作戦は、大事ですね

「……で、どーすんだよ。倒すっていったって、作戦もなにもたてようがねーよな?」



 ポロンくんが言う。僕らは今、部屋に戻ってきて、サラさんを襲った人をどう倒すかについて作戦会議中だ。

 しかし……相手の力量もなにも分からない。サラさんがどれくらい強いのかだけでもわかれば楽だったが、あいにくサラさんのステータスを知っている人は、城のなかには一人もいなかった。


 本人に聞こうにも意識は戻ってないわけだし、そもそも教えてくれるとは思わない。相手の情報は『おそらく人間であること』ということと『銃を使う』ということと『サラさんよりも強い』ということだけだ。



「なにか、すこしでも情報があればいいんだけどなぁ」


「ですね……でも、誰も分からないのに情報もなにもないですね」


「私たちが宛にできる情報って、サラさんくらいでしたもんね……」


「「「「うーーーーーん……」」」」



 みんなで腕を組んで考え込む。が、考えたってだけでいい案が降ってくるならなにも変わらないのだ。作戦をたてようにない。……どうしたものか。



「……いっそのこと、ごり押すか?」


「ごり押す?」



 唐突にそんなことを言い出したアリアさんに、フローラが頭の上にはてなを浮かべる。



「ほら……ポロン、お前、短期間ゴリラまだ使ってないだろ?」


「あっ、うん。使ってないよ!」


「そいつに向かってゴリラどーん! ってやって、あとはウタが魔法乱射する」


「何で僕ぅっ?!」


「おとこだろ?」


「だからぁ! というか、男だと思ってるなら部屋別々にしてくださいよぉ!」


「今それ言うのかウタ兄!」


「……ふっ、そいつぁ……出来ねえ相談だな」


「アリア姉もなんかキャラ変わってねーか!?」


「何でですか親方! ……やはり、僕のことを一人前だと認めてくれていないのですね? そういうことでしょう、親方ぁ!」


「親方って誰だ!」


「待ってください!」


「フローラ! おいらを助けて――」


「親方はなにも悪くないんです! 悪いのは全部、私なんです!」


「……なに?」


「急な展開やめて! ついていけないから! というかもうすでについていけてないから!」


「実は私……病気なんです」


「シリアスへの入り口!?」


「……よせ、フローラ」


「私の入院の費用を稼ぐには、親方一人のお金じゃ足りなくて」


「フローラ!」


「だからっ……!」


「ストォーーーーーーーップ!!!」



 ……ついにポロンくんに終止符を打たれた。あーあ、結構楽しかったのに。



「ねぇなにこれ! なにこれ! 意味が分からないよ! どうしたら急にこんなのが出来るの!?」


「いやぁ……なぁ?」


「ねぇ?」


「ねー?」


「なんだよその会話! というか、おいらたち今、結構大事な話し合いしてるんじゃねーの!? 違うの!?」


「ポロン……」



 アリアさんが、ポロンくんの肩に、手をポンとおいた。



「……な、なんだよ」


「確かに、今は大変なときだ。ふざけついる場合じゃない。それは分かっているさ」


「ならほら、もうちょっと」


「でも、ずっとしけた雰囲気のまんまってのも、よくないだろ?」


「……そりゃ、そうかもしれないけどさ…………」



 ぷぅ、と、ポロンくんがふくれる。ちょっとかわいい。そんなことを思ってたら、アリアさんが声をあげた。



「ところで、だ。私は今のでいい考えが浮かんだぞ!」


「今のでですか!?」


「あぁ、今のでだ!」



 今のやり取りのなかに、作戦に繋がるようなこと、あっただろうか……?


 …………いや、なかった。絶対なかった。どこで思い付いたのそれ。大丈夫なやつ?



「まぁ、ちょっと聞いてみろ」



 アリアさんが手招きをする。三人で近くによって、耳を貸す。



「ゴニョゴニョゴニョゴニョ……」


「…………」


「…………」


「…………」



 ……お、



「「「おおおおおおおお!!!」」」


「な? な? いいだろ? いい作戦だろ?」


「なるほど、その手がありましたか! 私全然思い付きませんでした! さすがです! アリアさん!」


「まさかあのやり取りでこれが思い付くなんてなぁ……関連性があるのかないのか知らないけど、とりあえずはアリア姉グッジョブ!」


「下らないやり取りも、ときには、大事なんですねぇ……。でもよかった! これで情報が手に入りますよ!」



 何はともあれ、僕らの一番の課題である、『情報を得る』に関しては、ほぼほぼクリアだ! ……いやまぁ、あの人が協力してくれたらの話なんだけど。



「にしても……もう少し早く気づいてればなぁ」


「しょうがないですよ。それに……アリアさん、飛び出していっちゃってたんで」


「わ、悪かったって! もうしないから!」


「本当かよ」


「ほ、本当だよ」


「本当ですかー?」


「本当だって! ……多分」


「きっと?」


「もしかして?」


「……アリアさん、不確かですよ」


「不確かにしたのはお前らだろうがっ! ――っ、あー、もう! 寝る! おやすみ!」



 アリアさんはそう叫ぶと、布団をバサッとかぶって、その中に潜り込んだ。



「……じゃー、僕らも寝ますか」


「だな。おやすみ、フローラ!」


「おやすみなさい」



 部屋には、ダブルベッドが二つ。アリアさんとフローラ、僕とポロンくんで寝ている。

 僕が毛布を被ると、ポロンくんがポツリといった。



「……明日は、いなくならないでくれよ?」


「……うん、おやすみ」


「おやすみ」

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