おさく!

「あのさー? 本当にいらないと思う? 位置情報機能」



 僕らが店を出ようとしたとき、おさくさんがそう声をかけてきた。僕らはそれに振り向くと、ちょっと困ってしまって、顔を見合わせた。



「まぁ、ウォークマ……いや、歩くマンにはいらない機能かなぁって」


「そうだなぁ。音楽を聴いたり録音したりするだけだもんな」



 まぁ6分だけどね。



「そっかぁ。テラーには好評なんだけどなぁ。『迷っても帰ってこれる! ありがたい! 方角わからなくてもなんとかなる!』って」


「いやいや、テラーさん『重度の方向音痴』じゃないですか!」


「普通の人にはいらないかぁ。よし! 削除しよう! 次のモデルから!

 ご意見ご感想、ありがとうございましたっ!」



 そういえば、と、僕は思う。僕らは僕らの意見とか情報とか教えてるわけだし、なにより『歩くマン』っていうちょっとよく分からないけど、確実に品質以上のお値段のもの買ったばっかりだし、今なら、おさくさんのことを教えてもらえるかも?



「あの、おさくさん」


「なんだい少年!」


「おさくさんのステータスって、教えてもらえませんかね?」


「知ってどうするの?」


「いや……どうってわけじゃないですけど、おさくさんだけまだ知らないままなので」


「あ! おいらも聞きたいことある!」



 僕に便乗してポロンくんもそう口を挟む。



「ラミリエでキルナンスが襲撃したとき、そのタイミングっていうか、時間? 分かってたって聞いたぞ!

 キルナンスは色々雑だったけど、情報の管理は徹底してたんだい。サワナルでのこととかもそうだけど、どうやってそういう情報仕入れてんだ?」


「あっ! あと、いきなり出てきていきなり消えますけど、それ、なにか魔法使ってるんですか? 私、そういうのは詳しくなくて……」



 思えば、おさくさんのことについては、他の個性の塊'sとは違ってほぼ知らない。いつもふらっと現れてふらっと消えてしまうからだろう。神出鬼没とはまさにことのことだ。

 僕らの言い分を聞いて、おさくさんはちょっと考えて、「あっ!」と思い付いたように顔をあげた。



「私とバトって」


「勝てるわけないじゃないですか!」



 なんか、デジャブだ。でも、やっぱり無理だ! 勝てるわけないよ! 塊'sだもん!



「えー、じゃーそうだなぁー、うーん……」


「そんなに情報明かしたくないのか?」


「ミステリアス感消えるじゃーん」


「そこ!?」


「じゃー分かった! ステータスは教えたげる! 他はシークレットで! 鑑定していいよ!」


「やった! じゃあ鑑定!」




名前 おさく


種族 人間


年齢 22


職業 村人(侍)


レベル 97


HP 70000


MP 19850


スキル アイテムボックス・暗視・剣術(超上級)・体術(超上級)・初級魔法(熟練度10)・炎魔法(熟練度10)・水魔法(熟練度7)・氷魔法(熟練7)・風魔法(熟練度7)・雷魔法(熟練度8)・土魔法(熟練度6)・光魔法(熟練度6)・闇魔法(熟練度7)・回復魔法(熟練度5)


ユニークスキル 陰陽進退・陰陽進退替技・侍の心得・それは残像だ・火事場の馬鹿力・真剣白羽取り


称号 元最強の侍・ぼったくり商売・悪のり・地獄耳・個性の塊's




「うあっ!」


「ど、どうかしましたかウタさん!」


「称号に『ぼったくり商売』ってある……HP70000って……」



 久々に塊'sを鑑定したからか、打撃がでかい。こう、ズドンとくる……。

 他、スキルを鑑定してみた結果、こうでした。



陰陽進退……対象(1~5人まで)に4連続大ダメージ。剣術の発展スキル。


陰陽進退替技……陰陽進退の効果に加えて相手を一定時間麻痺状態にする。発動時間は5分。剣術の発展スキル。


侍の心得……対象一体に7連続特大ダメージ。剣術の発展スキル。


それは残像だ……自身を神速にする。発動時間はMPが続く限り無限。


火事場の馬鹿力……一時的にステータスが10倍になる。自身にのみ使用可。発動時間は5分。連続しての使用可。


真剣白羽取り……相手の攻撃を確実に受け止める。体術の発展スキル。



 これでこそ個性の塊's。強いですねー……と、言おうと思ったとき、おさくさんはこんなことを言った。



「あっ! そうだ! 世界を広げにいこう!」


「…………ん? はい?」


「しばらく世界広げてなかった! どうしよっかな、テラー誘ってくか!」



 テラーさんと一緒に世界を広げに? え、どゆこと……?



「アリアさんって、今いくつ目の世界にいるの?」


「……えっ……と?」



 ダメだ! アリアさんも完全に困惑している!



「ほら、ほら! 11、12を過ぎたくらいから目にする世界があるじゃん!? すごい人だと8個目の世界にいたりするやつ! 平均は3~5くらいのABCZ?」



 さすがにこれはついていけない。そう僕が諦めたとき、アリアさんが手を叩いた。



「あの世界か!」


「分かったんですか!?」


「フローラ! あの世界だよ! お前がこの間初めてみた世界! マルティネスで一緒に見ただろ?」


「私が初めて……? あっ! 分かりました!」


「全然わからない……」


「んで、アリアさんってなんこめ?」


「それ言わなきゃダメなのか? 個人情報だぞ個人情報」


「ちぇっ。でもね! 前にテラーと世界広げに行ったらね!?」



 困惑し続けてる僕の肩を、ポロンくんがポンポンと叩いた。



「えっとさ、男には分からない世界があるってことだよ。女にしか分からない世界ってのが、あるんだよ、多分」


「きっと?」


「もしかして……って、これは確かなことだからな!?」



 うーん、乙女心? は分からないですなー。

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