アイリーンの贈り物

 前回のあらすじ。ポロンくんにおれた。

 押しに弱いのがヘタレというもの……そして、真っ直ぐな目を見逃せないのがアリアさんの優しさである。危険と分かっていても、強く否定することができず、押しきられてしまったのだ。



「……って言っても、おいらもそこまで情報知らないんだよなー」


「そうなのか?」



 場所を移して、今は僕とアリアさんの泊まっている部屋。かなり大きい部屋だし、机もあるから、そこに座って今後どう行動するか話し合っていた。



「そりゃあ、一般人よりは知ってるだろうけど、したっぱには何も教えてくれねーんだ。

 だから、分かることといえば、人数と、名前と、レベルくらいだな。それなら分かるぞ」


「じゃあ、とりあえずそれを教えてくれ」


「分かった」



 ポロンくんが言うには、幹部四人はみんなレベル65。ローレン、モーリス、カーター、エイプリーといるらしい。ちなみにローレンとモーリスは男性、カーターとエイプリーは女性だ。


 それぞれ得意な魔法と弱点になる魔法があるらしいが、一人一人違うということしか分からず、それ以上の情報はない。


 頭領はレベル70。ノーセスという男性で、こちらもまた得意な魔法と弱点になる魔法があるらしい。……ここまでが、上層部の能力値に関する情報だ。



「で、上層部の居場所だけど、どっかに塔みたいな建物があるらしいんだけど、偽装かなにかを使ってて見えない……」


「あぁ、大丈夫だ。その場所は知ってる」


「…………は?!」



 そう、場所はわかるのだ。これがアイリーンさんに聞いた二つ目の情報。アイリーンさんの千里眼にかかれば偽装なんて屁でもないらしい。


 ちなみに、これ以上の情報は例のごとく教えてくれなかった。うーん、気遣いなのか、めんどくさいだけなのか、それとも……?

 ……あの人に関しては考えたら負けな気がする。やめよう。


 とまぁその辺の事情をポロンくんに話し、情報共有する。



「……だからおいらの場所分かったのか……。たまたまかと思ったよ」


「たまたまで見つけられるほど運はない」


「まぁ、なさそうだよな」


「……で?」


「あぁ、そうそう。その塔は5階に分かれていて、最上階に頭領がいるみたいなんだ。それぞれのフロアを幹部が守ってるぽくて」


「なるほど、一人ずつ倒していく感じか」



 ふむふむ、大体分かったぞー。弱点が分かればいいけれど、分からないんだよなー。

 と、そのとき、扉を叩く音が聞こえた。



「はーい?」



 すると、扉が開き、アイリーンさんがひょこっと顔を出して、それから中に入ってきた。



「スラちゃん返却に来たよー」


「ぷるるー!(ただいまー!)」


「あ! ありがとうございます!」



 スラちゃんを受け取り、なでなでする。……やっぱりかわいい。



「……なぁ、アイリーン」


「なぁにー?」


「どうしても、これ以上は教えてくれないのか?」


「うんダメー! だって、旅は楽しんでこそでしょー? 分かってたら楽しくないよー」


「でも……」



 やはり、情報不足で挑むのはなかなか難しい。作戦をたてないと……。



「……というかー、ウタくんとアリアさんはー、もう弱点知ってるよねー?」


「え?」


「え?」


「え?」



 三連続はてなですよ、アイリーンさん。意味が分からんのですが。



「不安ー?」


「そりゃあ、まぁ」


「じゃーあ! これあげるー!」



 アイリーンさんが小さな玉のようなものを僕とポロンくんに差し出してくる。あっ、なんだっけこれ。えーっと……。



「魔属性球体?」


「おいらにもくれるの?」


「うん! 二つしかないんだけどねー、友達にスキルもらったの! 一回しか使えないけど、役に立つと思うよー? 鑑定してみてー!」


「ウタ、頼む」


「はい! ……えっと、」



 まずは僕の手の中にある方からみてみる。




三時のおやつ……一時的にパーティー全員のステータスを10倍にする。発動時間は30分間。パーティーで行動していない場合、対象(1~5まで)を選択可。




「わぁ!?」


「な、なんだったんだ!?」


「ステータス10倍、だそうです」


「「はぁ!?」」



 さすがアイリーンさんの友人。スキルがえげつない。そして今度はポロンくんの方を鑑定する。




プランツファクトリー……対象(無限に選択可)に草木が絡み付き、完全に動きを封じる。発動時間は解除しない限り無限。焼却するには熟練度9以上の炎魔法。




「……相手の動きを完全に封じてくれるそうです。熟練度9の炎魔法でしか解除できないと」


「……うわぁ」


「強いでしょー!」


「そっすね……」



 ていうか、強いのは強いけど、ネーミングセンスどうなってるの? いや、僕が言えたことじゃないか。

 と、アイリーンさんがポロンくんに近づき、にこっと笑った。



「どう使うかは君次第だよー?」


「…………え」


「あー、そうそう! アリアさーん!」



 今度はアリアさんに近づき、アイリーンさんは右手を出した。



「あくしゅ!」


「……え? あ、あぁ?」



 そして、二人が握手したその瞬間、手と手の間から真っ白い光があふれた。

 その様子に僕もポロンくんも、そしてアリアさんも驚いていると、アイリーンさんがほわほわとした口調でとんでもないことを告げる。



「ジャッジメント伝授しちゃったー!」


「…………は、え!? す、ステータス!」



 アリアさんが慌てた様子でステータスを開く。僕も鑑定させてもらうと…………。


 ふ、増えてる……。ユニークスキルのところが、『王室の加護・魔力向上・ジャッジメント』ってなってる……!



「あのねー、光属性だから、闇の人に効くかもー! 伝授されたものだから、発動範囲は半径1mだよー!

 あ、でも、消費MP、最低で15000だから気をつけてねー!」


「使えないじゃないか!」


「アイリーンはふとっぱらなのだー! 一回だけ無条件に使えるようにしといたよー! 二回目以降はー……まぁそのうち?」


「適当! というか伝授なんて技、聞いたことないぞ!」


「んー……相性がいいとできるっぽいー? レベル差50以上って条件付きみたいだけど、スキルとかじゃなくて、なんか出来るー!」



 さっきからとんでもないことばっかり言ってる気がするよこの人。うーん、このテンションにもなれてきたと思ったのになぁ。



「ていうか、止めたりとか、そういうのはないんですね」


「…………? 何で止めなきゃいけないの?」


「え、だって……」


「ウタくんたちなら勝てるよー! らくしょーらくしょー!」



 本当に楽勝なのはアイリーンさんでは……? そんな言葉をグッと押さえつつ、目の前にいる実力者にそんな風に言われて、溢れてくる自信を感じていた。



「ありがとうございます、アイリーンさん!」


「ジャッジメントか……使いこなせるかは分からないが、やれるだけやってみよう。ありがとう、アイリーン」


「どういたしましてー! ……ふぁぁ…………おやすみー」



 アイリーンさんが出ていくのを、僕とアリアさんはあたたかい目で見送った。そして、上層部討伐への心の準備を整えるのだった。


 ……ただ、ポロンくんだけは思い詰めたように魔属性球体を見つめ、じっと考え込んでいた。

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