黒の村にて 状況確認とサムゼンの戦慄

 なんか納得できない出迎え方をされたけど、とりあえず重要そうなサムゼンさんの話を聞くために僕達は村の広場に向かう。到着すると、すでに広場の一画には食事や敷物が用意されていた。席は基本的に各々自由に座ったけど、今回リザッバに関わった僕達は村長むらおさ・サムゼンさん・薬師のヨナさんの近くに集まって座っている。


「ヤート殿、ラカムタ殿、他の方々も久しぶりだ。またこうして出会えて事を嬉しく思う」

「うん、サムゼンさん、久しぶり。サムゼンさんも元気そうで何よりだよ。ねえ、ラカムタさん」

「そうだな。食事をともにできるのは良い事だな」


 まずはみんなで乾杯して軽く食事を始める。……やっぱり大神林だいしんりんの野草はおいしいね。しばらく食事を楽しんで、みんなの焼けた骨付き肉の骨まで噛み砕く音が聞こえる中、サムゼンさんが要件を切り出してきた。


「ヤート殿……、狩人かりうどの方々から変わったものと戦ったと聞いたが?」

「うん、リザッバって名乗ってたよ」

「そのリザッバは、どのような奴だった?」

「うーん……、なんか一人で盛り上がる奴だったね。見た目は金髪で顔は普人族ふじんぞくの基準を知らないけど良い部類に入ると思う。あ、あと服が一番変わってたな」

「変わってたというのは?」

「なんか白くてヒラヒラしたのが何枚も付いてる絶対に戦うのに適してない服を着てたね。たぶん本で読んだ神官服っていう奴なのかな? リザッバも自分の事を「死教しきょう」って言ってたし」


 僕が「死教しきょう」という言葉を言うとサムゼンさんは厳しい顔で黙る。


「サムゼンさん、何か知ってるの?」

「おそらく教団のもの達だろう……」

「その教団っていうのは?」

「ここ数十年の間に急激に勢力を伸ばしてきた宗教なのだが、これまであらゆる場所で暗躍し騒乱を起こしていると言われている」

「…………言われている?」

「はっきりとした証拠がない。それらしい姿を見たものがいただけだ。しかも目撃者は、いつの間にか消えている」

「そうなんだ」

「各国も時には協力して全力で調査しているのだが、見えない協力者が各国に潜伏しているらしく調査も阻まれているという現状だ」


 サムゼンさんはギリギリと奥歯を食いしばり悔しさを露わにする。


「そういう事なら近いうちに王城に行くね」

「ヤート殿?」

「僕なら見えない協力者を探し出せる」

「ヤート殿……、一体何を言って?」

「リザッバは見た目は普人族ふじんぞくだけど、ヘドロを吐き出したりヘドロと汚泥の塊になったりもした。それとリザッバは大霊穴だいれいけつに、リザッバと似た奴が大神林だいしんりん大霊湖だいれいこに現れてる。どこも莫大な魔力が生産されたり集まる場所で、そこが侵食しようとするあいつらは、この世界の敵だから絶対に潰す」

「ヤート、落ち着け。お前の意思に呼応して植物達が荒ぶってる」


 ラカムタさんに言われて周りを見ると、村の建物や村を囲む壁などの木材から枝や根が生えてきていて、村の周りの樹々も刺々しく成長していた。僕は目を閉じて深呼吸をして気分を鎮め、植物達に話しかける。


「みんな、騒がせてごめん。僕は大丈夫だから」


 植物達からいつでも力を貸すから言えという意志が伝わってきた後、植物達や木材達も元に戻った。…………はあ、少しイラついたとは言え、周りを変化させたらダメだね。もっと落ち着こう。深呼吸を繰り返してたら頭に手を置かれた。見ると父さんだった。


「ヤート、大丈夫か?」

「うん、落ち着いたよ。でも、これじゃあ危ないね」

「いや、どっちかと言えば植物の方から荒れだした感じだから、ヤートは植物の暴走を止めてくれればそれで良い」

「……そうなの?」

「そうだ。あとは俺達や四体が暴走した場合も頼むな」

「え?」

「たぶんヤートがキレるよりも、俺達のキレる方が先だぞ。魔石連中は絶対に許さん」


 父さんの身体から魔力が漏れてくるとリザッバと戦ったみんなや四体も魔力を放ち始める。僕は腰の小袋から青い実を取り出し魔法を発動させる。


緑盛魔法グリーンカーペット鎮める青リリーブブルー


 僕の掌に乗っている青い実が薄い霧となって広がり爽やかな匂いと鎮静効果で、みんなは落ち着いた。僕がホッとしてたらラカムタさんは僕を見て面白そうに笑う。


「そんな感じで俺達の事を頼むぞ」

「…………村以外で戦う場合の指示役はラカムタさんだと思うけど、僕にやれる事はやるよ」

「おう、任せた」

「いやいや、竜人族りゅうじんぞくの方々が総出で激怒すれば、それこそ何も残らなくなる。それはまずい」

「サムゼン殿、前にも言ったはずだ。対集団戦、殲滅戦、制圧戦、大規模破壊ならヤートの方が上だ。まだ、俺達が暴れた方が被害は少ないぞ」


 みんながラカムタさんの言葉にうなずいて認めると、サムゼンさんは青い顔になっていろんな事を考え始めた。ブツブツつぶやくサムゼンさんの言葉を聞いてみたら、「早く戻って再調査をせねば」とか「我らの不甲斐なさで王国を滅ぼすわけにはいかん」とか言っていた。…………うん、サムゼンさんが胃痛で倒れない程度に抑えよう。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

◎後書き

最後まで読んでいただきありがとうございます。


注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。


感想・評価・レビューもお待ちしています。

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