初級魔法

 アリアさんの中で、

 スライム=可愛い

 ……という式が成り立ったことで、僕はスライムを倒す必要はなくなった。が、そのぶんアリアさんにめっためたにされた。

 ようやく休憩をもらえた僕は地面に寝っころがっていた。アリアさんはというと、僕のとなりに座り、スライムを膝に乗せてふにふにしていた。



「ひぃ……ふぅ……」


「うん、まぁこんなもんかな」


「こ……こんなもんって! 初心者に厳しすぎませんか?!」


「お前の体力がないだけの話だろう?」



 さて、とアリアさんはスライムを床に下ろし、立ち上がった。



「次は魔法だな」


「まだやるんですかぁ?!」


「安心しろ。次は激しい動きはないはずだから」



 はずって……はずって言った……。



「お前はまだ初級魔法しか使えないしな。属性魔法が使えるようになったらもっと厳しく教えてやる」


「……あのー」


「なんだ?」


「属性魔法って?」


「あぁ、そうか。そこからか……」



 アリアさんが説明してくれたことをまとめると……。

 属性魔法っていうのは、アリアさんやエヴァンさんのスキルにあった『水魔法』や『炎魔法』『回復魔法』などのことらしい。

 これらは初級魔法の熟練度を3まであげると、適正があるものから順番に覚える。MPの消費は使う魔法や威力によって異なるが、少なくて100、多くて5000くらいらしい。


 で、初級魔法の方はその基礎になる。初級魔法は、炎、水、氷、風、雷、土、光、闇、回復という、全属性、9種類ある。

 属性魔法よりも威力は劣るが、消費するMPが1~10ととても少ないので、こっちを愛用する人も多いんだとか。



「……っていうか、あれですね。属性魔法、消費MP5000とか、無理じゃないですか?」



 だってエヴァンさんの最大MPが5000だよ? 無理じゃね?



「まぁ、世の中にはMP無限とかいうおかしいやつもいるしな」


「はぁっ?! え、無限?!」


「無限」



 チートやん。完全にチートコースだ!



「というか、お前だって仮に『勇気』が発動すればレベル1でMP80000だぞ? 他人のこと言えた立場じゃないな」


「うっ」



 言われてみれば確かにそうだ。僕だって十分チートか。……条件付きだけど。条件付きだけど!



「条件付きだけどっ!」


「なんだ急に」


「大事なことなんで三回言いました!」


「……今の一回目だぞ?」


「心の中で二回、です!」


「はいはい……。とにかく、初級魔法が使えないと魔法の面では全くの役立たずってことになるからな。ちゃんとやれよ?」



 そういうとアリアさんはおもむろに僕の前に手を出した。そして、手のひらを上にして、



「ファイヤ」



 ……すると、手のひらの上に、小さな炎が灯ったのだ!



「おおお!」


「消費MP1、最弱の初級炎魔法だ。MP10まで任意で変えることができる。威力はそれに完全に比例する。だから……」



 アリアさんは今度は僕らから少し離れたところにある客席に手のひらを向けた。



「ファイヤ」



 すると、客席の上で小さな爆発が起き、周りが燃え始めた。……って、ちょちょちょちょちょちょ!!!



「燃えちゃってますけど!」


「そうだな」


「そうだなって」


「ウォーター」



 空間から現れた水で、その炎は消される。



「消せばいいじゃないか、水で」


「あー……そうですねー」


「魔法は今みたいに詠唱することで発動できる。レベルが高いやつなら無詠唱で発動もできるが、ほんの一握りのやつだけだ。基本的には詠唱は欠かせない」



 アリアさんはそれから、初級魔法の詠唱方法をいくつか教えてくれた。


 初級炎魔法はファイヤ。

 初級水魔法はウォーター。

 初級氷魔法はアイス。

 初級風魔法はウィング。

 初級雷魔法はサンダー。

 初級土魔法はソイル。

 初級光魔法はライト。

 初級闇魔法はダーク。

 そして、初級回復魔法はヒールだ。


 なぜいちいち『初級』とつくのかというと、単純に属性魔法と区別するためだ。初級魔法と属性魔法は全く違う。



「初級魔法と属性魔法で一番違うのはもちろん威力だが、形を変化させられるということだ」


「形?」


「そうだ。初級魔法では、自然界で存在できうる形にしかならないが、属性魔法なら……。おいウタ、ちょっと避けろ」


「避け……?」


「アイスランス」



 アリアさんがそう詠唱した瞬間、僕の目の前を、氷の槍が勢いよく飛んでいった。……え。



「こっっっっっわ!!!!!」


「今のは消費MP200だ。ゴブリンくらいなら瞬殺できる」


「あっっっっっぶな!!!!!」


「攻撃手段に危ないもクソもあるか」


「確かに!」



 そりゃそうだよね、相手をやっつけるためのものだもんね! 逆に危なくないふわふわボールとか意味ないもんね! って、何を考えているんだ僕は!



「ま、とりあえずやってみるか。初級水魔法なら失敗しても濡れる程度だ。試してみろ」


「は、はぁ……」



 僕は少し自分の手のひらを見つめて、それからそれを前に突き出して詠唱する。



「ウォーター!」



 パシャッ!



 ……と、水風船でも割れたような音。というか、それくらいの水量。地面が少し濡れたくらい。初めて使えた魔法。



「お……おおおおおお!」


「ど、どうかしたか?」


「水だ……水だぞーーー!!!」


「オアシスでも見つけたような反応だな」



 あきれたように笑うアリアさんの足元で、スライムはまたぷるぷると震えた。

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