歩くマン

 非売品(がらくた)のくだりを完全にスルーされた僕らは、おとなしく商品紹介をされることになってしまった。



「本日紹介するのはー、こちら! そう、みんな大好き『歩くマン』の新モデル!」


「歩くマン?」



 ……まさかそれ……ウォークマン…………。『マン』が英語で残っててよかった。『マン』も日本語になってたら『歩く男』意味はわかるが商品名としては致命的にダサい。いや、歩くマンがいいというわけではないけれど。



「この歩くマン! なんに使う物なのかと言いますと、音楽やその他の音声を録音、またはその音源を購入して、好きなときに聞くことができる機械なのです!」


「へぇー、それはなかなかいいかもな」


「いいんですか?」



 僕が聞くと、意外にも三人ともがうなずいた。



「そもそも、音楽って生物だからな。コンサートとかに行けるお金持ちとかしか、好きなときに好きな音楽を聴くって言うのは難しいんだ」


「そうなんだ」



 僕らはYouTubeとか、ニコニコ動画とか、テレビとかの動画で音楽を聞くことができたし、そうじゃなくてもCDを買えば、その中の曲を聴くことができた。結構恵まれてたんだなぁ。



「でも、録音する機会なんてあるでしょうか? 購入する音源もきっと高い……」



 フローラが言う。確かに、もとの世界でだって、コンサートとか、いこうと思ってすぐに行けるもんじゃない。いい音楽を録音するという機会がなければ、使うことができない。

 それに、音源を買うと言ったって……これを売っているのはあのおさくさんだ。いくらするのか怖くて買えない。



「音源はねー、一曲鉄貨三枚!」



 ……あれ? 安い? わりと妥当なお値段?



「お買い上げ時にお好きな曲一つプレゼント!」


「いいじゃんそれ!」



 デモCDとかそんな感じなのだろう。もとから入ってるよくわからない曲。それが、自分の好きな曲になるというのだ。こんな良い話はない。

 ウォークマンと同じ感じであれば、100曲200曲、余裕で入るのだろう。それならばちょっとした旅の娯楽に一つくらいあっても――



「録音時間は6分!」


「みじかっ!」



 いやいやいや! 6分って! 長めのバラード一曲ぶん!? トイレの神様録音できないじゃん!



「まぁまぁ、歩くマンの更なる機能を聞いてくれ少年」



 どうどうと僕をなだめ、おさくさんは堂々と胸を張りながらいう。



「この歩くマン! 常に位置情報がわかる!」



 ……え、いらない。



「位置情報って、どういうことかって? ふっふっふ、それはだな、今時分が、このグッドオーシャンフィールド本店からどれだけ離れた場所にいるか教えてくれるものだよ!」



 ……え、すごくいらない。

 これにはさすがに、ちょっと上がっていたテンションも下がり、『今回はこれを買うのかぁ』と肩を落とす。



「……ウタ、一応聞く。欲しいか?」


「いらないです」


「『歩くマン』最新モデルは一つ金貨一枚! 買うかなー?」


「さ、さすがに今回は買わな――」


「あ、これ購入得点で、この店の中で好きな武器プレゼントするよ」


「「「「それ単品でください!」」」」



◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈



 ……結果、『歩くマン』を買わされた僕らは、良い武器を探して店の中を歩き回ってた。

 ちなみに、最初に入れる曲だが……。購入可能な音源が『玩具狂想曲』『Magnolia』『ドラクエオープニング』『ザナルカンドにて』『明治チョコレートのCMソング』『マルモリのやつ』という、とんでもない組み合わせだった。

 玩具狂想曲はなんか怖いし、ザナルカンドきれいだし、Magnoliaカッコいいし……。ちょ、聞いたことない人きいてみて! ちなみに僕は『ザナルカンドにて』にしました。アリアさんは『Magnolia』ポロンくんはマルモリのやつ、フローラはドラクエのオープニングだ。カオスである。


 ……ちなみに、武器を選んでる僕らの後ろで、おさくさんはニコニコしながらこちらを見ている。



「……あのー」


「…………ん?」


「いや『ん?』じゃなくて。なんですか?」


「べっつにー?」


「……まぁいいや。みんな、どんな武器探してるの?」


「おいらはナイフだな」



 ポロンくんはアイテムボックスから、使い古して少し錆びているナイフを取り出した。



「やっぱ、使いなれてるのが良い」


「そうか。フローラはどうするんだ?」


「うーん。迷ってます。あ、でも! こんなの見つけたんです!」



 そういいながらフローラが見せてきたのは少し長めの杖だった。緑色の宝石のようなものもついていて、綺麗だ。



「これ使うと、MPが少し加算されるみたいです。それに、土魔法や風魔法の威力も倍になるらしくて」


「すっごく使いやすそう! 僕どうしようかなぁ……。アリアさん、決まりました?」


「私か? 私は、この剣にしようかと思ってな」



 アリアさんが握っているのは細身の剣。光を黄金に反射して、キラキラと輝き、持ち手のところにある小さな宝石からは魔力も感じられた。



「氷魔法と光魔法。二つに特化しているんだ。その二つに関しては、この剣に魔法を宿せば飛距離が三倍になる。コントロールもしやすくなる」



 そこで、不意におさくさんが声をかけてきた。



「正直に言うとさー? この間渡した剣? が、ウタくんに一番あってると思うんだよねー」


「え、じゃあ僕どうすれば……」


「こんなものがありまして」



 おさくさんが取り出したのは、僕が今着ているのとほぼ同じデザインのシャツだった。



「……これが?」


「持っててー」



 言われるがままに、シャツを広げた状態で持つと、おさくさんが勢いよく剣をそのシャツに突き刺した。



「あっぶな! 刺さったら大変……あれ?」



 ……シャツに傷一つついていない。とっても綺麗だ。あれ? なんで?



「これは、シャツなんだけど、限りなく物理攻撃に強いシャツ。物理攻撃をほぼ無効化してくれる。つまりは防具なのさ! おまけの品はこれでもいいよ?」


「それでおねがいします」



 こうして僕らのお買い物(?)は終わった。

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