黄土の村にて 状況説明と次の事

「「「「「…………」」」」」

「えっと……」

「「「「「…………」」」」」

「あー……」

「「「「「…………」」」」」

「あの……」


 この状況は何だろ? 目が覚めたら、みんなが僕を囲んでいてものすごく真剣な目で見てる。しかも僕から話しかけても、みんなは何も答えてくれない。とりあえず起きるために手を動かしたらビギンッて痛みが走り、やがてその痛みは全身に広がっていく。


 …………そうだった。僕は痛みを無視してたんだよね。同調で確認すると痛みや苦しさを吐き出した時よりも四割増でひどくなってて、このままにしておくのはさすがにまずい。特に悪い部分だけでも治すか。


 僕は手をプルプルさせながら腰の小袋を触り魔法を発動させた。…………魔力を動かすと頭痛がひどくなるのは無視する。


水生魔法ワータ緑盛魔法グリーンカーペット薬水霧ハイハーブミスト


 まず、薬草団子を入れている腰の小袋の一つを水生魔法ワータの水で濡らす。そして濡れた薬草団子は僕の魔法で霧となり、僕の口の方へ流れた。あとは治癒効果の高い霧を吸い込んでいくだけ。


「スー……、ハー……、スー……、ハー……」


 ひたすら薬水霧ハイハーブミストを吸い込んでいると、だんだん身体中の痛みが治まってきたため同調で確認したら筋肉や関節の炎症や細かい亀裂骨折は、ほとんど治ってきていた。…………頭痛や精神的な疲労は残ってるから、そっちには別の薬草を使うかしっかりと休むしかなさそうだね。もう少し霧を吸い込んだ後、僕はゆっくり上体を起こした。手足の感覚……ある。視覚と聴覚は……戻ってる。それならと立ち上がってみてもフラつかない。うん、平衡感覚も大丈夫だね。最後に徹底的に同調で確認してみても目立つ身体の異常はない。


「よし」


 僕はみんなの間を抜けるために歩き出そうとしたら、目の前にラカムタさんと父さんが立って肩をガシッと兄さんと姉さんにつかまれた。


「ヤート、どこに行く気だ?」

「傷は全部治したけど疲れが残ってるから寝ようかなって」

「……今すぐにでも寝たいか?」

「そこまでじゃないね」

「それなら話を聞かせろ」

「わかった」


 周りをみんなにガッチリ囲まれたまま、黄土の人達が用意してくれた広場の一角の座れる場所に移動したら、そこには三体もいた。みんなに断ってから四体のところに行くと、鬼熊オーガベア破壊猪ハンマーボアが鼻を擦り付けてきてディグリとミックは身体を触ってくる。


「ガア……」

「身体は大丈夫だよ」

「ブオブオ」

「うん、傷は治してるから平気だよ」

「無茶ヲシマシタネ」

「ちょっと勢いでやりすぎだったね」

「…………シンパイ」

「ごめん」

「ココニ座ッテクダサイ」


 ディグリに促されて座ると、鬼熊オーガベア破壊猪ハンマーボアは僕のすぐ後ろに寝そべり僕の両隣にディグリとミックが座った。僕は座りながら何か食べた方が良いなって考えていると、ディグリが僕の方に両掌を差し出し掌一杯に果実を生み出す。


「ドウゾ食ベテクダサイ」

「ありがとう」


 僕が食欲を満たしていたらコホンと咳が聞こえて、そちらを見たらみんなが僕を見ていた。


「あ、ごめんなさい。僕に話を聞きたいんだっけ?」

「それもそうだが、ヤート始めに言っておくぞ。後で説教だからな」

「うん。それで何が聞きたいの?」

「それじゃあ、あたしから質問させてもらうよ。坊や……、坊やはあの時に何をしたんだい?」

「あの時っていうのは、いつの事?」

「坊やが目を閉じた時だよ」

「あの時か。あの時は同調と界気化かいきかを同時にやっただけだよ」

「なんだって……?」

「グレアソンさんは考えずに動けるから界気化かいきかした魔力で相手の思考を感知できるっていう利点が消されたでしょ? だから、界気化かいきかした魔力での感知を諦めて広がり流れやすい界気化かいきかした魔力を使った同調に切り替えたんだ」


 僕の説明を聞いているみんなは、ますますわからない事が増えているようだった。あ、イーリリスさんとイリュキンは、みんなからできるのかっていう視線を向けられてたけど首を横に振っている。まあ、同調は今のところ使えるのは僕だけだからしょうがないよね。


「……ヤート殿、どうして界気化かいきかした魔力で同調を行おうと思ったのですか?」

「まず同調を簡単に説明すると、同調は話せないもの達と意思疎通をとれたり僕の魔力を対象に流して対象の正確な状態を知る事ができる。ここまでは良い?」


 みんながうなずいてくれたから説明を続ける。


「格上のグレアソンさんと戦う場合の絶対条件は、グレアソンさんの動きに反応できる事。でも、思考を感知できなくなったから別の手段を考える必要があって、そうだ筋肉の動きがわかれば良いって思いついた。それで身体の状態を知るなら同調だけど、筋肉の動きを把握できるくらいの精度なら触らないといけないから現状に合わない。うーん、離れて精度の高い同調はできないか? ……そうだ。界気化かいきかした魔力で同調をやってみようって思った」

「待て待て待て‼︎ ヤート、お前まさか何も試しもせずにやったのか⁉︎」

「そうだけど?」


 僕の発言聞いてラカムタさんと父さんは頭を抱えて、グレアソンさんやカイエリキサさんは唖然としていた。そんな中、イーリリスさんは僕に真剣な目を向けてくる。


「ヤート殿、技術を合わせるというのは、とても高度な事で試行錯誤が必要となります。もし無理に使おうとすれば命を削りかねません。それは理解していますか?」

「イーリリスさん、僕はグレアソンさんと戦いながら何度か同調で自分の状態を把握してる。それにやってみたら頭痛がしたけど、あの程度じゃ死なないってわかってるから続けたんだ」

「…………それなら構いません。ですが、命は大切にしてくださいね?」

「うん、必要なら使うけど、いつもは大事にしてる」

「次は、わしからも質問を良いですかな?」

 

 タキタさんか。何が知りたいんだろ?


「ヤート殿は一度地面に背中を激しく打ちました。気になったのは、その後のヤート殿の様子です。あれは間違いなく普通ではなかった。あの時はどうしたのですか?」


 ……これ説明したら絶対ラカムタさんと父さんは怒るな。僕は二人の視線を気にしつつ、あの時は呼吸困難や全身の細かい亀裂骨折などや耳が聞こえなくなっていた事を伝えると、予想通り二人の機嫌が悪くなった。


「そんな状態だったのに、あたしを二度も倒したのかい……?」

「あの時は、ものすごく精度が上がっててグレアソンさんのどこに力が入ってるからどうか、視線の向き、あと重心に息を吐く瞬間までわかったからできた事だよ」

「今でも再現できますか?」

「やれなくはないと思うけど、疲労とかが抜けてないからやりたくないかな」

「はい、それで構いません。変に有用な新しいものを覚えると、それを見境なく使ってしまい自滅してしまう事があるので慎重に」

「わかった」

「おい」


 赤のクトーが僕に呼びかけてきた。この流れだと、たぶん疲れが取れたら決闘しろって事だろね。


「次に回復した時に決闘しろって事なら良いよ」

「なっ……」

「あれ? 違った?」

「……合っている」

「うん、その時はよろしく」

「ああ……」


 僕が決闘を受けたのに、クトーは何で乗り気じゃないんだろ? …………まあ、そういう時もあるか。ディグリの生み出した果物もだいぶ食べたから眠気が増してきたし、ラカムタさん達に一言言ってから寝よう。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

◎後書き

最後まで読んでいただきありがとうございます。


注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。


後書きの下の方にある入力欄からの感想・評価・レビューもお待ちしています。

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