似た者同士
「へぇ……なるほど、珍しいな」
ここは宿の僕とポロンくんの部屋。今はアリアさんも一緒で、明日のことやフローラのことを話している最中だ。
「珍しい……? あの、『表裏一体』や『転』っていうスキルがか?」
ポロンくんがそう訊ねる。実際、僕にとっても疑問だった。ポロンくんの『窃盗』や、カーターの『水龍』なにより、個性の塊'sの個性的すぎるスキルをいくつも見たあとだ。珍しいってほど珍しいとは思わない。
……まぁ、『転』の方にフローラが反応していたのは確かだけど。
「ん? いや、普通のスキルの方だ。光魔法と闇魔法、両方持っていただろう?」
「そういえば……そう、ですね。それがどうかしたんですか?」
属性魔法をたくさん持っている人は少なくない。むしろ、ほとんどがそうだと言えるだろう。何が珍しいのだろうか?
「光と闇は、反発するんだ」
アリアさんが言う。
「魔法使いとか、魔法に特化した職業だったり、レベルが相当高ければ光と闇、両方を操ることも可能だろう。
だが、実際はすさまじく難しい。反発し合う二つのスキルを体の中で成長させることがまず難しい。
だから、普通は闇を持っていたら光を持っていなくて、光を持っていたら闇を持っていないんだ」
……なるほど。まさに表裏一体。だから珍しいというわけだ。
「ところで……その、光と闇、どっちも持ってることって、なにか悪いんですか?」
「どうしてそう思った?」
「いや、なんとなく、アリアさんの表情が暗かったような気がしたので。そうなのかなーって」
するとアリアさんは、ふっと目を逸らし、僕らに言う。
「……モーリスを、覚えてるか?」
「え? あぁ! もちろん覚えてるよ! キルナンスの四天王の一人、だろ?」
僕もうなずく。『陰影』を使いこなした闇の使い手。
ポロンくんが機転を利かせてくれて、なおかつアリアさんがアイリーンさんから伝授されたジャッジメントがあった。だからこそ、あそこを突破することが出来たんだ。
「あいつは……なんていうか、黒かっただろう?」
僕はうなずく。確かに、皮膚以外のほとんどが真っ黒だった。そして、皮膚だけが異様なほどに白かったのだ。
「闇属性の魔法は、体に影響を与えやすいんだ。それが表に現れた結果、モーリスはあぁなった」
「……つまり、フローラも?」
「一概にそうとはもちろん言えない。テラーだってアイリーンだって、なかなかの闇魔法の持ち主だが普通だろ?
……逆に、可能性が0でないのもの事実だ」
そうは見えなかったけどなぁ。というのが、僕の正直な感想だった。
確かに、テラーさんが言っていたように笑顔が堅い印象はあったが、それだけだ。
「ただ、フローラは光魔法も持っている」
アリアさんが言う。
「反発する光魔法を持っていると言うことは、闇魔法の闇に抵抗しようとしているということだ。闇に飲まれてしまわないように」
「…………」
ふと、ポロンくんがぽつりと呟いた。
「フローラって……なんか、おいらと似てるや」
「えっ?」
「だって、フローラも、闇に飲まれないように戦ってるってことだろ?
おいらだって、キルナンスに飲まれないように戦ってきた。その証拠に、おいら、どんなこと言われても、人殺しにだけはなってねーもん!
同じようなおいらたちなら、仲良くなれるかな……?」
ポロンくんの言葉に、僕もアリアさんも、思わず笑ってしまった。バカにしたわけではない。むしろ、その逆だ。
「な、なんだよ! なんかおいら変なこと言ったかよ!」
「ぷるっ! ぷるぷるっ!」
「え? スラちゃん、なんだ?」
「あっはは! そうだね! スラちゃんの言う通りだよ」
「え?」
僕はぷるぷるしているスラちゃんを撫でて、ポロンくんに解説する。
「スラちゃんが、『二人は嬉しくて笑ってるんだよ』って。ねー!」
「ぷるるっ!」
「……そうなのか?」
ポロンくんが視線をやると、アリアさんは大きくうなずいた。
「そうだな。……気づいてないかもしれないが、初めてあったときと比べて、良い意味で、お前は変わった。
自分のことだけで精一杯だったから仕方ないだろうが、お前は、今、他人のために行動しようとしているんだ。それが嬉しくてな」
そう。初めてあったとき……ポロンくんは、僕らを脅して、お金を盗ろうとしていた。
それはあくまで、生きていくためであって、仕方がなかったとは理解している。でも、自分のために他人を攻撃しようとしていた。
今はもう違う。……ポロンくんは、僕らの仲間として、一人の人間として、何が最善かを考えて行動するようになった。
「それに、ポロンくんが見せる、ちょっと子供っぽいところも発見したしね。そういうのがなんか、嬉しいんだ」
馬車の中で寝たまま起きなかったり、不安そうな顔をしたり。そういう些細なことが、本当に嬉しいし、ほっとした。
すると、ポロンくんが顔を赤らめて言うのだ。
「だっ、それは……それは、だって、ウタ兄とアリア姉が……助けてくれた……から、で…………」
語尾が消え入りそうなほど小さくなっていたが、僕の耳にはしっかりと、その音が聞こえてきていた。
「…………」
「…………」
「な、なんだよ! なんか言えよ!」
「ウタ、どうしよう。今、猛烈に嬉しい」
「ごめんなさいアリアさん。僕も同じです。なので、思考回路がショートしました」
「ショートすんなよ!?」
そして、色々迷走したあと、僕らはポロンくんをしっかりと真正面から見た。
そして、
「ポローン!」
「ポロンくーん!」
「ぷるるるー!」
「うわっ! ちょ、抱きついてくるなよ! や、やめろ! やめろって!」
あまりの嬉しさにポロンくんを二人でぎゅーっとした。……何だかんだで、僕らはもう、お互いのことが大好きなのだ。
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