風の使い手 ローレン

 アイリーンさんの千里眼には、どんな細工も効果がないようだ。教えてもらった場所には、五階建ての塔がそびえ立っていた。



「……ここか」


「いよいよですね」


「…………」



 そして、扉の前まで行くと、そっと耳を澄まし、それから、勢いよく扉を開く。

 中は大広間のような造りで、奥に螺旋階段がある。五階建てのわりには天井が高く、4mほどもありそうだ。



「あの螺旋階段から上に昇れそうだな」


「それじゃあ、あそこからさっさと昇って」



 と、そのとき、扉が勢いよくしまった。



「……え、いや、マジかマジかマジか」



 うん、よくあるけどね? 急にドアが閉まって閉じ込められるイベント。でもさ? こんなこと現実で起こらなくてもいいんだよ!?

 慌ててガチャガチャやるが、やはりというかなんというか、開かない。逃がしてはくれなさそうだ。



「これはこれは……皇女様と裏切り者くんじゃあないですか」


「っ、誰だ!」



 耳をつく大声に振り向くと、そこには一人の、黒い髪の男性がたっていた。黒いタキシードのようなきっちりした服を着て、青い目を細め、くつくつと笑っていた。



「誰だとは失敬な。知っていてここに来たのでしょう?

 私はローレン。風の使い手にしてキルナンス四天王の一人であり――」


「三時のおやつ、からの鑑定!」


「え、ちょっ?!」



 ローレンがなにかぶつぶつと言っていたが、どうやら中身はすっからかんで聞いていても意味がなさそうだったので、僕はさっさと自分とアリアさんとポロンくんのステータスを10倍にし、ローレンを鑑定する。

 いやー、中ボスの台詞無視して戦闘開始とか、僕も肝がすわったなぁ……。それもこれも、ドラくんのおかげだよ。ありがとう。




名前 ローレン


種族 人間


年齢 36


職業 売人


レベル 60


HP 7500


MP 3900


スキル アイテムボックス・剣術(中級)・体術(上級)・初級魔法(熟練度6)・風魔法(熟練度8)・土魔法(熟練度5)・光魔法(熟練度3)・闇魔法(熟練度3)・暗視・偽装


ユニークスキル 疾風


称号 キルナンス四天王・風の使い手・ジェントルマンかもしれない




 一つだけつっこませろ! かもしれない。ってなに!? かもなの!? なに、願望!?


 ……よし、落ち着こう。落ち着いてから偽装と疾風を鑑定する。



偽装……あらゆるものを偽装できる。場所、ステータス、外見も可。ただし自分よりもレベルが高い者には無効



 なるほど。ということは、この塔を隠してたのはやっぱり『偽装』ってスキルで、それはこの人がやってたっぽいね。よし次。



疾風……風を操り、空中で自由に行動が可能になる。突然の状態変化に弱い



 空飛べるってことだね! よかったぁ! ジャッジメント風バージョンとか洒落になんないからさ! となると、ローレンが疾風を使った瞬間が狙いどころかな。

 とまぁ、一通り鑑定していると、慌てたようにローレンが捲し立ててくる。



「こ、こういう戦闘前のあいさつはちゃんと聞くものだよ少年! ……ま、まさか、私が君のことだけスルーしたから怒ってるのかい!?」


「え? いや違いますけど」



 単に聞いても意味無さそうだなーって思って。



「ふっふっふっ……ならば見るがよい! これが風の使い手、ローレンの力よ! 疾風!」



 ゴオオッと音をたて、ローレンが空に舞い上がる。急に襲いかかる風圧に吹き飛ばされそうになった。が、その瞬間、ポロンくんの声が聞こえた。



「ウォール!」



 すると、目の前に土の壁が現れ、風圧から僕を守ってくれた。ポロンくんの方を見ると、すこし目をそらされた。



「……ちゃんとしろよ。おいらだって、自分の身守るのに必死なんだ」


「……ありがとう!」



 僕はローレンに向かって手のひらを構えた。



「アイス!」


「ぬぁっ?!」



 アリアさんのように形状を変化させたりは出来ないが、僕の手から生み出された氷が勢いよくローレンの方へ飛んでいく。

 使っているのは初級魔法だが、その分MPの消費はとても少なく、僕の場合、ステータス10倍と女神の加護で、回復と消費、ほぼ相殺だ。無限に氷を生み出せる。……ステータス10倍って、恐ろしいなぁ。これ持ってるのどんな人だよ。



「なっ、なんだなんだ!? こ、氷!? なんでよりにもよって氷!?」


「……あー、ごめんなさい。時間が惜しいのでそろそろ次に進みたいです。アリアさん!」


「任せろ!」



 アリアさんは僕の後ろから飛び出し、ローレンに向かって魔法を唱える。



「アイスランス!」


「ぬうあっ?!」



 アリアさんの氷の槍は、的確にローレンのタキシードの襟を捕まえ、そのまま壁に突き刺さった。簡単に言ってしまえば、ローレンを壁に軽く拘束した形だ。



「ま、こんなもんだろ」


「あとから追ってこられても困りますしね。……っていうか、」



 僕はローレンを見て呟く。



「以外と弱い……?」


「そ、そんなことありませんよ!? 私が今まで負けた相手なんて片手で数えるほどもいな」


「でも、今負けてるしな」


「あなたたちのスキルが異常に強いんですよ! なんなんですか!? 3時のおやつって、なんですか!?」



 ……あー、まぁ、うん。強いよな、そりゃ。



「……ごめんなさい。元Sランクの方にもらったので」


「ので」


「……くっ、殺せ!」


「なに名台詞っぽいの言ってるんですか。殺しませんよ」



 そう、僕とアリアさん、そしてポロンくんの間では、幹部たち、そして頭領のことは、絶対に『殺さない』ということで一致している。許すとか、そんなんじゃない。なぜなら……



「死んだら罪は償えませんしね」


「――――」


「よし、次に向かいましょう!」


「そうだな!」


「な、なぁ! おいら、役に立てたよな!?」


「うん! ナイスだったよ、ポロンくん!」



 僕もアリアさんも、ちゃんと覚えているのだ。例え相手がどんな人だったとしても、幹部や頭領のせいで、ポロンくんの大切な人は死んでいるのだ。この間のことで、怪我した人だっている。


 ……僕らはみんな、怒っているのだ。だから、倒しに来た。



◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈



「……人は、見かけによらないと言いますか。優しさの裏返しは怖いですね」

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