決戦にて 強化と弱体化
叫び終えた世界樹が口から大きく息を吐き出すと、身体の各部からボシュウウウウウウウと大量の湯気も放出される。うーん……、世界樹といえど今回の魔法は、かなりの負担だったみたいだね。ここまで世界樹の中に余分な熱が生まれるとは予想できなかった。
「世界樹、大丈夫?」
『ククク……』
「世界樹?」
『フハハ、フハハハハハハハハハハハッ‼︎』
世界樹が突然爆笑を始めた。今まで何かおもしろい事があったかな? …………一応思い出してみても特になかったと思うけど、こういう事に関してはズレてるらしい僕の感覚は当てにならないから首をかしげるしかない。シールに聞いてみても僕と同じでわからないみたいだからお手上げだ。あいつは動いてないし今は世界樹が落ち着くのを待つか。
少しの間待つと世界樹の爆笑はおさまった。高ぶってた感情も平静になってるから本当に落ち着いたみたい。
『フー……』
「もう大丈夫?」
『ああ、すまんな。いろいろとおもしろくなってしまってな』
「おもしろく?」
『そうだ』
「どういう意味か聞いて良い?」
『何、簡単な事だ。普通は動かない植物であった我が、動ける身体を得て、こうして空を飛び、直接身体を動かしてあのものと戦い、世界の果てまで届く咆哮を上げた。長く存在したが死にかけた植物の我に、これほどの変化が起きるという事が楽しいのだ』
「ああ、そういう事。でも、それは当たり前だよ」
『何?』
「自分以外の何かと関わったり自分の周りの環境が変動したら大なり小なり、良い悪い、自覚できるできない問わず自分の中に変化は起こる。しかも、関わってるのが僕みたいなズレてる存在だった場合や、今みたいに生きるか死ぬかっていう状況の時は特にね」
『そういうものか』
「そういうものだね」
『ならば、ヤートはどうだ?』
「僕? 僕は……」
世界樹に聞かれて前に一回だけ赤の村長のグレアソンさんの前で泣いた事を思い出した。
「うん、僕も生まれた時と比べたら変わってるはずだよ」
『ふむ、どう変わったか聞かせてもらおう』
「えーと……」
『あれが動き出したので、そこまででお願いします』
シールの呼びかけに世界樹への説明を止めた。見るとあいつは飛び立ち、空中で僕をにらんでくる。
『クソガクソガクソガクソガクソガクソガーーーーーーーー‼︎』
『……ヤート、なぜあのものの声が聞こえている?』
「
『我らはともかく、他のもの達は大丈夫なのか?』
「僕達が優位に立ってるから問題ない」
『イチド、ワレヲトメタカラト、チョウシニノルナッ‼︎』
キンッ‼︎
あいつが一度仕切り直すためなのか後ろへ突進して空間を破り世界の外へ出ようとしたけど、空間に触れた瞬間弾かれた。
『ナニッ⁉︎』
「もう、この世界の外へ出れるとは思わない方が良いよ」
『…………先ほどの我の咆哮の効果か?』
「うん」
『何が起こったのだ?』
「まず世界樹の声がこの世界の果てまで届いたから世界樹の声が届いたところまでが、この世界だと絶対に揺るがない理が生まれた。これにより今までよりも、この世界の中と外を分ける境界も強固になり、あいつが壊せなくなったっていうのが世界樹の声のもたらした一つ目の効果」
『ほう……、それならば二つ目は、どのようなものだ?』
「二つ目は世界の活性化とそれによって起こる僕達の強化だね」
『活性化? お前達の強化?』
世界樹が僕を乗せた頭をかたむけた。身体の大きさや種族が違っても疑問を感じた時の動作は変わらないんだね。
「世界の活性化っていうのは、世界が世界樹の声を聞いて盛り上がってる状態って考えて」
『なるほどな。では、我らの強化は、なぜ起こった?』
「世界が活性化したら世界に関わりのある僕達にも恩恵があるっていう単純な理屈だよ」
『そういう事か。理解したぞ。我の声で世界が活性化すれば、世界が育んでいる存在と言える我やお前達も程度の差はあれ、つられて活性化するわけだな』
「正解。さらに言うと世界が外から来た異物を排除しようとする働きも活性化してるから、あいつや魔石なんかは弱体化してるよ」
『ああ、確かにそれならばヤートの言う通り我らは優位に立っているな』
僕の説明が進むほど、あいつの僕を見る目に込められた殺意や怒りが強くなる。それにギシギシっていう軋む音があいつの口から聞こえてきた。歯を食いしばるっていう殺意や怒りを感じた時の動作も、種族問わず共通みたいだね。
『キサマラ……』
「世界樹、攻める? それかもっとじっくり追い詰める?」
『決まっている。我とヤートであのものを攻めて追い詰める、だ‼︎』
「同時にやる方が効率的なのは間違いないね。わかった」
世界樹が宣言すると同時に、あいつへ接近してあいつの腹部を殴り、身体がくの字になって下がった頭部へ拳を振り下ろした。さっきまでなら反応できたはずだけど、今は何もできずに地面に落ちる。…………へえ、かなり良い一撃をくらっても、ふらつきながら飛ぼうとし始めた。
『フザ、フザケルナ‼︎ コンナコトハミトメンゾ‼︎』
「お前に認められる必要はないよ。
『グギャッ‼︎ ワガハネニヨクモッ‼︎』
僕の生み出した魔槍が完全に飛ぶ前のあいつの羽を貫き、あいつを地面に縫い付ける。これで、あいつは動けなくなったから一気に攻めるだけだ。
「
『ヤート、それは……』
世界樹がギョッとしてるみたいだけど気にせず、あいつの周りに
ズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズンンンン……。
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◎後書き
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
感想・評価・レビューもお待ちしています。
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