! また今度お茶会やりたくて!」



 玉露!?



「おお、いいのぉ。大福でも買ってくるか」



 大福!?



「……ウタ?」


「あ、えっと、それでお願いって言うのは……僕ら、人身売買の現場を見つけまして」


「……ほう?」



 明るい雰囲気が変わる。一転して真剣な瞳になった先帝は、僕をじっと見て話の続きを目で求める。



「今、ポロンくんが向こうに入り込んでくれています。でも、相手のレベルと人数的に、僕らだけじゃ対応できないんです」


「僕が行きますよ!」



 ライアンさんがばっと手をあげるが、半分無視してアリアさんが言う。



「なので、ハンレルの方から増援をお願いできないかと。30~40人ほどが未だに捕まったままのはずです」


「僕が行きます!」



 すると先帝は、ゆっくりとうなずいて、立ち上がる。



「なるほどのぉ……それで、相手のレベルはどれくらいなんじゃ?」


「80~85くらいかと」


「僕が!」


「……ふむ、それならばわしが行こうか」



 ……え?



「え、先帝が……ですか!?」


「そうじゃ!」


「いやいや、それはさすがに! 問題があるんじゃないですか?」


「問題などなにもない! 国民が捕まっているのならば国の長が行くのが当たり前じゃろう!」


「僕が行きますって!」


「お前は黙っておれ。おなごにも勝てぬようなひよっこが」


「うっ……」



 それはライアンさんかわいそう……じゃなくて! そーじゃなくて!

 た、確かにおさくさんとまともにやりあってたところを見ても強いんだろう。強いんだろうけど……! あっ、おさくさん!



「おさくさん!」


「気が向いたら行くねー!」



 おさくさんはそう言うと部屋を出ていく。



「おさくさーーーん!!!」



 結果、増員・ハンレル先帝。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る