使役

 食堂に行くと、もうほとんどの準備は終わっていた。料理がならび美味しそうな香りが漂っている。それに気がついたのか、スライムもぷるぷると体を震わせる。



「それにしても、おっきい机だなぁ」



 例えるならば、美女と野獣で二人が食事をとるあの、ながーい机。本当にそれだった。こんなに長い必要があるのかというくらい。



「あぁ、ウタ。好きなところに座ってくれて構わないぞ」


「あの、アリアさん。こういうこと言うのもあれなんですけど」


「なんだ?」


「これで机の端と端で座って食べるとかなんか悲しいんで、こう、横で向かい合わせになりません?」



 僕がそういうと、アリアさんはクスクスと笑い始めた。



「寂しいって、お前……くくっ」


「なっ! わ、笑わなくてもいいじゃないですか!」


「だってそんなことを大真面目に訴えて!」


「あー! もう! いいじゃないですか!」


「分かった分かった! じゃあ、そうやって食べようか」



 アリアさんは食器を持って左端の二つの席に置き、その片方の席に座った。僕はもう一つの、アリアさんと向かい合うところに座った。

 どうやらエヴァンさんは隣国の人との会食のあと、向こうに泊まるらしく、今日は帰ってこないそうだ。



「お食事、つくれるんですね」


「まぁ、多少はな。そんなに大したものは作れないが」


「いやでも、結構作ってますよね短時間で! ……そのうち、よかったら教えてください」


「作れないのか?」


「ほぼつくれません」



 だって作るといったらインスタントラーメンだったんだもん。ほかのを作るにしても、僕の場合、油が跳ねるのが怖かった。

 料理を皿にとり、食べる。……あ、美味しい。



「あぁそうだ、ウタ、一つ提案がある」


「なんですか?」


「スライムのこと、なんだが……」


「え?」


「ぷるっ?」



 スライムは机の上でぷるぷるしながら僕らのことを見ている。アリアさんの言葉に若干の危機を感じた僕は反射的にスライムを抱き締める。



「だだだ! ダメですよ! 殺すとか、絶対ダメですからね!」


「バカ! そんなつもりない! こんなにかわいいスライムを殺すか!

 ……って、そうじゃなくてな。お前、確か『使役』のスキルを持っていただろう?」



 使役……あー、なんかそんなスキル持っていたような気がしなくもなくもない?



「それを使って、スライムを使役したらどうだ? そうすればそいつがお前から離れることはなくなるはずだ」



 ざっくりとアリアさんから『使役』の説明を聞いたが、実際の使い方は倒した魔物を仲間にし、戦力として活用するためのものらしい。が、スライムは戦力としては全くの役立たずなので、ペットとして連れていく形に近そうだ。



「へぇ。だったらやってみようかな。どうやればいいんですか?」


「簡単だ。名前をつければいい」


「名前、かぁ……」



 スライムをじっと見つめた。相変わらずプルプルしている青いかわいいスライムである。うーん、名前かぁ。うーん……。



「アリアさん、なんか良い名前ありませんかね?」



 正直、僕にネーミングセンスがあるとは思えない。昔、ペットで犬を飼うとしたらっていう体で話していたとき、名前を『わんちゃん』にすると言って笑われたことがある。



「名前……私にネーミングセンスがあるとは思えないのだが」


「僕よりは良いかと」


「なら……どうだ、二人で思いついたのをせーので言って、いいと思った方、とかは?」


「なるほど! いいですね!」



 あっ、そういえば……と、僕はスライムに訪ねた。言葉が分かってるのかは微妙だけど。



「君さ、男なの?」



 スライムはぷるぷるっと、体を震わせる。……イエスかノーかわからない。



「……女?」



 今度はぴょこぴょこ跳び跳ねてみせる。……肯定、なの、か?



「これは……どっちだ?」


「どっちだと思います?」


「……女とみた」


「それでいきましょう」



 女の子、と結論付けて、僕らは食事をとりながら名前を考える。食べ終わったらせーのだ。

 にしても、本当に良いのが思い付かない。ここは無難に、単純なものを選んだ方がいいだろう。よし、そう決めた!



「……いいか?」



 ご飯を食べ終え、アリアさんが僕に尋ねる。僕は大きくうなずいた。



「せーのっ」


「「スラちゃん! ……え?」」



 え? あれ?



「同じ!?」


「まさか被るとはな」


「スライムだからスラちゃん……」



 そう、超絶単純な理由だ。とっても素直な理由である。しかし、



「いいじゃないですかスラちゃん!」


「あぁ! これでいこう!」


「ぷるるっ!」



 それから、そっと息を整え、僕はスライム改め、スラちゃんをじっと見つめた。



「今から、君の名前はスラちゃんだよ。僕らの仲間として、これからよろしくね!」



 ほわん、と、一瞬スラちゃんの体が黄色い光に包まれ、またすぐに消える。どうやら、使役はこれにて終了らしい。



「割りとあっさりしてますね」


「使役に派手な演出を求める方が間違ってると思うがな。使役、だぞ?」


「まぁ、確かに」



 何はともあれ、本日付でスライムはスラちゃんという名前になり、正式に僕らの仲間になりました!


 …………え? 名前がダサい? やだなぁ、そんなことないって!

 ……多分きっともしかして。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る