個性の塊&暴力
朝、明るい日の光で目を覚ました。起き上がりメガネをかけ伸びをすると、後ろから声がする。
「おはよう、ウタ」
「あっ、おはようございます。早いですね」
「そうでもないさ。少し離れているが、向こうの方に川があった。水は綺麗だったから、顔でも洗ってくるといい。
朝食をとって、しばらくしたら出発しようか」
「分かりました」
「……ぷる」
「おはよ、スラちゃん」
……まだ眠そうである。
◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈
休み休み歩くこと4時間ちょっと。ようやく街の入り口が見えてきた!
「おおお! 街だー!」
「やっと着いたな。……素直に馬車を使えばよかったか」
「まぁ、これはこれで楽しいですし! ね!」
「ぷるっ! ぷるるんっ!」
王都もそうだったけど、ここの街並みは明るい。家や建物はレンガを多く使っていて、どこかあたたかみを感じさせてくれる。
ラミリエの入り口の前には二人の門番がいた。また身分証の提示を求められるらしい。
「向こうで作ったギルドカードが身分証代わりになる。それを見せれば入れるさ」
ギルドカードの作りは、Tポイントカードっぽい。あれを真っ白にして、金色の装飾を加えて、黒字で『ヤナギハラ・ウタ(17) ランクD』と書いたようなイメージだ。
それを提示すると、何事もなく――というかアリアさんがいる時点で敬礼されてる――街へ入ることが出来た。
「よし、ひとまず宿を探すか。さすがに二日連続野宿は辛いし、風呂にも入りたいしな」
「そうですねー! どこかいいところないですかね。……あ、え?」
突然目に飛び込んできた人を見て、僕の思考が一時停止する。
「どうし……え?」
そこには、地面になにかがらくたのようなものを並べ、その横で反復横跳びをしている女性が一人。装い的には侍をイメージさせられるが、侍は反復横跳びしない。
ど、どういうことだこれは。
「……話、聞いてみるか」
「ですね……」
おそるおそる近づき、話しかけてみる。正直、めっちゃ勇気がいる。
「……あ、あのー」
「今日の午後4時47分東からだってさ! なんのことだろうねー」
「え、あの……え?」
「……なんて?」
「さ、さぁ……?」
……もう一度話しかけよう。そうしよう。反復横跳びをやめたその人は、その場でスキップをしている。
「あのー、今なんて」
「おっ! 兄ちゃん姉ちゃんいらっしゃーい! いいもの色々揃えてるよー!」
「えっ?! いや、そうじゃなくて、さっきなんて」
「まず取り出すのはーこちら! 見かけはただの腕時計ですがしかし! なんとこの時計! あのながーい校長先生の話したタイムを測定することが出来るんです!」
「いやそれ普通の時計でもできる!」
唐突に始まったテレビショッピング擬き。アリアさんと顔を合わせてそーっと後ろにさがろうとする。が、
「さ・ら・に! 校長先生のお話を録音も出来るのです! 寝る前に聞けば、最高で最悪な睡眠用BGMに!」
「「いらない!」」
なぜか、ここを離れられない。あれか? テレビショッピング、買わないけどテレビでやってると見ちゃう的なやつ!?
「こちら、あの有名なグットオーシャンフィールド製なんですー。業者希望価格、金貨一枚のところ、な、な、なんと! 銀貨6枚で提供いたします!」
「高いぞ」
「高いですよね!?」
「だかしかーし! これだけでは終わりません! 今から二分以内にご購入いただくとー、なんと! 私お手製、巾着袋をプレゼント!」
「「もっといらない!」」
「兄ちゃん姉ちゃん! 買ってくかい?!」
「いや、買わな――」
「イエス! オワー、シュアー!」
「「しゅ、シュアー!」」
……なぜ買ったし。
「んじゃ、お買い上げありがとうねー!
よーし、これで美人なほわほわ系お姉さんの整骨院に行けるぞー!」
そう喜びながら、その人は去っていった。僕とアリアさん、それぞれ銀貨六枚。とられた。
……あー、あれだよね! 今はがらくただけど、クエストの後半で役立つようなやつだよね! ね!? ……はは。
「……宿、探すか」
「そう、ですね……」
それから街を少し歩くと、宿らしき店があった。日本語ではないが、スキルのおかげか、読める。
「……『ホテル・チョコレート』か。なかなか可愛らしい外装だな」
「なんか、ほわほわしてて癒されますねー」
「ぷるぷるっ!」
「よし、部屋があるか聞いてみようか」
「はい!」
中に入ると、レンガと木材、両方が使われたあたたかいロビーになっていた。ソファーがたくさん置いてあってくつろげる。
その奥にカウンターがあるが、誰もいな……くなかった。
「……寝てるな」
「寝てますね」
僕らより少し年上くらいの女の子が、カウンターですぅすぅと寝息をたてていた。机に突っ伏し、完全熟睡状態だ。泥棒が入っても気づかないだろう。
「……おーい、起きてくれないかー?」
アリアさんがその子の頬をツンツンと突っつく。……起きる気配はない。
続いて頭をポンポンと叩く。……起きる気配はない。
肩を軽くゆする。……起きる気配はない。
「……死んでないよな」
「生きてますよ大丈夫です」
「どうしようか。泊まるところ、他にあるか……?」
「…………ふぁあー?」
「あっ」
起きた。眠そうに目を擦り、顔の横においてあったメガネをかける。長い茶髪を顔の前からどけ、僕らを見て、ふにゃっと笑った。
「お客さーん?」
「あぁそうだ。しばらく泊まらせてもらいたい。部屋は空いてるか?」
「空いてるよー。お代はチョコレートだよー」
「「……えっ?」」
すると、カウンターの奥から一人の男の子がやってきて、女の子の肩を揺らす。
「もう見れられないー! 違うだろアイリーン、銀貨二枚だろ? ほら、ちゃんと伝えて」
「んー! チョコレートの銀貨にまーい!」
「違う、違うだろアイリーン。銀貨だよ。チョコじゃない、銀でできている、銀貨だよ」
「えー、チョコレートくれなきゃジャッジメントしちゃうぞー」
「ダメだよ、アイリーン。ジャッジメントはやめようね」
……なんか強そう。
「……一部屋、一晩で銀貨二枚。……でいいのか?」
「うんー! あ、お部屋一緒でいーい?」
「ダメでしょ!」
「構わないよ」
「アリアさん!?」
ほんわかした、えっと……アイリーンさんに惑わされていた僕は、唐突のアリアさんの言葉に驚愕する。
「だ、ダメですよ! 別にしましょ!」
「さっき無駄にお金も使ったし、節約した方がいいだろ」
「で、でも! 男女ですし」
「大丈夫だ。私はお前を男として全く見ていない。そして、お前にそんな度胸があるとも思っていない」
「おっしゃる通りで!」
「んっとー、ベッドは一緒で」
「いいわけないじゃないですかぁ!」
「アイリーン! チョコあげるから落ち着いて目を覚ますんだ!」
……個性が強すぎるよ、この街。
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