黄土の村にて 白と赤の村長

 僕が朝のあいさつをしてる間にいろいろな騒ぎが収まったので、全員そろっての朝食を終えて一休みした後、僕は広場にいた。その事は良いとして…………何で僕は赤の村長むらおさのグレアソンさんと向かい合ってるんだろ? 決闘相手はリンリー・イリュキン・クトー・チムサの四人の誰かだったはずだけど、その四人は広場の端に居てグレアソンさんを不機嫌だったり恨めしそうだったり鋭い目でにらんだりしていた。


「えっと……、何でグレアソンさんが僕の決闘相手になってるの?」

「あの子達に代わってもらったのさ」

「どうして、そんな事を?」

「あたしの勘が坊やと戦えば面白いものが見れるってビリビリ来たからだよ」

「…………そうなんだ。気になったから聞くけど、グレアソンさんは赤の村長むらおさなのに黄土の村に居て良いの?」

「赤の村長むらおさってのは単純に赤で一番腕っぷしがあるってだけだからね、特に他の色の村長むらおさのように裁定や運営何かには関わらないのさ」

「…………用心棒みたいなもの?」

「アッハッハ、その通りだよ。さて、そろそろ始めようじゃないか。坊や、私を楽しませておくれよ」

「期待に応えれるかはわからないけど、全力は尽くすつもり」


 僕はいつものように界気化かいきかした魔力を周りに放ちグレアソンさんの思考を読み取る。…………これは驚きと感心?


「なるほど、イーリリスの話は本当だったみたいだ。今の坊やの雰囲気は、イーリリスが真剣に戦う時とそっくりだよ」

「イーリリスさんは僕の界気化かいきかの先生だからね。似てくる当然だと思う」

「それじゃあ、坊やの界気化かいきかを見せてもらおうかね‼︎」


 グレアソンさんは叫ぶと同時に僕の目の前から消え後ろに回り込み拳を振り下ろすという思考が読めたので、僕は前に跳んで地面を転がった。


 ドンッ‼︎


 …………グレアソンさんにとっての軽く拳を振り下ろしただけで地面に穴が開くのか。当たり前だけど欠片も油断できないね。僕が内心で覚悟を決めながら立つと、グレアソンさんが僕の目の前に現れ様々な打撃を繰り出してきた。


 顔や腹を狙う拳、足を払おうとする蹴り、鎖骨を折る目的の手刀、絶対に吹き飛ばされるだけじゃ済まない体当たり、ある意味足より厄介な尾なんかを全部避ける。というか避けないとまずい。グレアソンさんの拳をさばこうと思い横から押そうとしたら、触れた瞬間に僕の手がバチッと弾かれた。しかも今も痺れてるから絶対にさばくのも受けるのもダメだ。


 数分間避け続け、なんとか小さな隙が見つけたので一気に飛び退きグレアソンさんから離れる。一対一は何回かやったけど、今回が一番きついな。でも、グレアソンさんと戦ってる最中だから神経は研ぎ澄ませておく。汗はダラダラかいてるし呼吸も乱れてるけど、界気化かいきかが保てるならそれで良い。


「坊や、緊張感を持った良い動きだね。ここまで見事にあたしの攻撃を避けられるのは大したものだよ」

「ハアハア、フー……、自分にできる事を必死にやってるだけ」

「そうかい。それならこれにはどう対応する?」


 何だ? どう対応する? とか聞かれてもグレアソンさんは何も考えて……、まずい‼︎ 僕はその場からの避難を優先して、体勢とか次への動きには構わず横に全力で跳んだ。


 ズドンッ‼︎


 さっきよりも大きな穴が地面に開いた。……そうだよね。グレアソンさんはイーリリスさんと何度も戦ってるんだ。当然何も考えずに動けるよね。さっきのは偶然避けれたけど、次も避けれるとは限らない。それならどうするべき?


「考えてる暇はないよ‼︎」

「うわっ」


 グレアソンさんから目を離してないのに近づかれるのを感知できず、無造作に放り投げられる。……さっさと何とかしてみろっていう言ってるみたいだ。それならダメでもともとやってみるか。


 僕は地面に着地した後、立って目を閉じる。そしてある事を試しながら、ゆっくりグレアソンさんの方へ歩いていく。…………うん、グレアソンさんの動きが止まったからも困惑してるみたいだね。何の攻撃もされずにグレアソンさんの間合いに入れたから間違いない。


「……坊や、どういうつもりだい? あたしが目を閉じて無抵抗なら攻撃してこないと思ってるのなら筋違いだよ」

「今試してる事に必要だから目を閉じてる。それで攻撃してこないの?」

「良い度胸してるじゃないか‼︎」


 グレアソンさんが反射的に張り手を繰り出してきたから三歩下がって避けた。…………精度は落ちるけど使えるね。


「…………坊やが何かしてるのは確実だとしても、あたしには何をしてるのかわからない。それなら攻めるだけさ‼︎」


 ほんの一瞬グレアソンさんから驚きの感情が伝わってきたけど、すぐに何も考えない状態に戻ったのはさすがで、再びグレアソンさんの打撃が次々と繰り出される。うーん、一応避けれてるけど、今やってる奴は相手の思考を感知して避けるよりも無駄が多いから体勢がどんどん悪くなってきた。…………使いたくないけど、しょうがないか。僕は強化魔法パワーダで反応速度そのものを上げて対応する。


「きれいな強化魔法パワーダじゃないか。何で始めから使わなかったんだい?」

「僕は魔力が少ないから長時間発動できない。しかも激しく動いたり、慣れない事をすれば魔力の消費も大きくなるから」

「…………なるほどね」


 僕が避け続けていたら、突然グレアソンさんが動くのをやめた。


「グレアソンさん?」

「坊や、防御に関しては文句なく合格だよ」

「ありがとう?」

「次は坊やの攻撃を見せてもらおうかね」

「僕の攻撃?」

「そうだよ。遠慮なくかかってきな」


 ……これは困ったな。


「えっと……」

「どうしたんだい? 早くかかっておいで」

「僕は今、接近戦で攻める鍛錬はしてないんだ」

「……ほう?」

「僕が自分の役割と思ってるのは遠距離魔法での攻撃と妨害。だから、もし敵に近づかれた時は避けたり逃げて時間を稼いで、いっしょに戦ってくれる存在の体勢が整うのを待ったり自分の魔法を発動させる」

「まあ、筋は通っているね。とは言えだ、坊やなら接近戦をしないといけない最悪を想定してるはず」

「いくつかあるにはあるけど考えてるだけだよ」

「十分だ。ぜひ見せておくれ」

「わかった。それじゃあやるね」


 僕は目を閉じたまま、さらにグレアソンさんに近づき懐に入る。そして腕をしならせ、かなり本気で掌を叩きつけた。良い手応えとゴッていう鈍い音がしたから成功した事を表してるね。おっとグレアソンさんの反撃が来るから喜んでる場合じゃない。すぐさま距離をとると、グレアソンさんは僕に叩かれたところを触って確かめていた。。


「……なかなかの威力じゃないか。まさか固めた魔力で殴ってくるとは思わなかったよ」

「魔力に実体は無い。でも、ちゃんと制御すれば簡単には壊れないものができる」


 僕がしたのは掌に自分の魔力を圧縮した魔力塊を作って、それで叩いただけ。まあ、石を持って叩くのと大差はないけど、自力で打撃を強化できるのは利点だよね。


「しかも、打撃面を尖らせて威力を上げられるって事かい。魔力の制御をこういう風に使うとはね」

「欠色の僕はみんなより少ないものが多いから、そこは工夫で補う必要があった」

「あたしが保証しよう。よくできてるよ」

「ありがとう。続きを行くね」

「ああ、受け止めやるから全力で来な」


 僕は返事の代わりにグレアソンさんの懐へ再度飛び込んだ。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

◎後書き

最後まで読んでいただきありがとうございます。


注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。


感想・評価・レビューもお待ちしています。

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