青の村にて 異常な内部と取引

 大髭おおひげ様の口の中を進んでるわけなんだけど広い。たぶん一軒家を通り抜けるくらい歩いてるのに、まだ口の中だ。大髭おおひげ様は口を大きく開けてガボッと丸呑みにする種類の魚みたいだから、これくらい口が大きくなるのも当たり前なのかな?


 おっ、ようやく口の中を歩ききって喉の入り口に着いた。それでその喉の入り口から食道を覗き込んでも出口である胃は見えない。魚ってそこまで食道が長くないと思ってたんだけど、大髭おおひげ様くらい身体が大きかったら喉と食道はちょっとした洞窟みたいだ。とりあえずこの喉や食道を通らないと目的地の胃まで行けないから進もう。


 ……やっぱり身体の中って色んな音がするんだな。心臓の鼓動に、血液が流れるザーっていう音、呼吸音、明らかに弱ってても生きてる命の音がする。前世の僕の死ぬ間際の僕の命の音はどんな音だったんだろう? 今の僕の命の音はどうだろう? 今は生きてるって思えるから、きっと良い音になってるって思いたい。




 そんな事を考えながら大髭おおひげ様の食道を進んでいると狭くなってきた。どうやら食道の出口、または胃の入口に着いたみたいだね。ここは本来なら胃に入った食べ物が逆流しないよう防ぐ弁みたいに閉じているけど、今は僕の鎮める青リリーブブルーで緩んでて胃の中まで素通りできる。……それにしても、ここまで来るのにとにかく長かくて大神林だいしんりんの中を散歩してるより長く思えた。


「これはひどいというか異常としか言えないな……」


 僕は胃の中を一目見て思わずつぶやいてしまった。いや、僕じゃなくても大髭おおひげ様の胃の中の見た人は僕と同じように感じると思う。なぜなら大髭おおひげ様の胃の中が、どう考えても消化できない岩石と鉱物で埋め尽くされているからだ。何で大髭おおひげ様は、こんなものを食べたのかっていう疑問もあるけど、沈んでた理由は納得できる。


「ここまで岩石とか鉱物を溜め込んでたら、いくら身体の大きな大髭おおひげ様でも重さで動けなくなるはずだよね。大髭おおひげ様は肺魚だから水面に出れないと呼吸もできないし本当に水中から引き上げて良かった」


 それで大量の岩石と鉱物でパンパンになっている胃の状態はといえば、血の匂いがするから同調で確認するまでもなく胃壁全体に傷が無数にできているみたい。でも同調で詳しく確認しても破れてる部分がないのは不幸中の幸いだ。ただ、この大量の岩石と鉱物を除去しないと胃壁の治療ができない事は問題だね。それに大量の岩石と鉱物でパンパンに膨らんだ胃のせいで他の内臓の圧迫してるみたいだし、まずは運び出しからか。


強化魔法パワーダ


 僕は身体を魔力で強化して近くにあった手頃な大きさの岩石を抱えた。樹根触腕ルートハンドを発動させれば一気に運べるけど、さすがに大髭おおひげ様の体内に植物を植えたくない。まずは外のみんなに胃の中がどういう状況になってるか説明するために一個運び出そう。




 僕が大髭おおひげ様の口の中から出ると、……たぶんラカムタさんとヌイジュかな? 二人が音にするとシュバババババババババッていう感じで高速で動いていた。速くてよく見えないけど、二人は近づいたり離れたりしてるから殴る蹴るの打撃で戦ってるみたいだね。


「ヤート、大髭おおひげ様の治療は終わったのか?」

「え?」


 ラカムタさんがいつのまにか僕の隣に立っていて、ヌイジュの方を見たら直前まで戦っていたラカムタさんがいなくなったせいで右手を突き出そうとした中途半端な体勢で固まっていた。


「ヤート?」

「あ、うん、まだ治療はできてない」

「なんでだ?」

「今、僕が持ってるみたいな岩石や鉱物が大髭おおひげ様の胃の中に詰まってて取り除かないと胃壁の治療ができない」


 僕が言うと広場にいたみんながサーッと青ざめた雰囲気になってる中、ハインネルフさんが近づいてくる。


「ヤート殿が抱えてるものを見せてもらいたい」

「はい」


 僕がハインネルフさんに持っていた岩石を渡すとハインネルフさんは岩石をじっと見た後、僕に聞いてきた。


「……これは大霊湖だいれいこの底の方のものだな。このようなものを大髭おおひげ様が? いや、後だ。この胃の中に詰まってる奴を運び出せば良いのだろうか?」

「そう、全部外に出せれば胃壁の治療もできるし他の内臓への圧迫もなくなるよ」

「わかった。皆のもの聞いていたな!! 静かに素早く大髭おおひげ様の胃の中の岩石と鉱物を運び出せ!!」

「「「「「おう!!」」」」」

「僕の鎮める青リリーブブルーで身体の中に入られる負担を減らしてるだけで全く無いわけじゃないから、できるだけ静かにお願い」


 青の大人達が僕にうなずいて次々と大髭おおひげ様の中に入っていく。イーリリスさんはイリュキンといっしょに大髭おおひげ様の表面を水で潤す役目に専念するみたい。……あれ? 僕は大髭おおひげ様を見たまま動かないヌイジュに近寄って話しかけた。


「手伝ってくれないの?」

「なぜ俺が貴様に力を貸す必要がある!?」

大髭おおひげ様を水中から引き上げる時には手伝ってくれてたから、これも手伝ってくれるかなって思った」

「なっ!! それは……」

「うーん……条件をつけたら手伝ってくれる?」

「条件だと?」

大髭おおひげ様の治療が終わったら僕の事をお前の好きにして良いよ。だから手伝って」

「ヤート!! 変な事を言うんじゃねえ!!」


 僕とヌイジュのやり取りを見ていた兄さんが叫んだ。僕としては一人でも多くの運び手がほしいし真っ当な取引だと思うんだけど変な事かな?

 

「……どういうつもりだ?」

「今の僕にとっては大髭おおひげ様を治す事が最優先だから僕の命を含めて他の事はどうでも良いって言ったよね?」

「…………やはり貴様は異常者だ」

「そうかもね。それで手伝ってくれるの?」

「……チッ」


 ヌイジュは舌打ちした後に大髭おおひげ様の方に走っていく。僕も三体に万が一、大髭おおひげ様が動いた時に少しでも抑え込めれるように警戒をお願いして、また大髭おおひげ様の中に戻った。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

◎後書き

最後まで読んでいただきありがとうございます。


注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。


感想・評価・レビューをお待ちしています。

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