潜入調査
「はぁ……はぁ…………ったいなぁ、もう……」
おいらは地面に転がりながら、蹴られまくった腹を撫でた。……って、触るだけで痛いや。
「どうだ? 何か話したか?」
「アニキ……いえ、それが……こいつ、どれだけ痛めつけてもなにも言わねーんです。出荷することを考えるとこれ以上は出来ませんし」
おいらはその会話を聞いて、心の中でほくそ笑んだ。
キルナンスにいたとき、拷問じみたことはたくさんあった。裏切りが一人出ると、その周囲に居座ってたやつらがみんな呼ばれて、痛め付けられて、情報を吐けるだけ吐かせる。
良い情報を持ってようが持っていなかろうが、理不尽に平等に、ズタボロにされる。
……経緯はどうであれ、おいらは痛みには強い。殴られ蹴られぐらいはへっちゃらだ。こんなんで音をあげるようじゃ、盗賊なんてやってられないやい。
(……盗賊の時、人、殺さなくてよかったなぁ)
今まさに暴行を受けているというのに、おいらの頭はかなり冷静だった。良くも悪くも『普通じゃない』なと、自分のことながら思った。
人を殺さなくてよかった。今まで何度思ったか分からない。もしも誰か一人でも殺していたら、おいらは、アリア姉とウタ兄とフローラの仲間にはなれていなかった。
ひとりぼっちのままだった。
ぬくもりを知らないままだった。
いや、ぬくもりは知らないんじゃなくて、忘れていたのか。
「どれだけ殴ってもなにも言わないのか?」
「それどころか、悲鳴の一つさえ……」
「ほう……どうやら、ただのガキじゃねーみてぇだな」
……まずい。
ここでやっと気がついた。あいつらが『鑑定』を持っている可能性を忘れていた。もしおいらのステータスに『元キルナンス』とか『窃盗』とか見つけたら、おいらたちが、こいつらの手法を知っていたことになる。
これが作戦だって気づかれる。
ど、どうしよう……でも、偽装とかそんなスキル持ってないし、何より時間がない。もうあいつがこっちに向かってきてる。どうしよう……どうしよう…………。
そのときだった。
『ポロンくん、ポロンくん、聞こえますか? 私は今、あなたの頭の中に直接話しかけています……』
「っ?!(な、なんだ!? 頭の中に声が……!)」
『いいですか? 「ムーディーフライ、学歴を修正する」と唱えるのです』
「ムーディ…………え? なんだよその変な名前。誰だよ!」
思わず小声で突っ込んでしまった。が、あいつらにはギリギリ気づかれていないようだ。よかった。
『突っ込みの素質がにじみ出てるねぇ。いいよー! そういうの大好きだよー!
……あー、こほん。「ムーディーフライ、学歴を修正する」ですよ』
なんだよムーディーフライって。本当に誰だよ……。ってかこの声……おさく、だな。大丈夫かよムーディーフライ。
そうは思いつつも、このピンチを乗り越える手段が他に思い浮かばないおいらは、それ試すしかなかった。
「……む、ムーディーフライ、学歴を修正する」
超小声で唱えた瞬間、男と目が合う。体の中に視線が突き刺さって、痛い。というかさっきので一体何がどうなるんだよ……。
「……ふーん、別に変わった称号やスキルはないな。The平均。って感じだ。ならば純粋に痛みに強いのか」
な、なんかよく分からないけど、そのままスルーしてくれた。よかったぁ。
「にしてもどうします? こいつから情報が得られないんじゃ、マルティネス・アリアのことだって分かりませんぜ?」
「まぁいいだろう。仲間が捕まってるとわかりゃ、勝手にこっちに来るだろ。こいつは他のやつらと一緒のとこに押し込んでおけ」
……よし。
おいらはそのあと、薄暗い、ちょっと大きめの部屋に連れてこられた。乱暴に押し込まれ、扉を閉じられる。手は後ろで縛られていて痛い。
「……ファイヤ」
ささっと燃やして、両手を自由にすると、おいらは部屋を見渡す。中にはたくさんの人。今は夜なんだろう。ほとんどの人が寝ていて、おいらに気づいていない。気づいていても、なにも言わないでうなだれるばかり。おいらと変わらないくらいの年の人ばかりだった。
閉じられた扉には鍵。出ようと思えば出られるけど……それよりも、他の人たちの中に、メロウとサイカを見つけるのが先だ。それに、みんなの縄を解かないと。
おいらがみんなのほうを向くと、一人の女の子がこちらに駆け寄ってきた。手は同じように縛られていて、走りにくそうにしながらも、おいらの顔を見てちょっと驚いた感じの顔をした。
「あ、あのときのお兄ちゃん!?」
「メロウ! よかった、怪我してない?」
「し、してないよ!」
「うん、他に怪我してる人はいる?」
「いないよ。……お兄ちゃん、怪我してるの? 痛そう…………」
言われて、おいらは自分の体を見た。……うーん、痣とかひどいなぁ。でもこれくらいなら、すぐに治る。折れてとかはなさそうだし、アリア姉たちと合流したら回復魔法かけてもらおう。
「おいらは大丈夫だよ、メロウのお兄ちゃんはここにいる?」
「うん! いたよ。あのね、お兄ちゃんと一緒だったから、寂しくなかったの! 今はお兄ちゃん寝てるんだけど、私、眠れなくって……」
おいらはメロウの縄に手をかけると、その結び目をほどいた。火を使ってもよかったけど、火傷する可能性を考えたら、こっちが安全だ。
「大丈夫、おいら強いからさ!」
「ほ、本当?」
そうだと思って、おいらはメロウに言った。
「悪いけどさ、お兄ちゃんに起きてもらえるかな? おいら、誰がメロウのお兄ちゃんか分からないからさ」
「うん」
メロウは奥のほうに駆けていく。それについていくと、メロウは一人の男の子の肩をゆすっていた。
「ん……メロウ? 何かあった?」
「あのね、このお兄ちゃんがね」
おいらは男の子を見て言った。
「サイカ……だよな」
「え? そ、そうだけど……」
「おいらもサイカと同じ、冒険者なんだ。そのうち仲間がここに来る」
「…………」
半信半疑な感じでおいらを見ながら、サイカは話を聞く。
「……それでさ、一つ、お願いがあるんだい」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます