王城にて 罪悪の剣と声なきやり取り

 僕達は王様達に出迎えられて、さっそく教団への対策会議に参加する事になったんだけど、すぐに状況が急転し今の僕は前世で言うなら宝塚のカッコイイ女の人みたいな人に後ろから左肩をつかまれ首には剣の刃を押しつけられていた。


 何が起こったかというと、僕達のいる場所は王城の奥にある限られた重要な人だけで行う会議に使われる庭に面した会議場で、参加者は僕達・王様・王妃様・宰相・騎士団総団長のナイルさん・僕達と関わりの深いサムゼンさん・あとは王様達が選出した信頼できる人達数人。王様からそれぞれを紹介されて間違いなく王国の中心人物の集まりだなと思っていたら、ものすごく罪悪感に満ちた感情を感知した。あまりに場違いだったから気になって感情の主である人に近づいたら、僕はグイッと部屋の壁際まで引っ張られそこで僕を正面に向かせて僕の首に剣を押し付けられたっていうのが現状だ。


 うーん、会議用の部屋に移ってすぐにこんな事態になると思わなかったな。王様達のバカなっていう感情も伝わってくるし、こういう蛮行をするような人じゃないとしたら今こうしないといけない理由があるはず。これは確認しないといけない事が多そうだね。


 王様によると公爵現当主の一人のジーンアリスさんという人で公明正大と名高い女傑らしいから、やっぱりいろいろと話が合わない。残虐な本性を隠してたっていうのも考えられるけど、それなら罪悪感を抱えてるのは変だ。


 ……あ、ラカムタさん達や庭にいる四体が殺気立ち始めたから早く界気化かいきかした魔力で調べよう。




 王様達のジーンアリスさんへの詰問が聞こえる中、部屋にいる全員の記憶と思考を調べてわかったのはジーンアリスさんが脅されている事と、ジーンアリスさんを脅迫している主犯がこの部屋の中にいる事だ。


 ジーンアリスさんの記憶によると数日前……だいたい僕達が黒の村を出発した頃に、旦那さんと子供が誘拐されたようだ。必死で捜索したものの二人は見つからず、犯人側からはこの会議で僕を始末するか重傷を負わせろという要求が届いたのみ。例え竜人族りゅうじんぞくと王国との間に決定的な対立が生まれるかもしれないとしても、そんな状況なら従うしかないか。


 主犯の奴は王都の宗教関係の責任者である大神官のゼビリラン。一見深刻な顔だけど、かすかに口が笑っていて目の奥の嗜虐的な感じも消せてない。今も罪悪感と家族への想いで精神をすり減らしてるジーンアリスさんを心の中で笑っていた。僕が魔法で眠らせるなり麻痺させれば解決は簡単なんだけど、このゼビリランは自分に少しでも異常があった時には周りを巻き込んで自爆する手段を身体に刻んでるから面倒くさいな。


 …………解決しないといけないのは、まずジーンアリスさんの家族の保護・主犯のゼビリランの無力化・ゼビリランの仲間の捕縛か。あ、その前に大事な事があった。僕は腰に巻きついてる世界樹の杖ユグドラシルロッドの写し身イメージであるシールに声を出さずに聞く。


『シール、ラカムタさん達と四体や王様達にはジーンアリスさんの事情を、ジーンアリスさんには僕が気づいてる事を伝えられる? もちろんゼビリランにバレないのが絶対条件』

『大丈夫です。お任せください』


 シールは僕に言うと、僕の服の中にすごく小さい自分の分身を作り出す。そしてその小さな分身達は透明になり僕の服をすり抜けて、みんなの服の中や髪の毛や体毛の中といったゼビリランから見て死角となる場所に潜む。うーん、実体がないっていう強みを最大限に活かしてるね。


主人あるじ、準備ができました。主人あるじの声を皆さんに伝えられます』

『え? そのままシールが伝えてくれて良いよ?』

『王達には初見の私よりも主人あるじの声の方が信頼されます。私が中継するので説明をお願いします』

『わかった。やってみる』


 僕はシールに促されて、みんなに呼びかける。突然、僕の声を聞いたみんなは少し不自然な反応をしたけど、僕がそのままでいてと念を押した事で落ち着いてくれた。ふー……、不自然さがバレなかったのはゼビリランがジーンアリスさんを凝視してたのと、ジーンアリスさんが内心の動揺はともかく表面上は終始変わらずにいてくれたおかげかな。


 僕は界気化かいきかした魔力で読んだジーンアリスさんの事情・ゼビリランの目的・解決しないといけない問題を説明する。そうしたら、ラカムタさん達のゼビリランを見る目が鋭くなっていく。これはまずいと思って、さらにラカムタさん達に声をかけようとした時、ジーンアリスさんが魔力を剣に込めて素早く振り抜きラカムタさん達の近くに衝撃波を炸裂させる。


「これは警告だ。何もするな……、いや、私の邪魔をするというのなら容赦はしない。道を開けろ‼︎」


 ジーンアリスさんが僕の首にまた剣を当てながら、ラカムタさん達が自分に飛びかかってくるのを防ぐという設定で本気の牽制をしてくれた。その様子を見てゼビリランが内心で狂ったように笑ってるのが気にくわないけど、全てが混乱してこっちの手が打てなくなるよりは良い。


『ラカムタさん達はゼビリランに殺気とか向けないで、僕がゼビリランの記憶から問題を解決する手段を考えるから王様達はゼビリランにバレないように時間を稼いで』


 みんなは僕のお願いに答えてくれて、ラカムタさん達がゼビリランへのイラつきを無理やり抑えて僕を人質に取られて悔しいという感じになっているし、王様達も適度にジーンアリスさんに詰問したり、ゼビリランを含めて何ができるかを話し合ったりしていた。


 おお……、この状態でゼビリランに不自然さを与えず関われるのはすごいな。やっぱり身体能力や魔力は竜人族りゅうじんぞくが上だけど、駆け引きのうまさは普人族ふじんぞくの方が上か。これだけ協力してもらったんだ。できるだけ早く解決策を考えよう。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

◎後書き

最後まで読んでいただきありがとうございます。


注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。


感想・評価・レビューもお待ちしています。

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