青の村への旅にて 思い出した奴と事前の対応

 あれから一日経ち、その間もほぼ順調に旅は進んでいる。うん、ほぼね。


「…………」

「ねえ、急にどうしたの?」

「……ブオ」

「何でもないって、突然ものすごく機嫌が悪くなってるのに何でもないは通じないよ」

「……ブオ」


 順調な旅の唯一の問題点は少し前から破壊猪ハンマーボアの機嫌が悪くなって威圧が跳ね上がった事だ。歩いてる時に突然何の前触れもなく少し殺気を混じらせた威圧を放ち始めた原因がわからない。ラカムタさん達からも何があった? っていう視線が飛んでくるけど、わからないって首を横に振り返すしかない。どうしたら良いんだろ?


「原因わかる?」

「ガア」

「……特ニ思イアタリマセン」


 悩んだ結果、とりあえず二体に聞いてみたけどわからないみたいだ。これは困った。


「……本当にどうしたの?」

「ブブオ……」

「面倒くさい奴の臭いがする? 誰の事?」

「ブオッ」


 破壊猪ハンマーボアが知るかって吐き捨てるように言った。いやいや、面倒くさい奴って認識してるのに知らないっていうのは意味がわからないよ。僕や二体が困惑してるとラカムタさんが近づいてきた。


「ヤート、どうしたんだ?」

「なんか面倒くさい奴の臭いがして機嫌が悪くなってるみたい」

破壊猪ハンマーボアの機嫌が悪くなるって事はヤートが会ってる奴か?」

「ブオ……」

「そうみたい」

「ヤートが会った事がある面倒くさい奴? 青の村の近くに来てから機嫌が悪くなった。…………まさか?」


 ラカムタさんが何かを思いついたのか慌ててイリュキンやタキタさんのところに戻った。そして戻ったラカムタさんから説明を受けたイリュキン達が僕を見てからしまったって感じの反応をしてた。……本当に僕に関係があるみたいだけど誰の事なんだろ? 


 状況を見守っていると今度はイリュキンとタキタさんが僕達の方に来るから破壊猪ハンマーボアに威圧を弱めてもらった。


「イリュキン、タキタさん、どうかした?」

「……ヤート君に確認したい事があるんだ」

「何?」

「ヤート君はヌイジュを覚えてるかい?」


 ヌイジュ? ……ああ、交流会でイリュキンと話した後に何でか僕に襲いかかって来たあいつか。破壊猪ハンマーボアが面倒くさい奴って言った意味がわかった。


「言われて思い出した。そのヌイジュがどうかしたの?」

「ヌイジュがヤート君に襲いかかった事が原因で水守みずもりの役目からはずされているけど、まだ青の村にいる。破壊猪ハンマーボアの機嫌が悪くなったのは、おそらく村にいるヌイジュの臭いを感じたからだと思う」

「僕もそう思う」

「……そこで確認なんだけど、ヤート君はヌイジュが村にいて大丈夫かな?」

「特に問題ないよ」

「本当に良いのかい?」

「うん」

「何で、そんなに平然としてるのか聞いても良いかな?」

「ヌイジュの事が本当にどうでも良いのと、もしヌイジュが何かしようとしてもタキタさん達が抑えてくれるんでしょ? だったら気にする必要がない」

「えっ?」


 僕が言い切ったらイリュキンとタキタさんがポカンとした顔になった。変な事は言ってないはずだけど、何でそんな反応なんだろ?


「イリュキン?」

「う、うん、その通りだ。例えヌイジュがヤート君に何かしようとも、私達が必ず抑えるよ。タキタ、そうだね?」

「お任せください」


 イリュキンに呼び掛けられたタキタさんが胸に右手を当てて頭をゆっくりと下げるその姿は、ちょっと見惚れてしまうくらい様になっていた。


「そこまで気張らなくても良いと思う」

「いや、万が一にもヤート君に何もさせないようにするのさ。青の誇りにかけてね」

「前にヌイジュに襲われた時近くにいたのは破壊猪ハンマーボアだけだったけど、今度はイリュキン達の他にもラカムタさん達と二体もいるから、何かあってもすぐに終わるはずだよ。ただ……」

「ただ?」

「万が一、ヌイジュが何かを起こした時にラカムタさんや三体がキレたら止めるの大変だなって……」

「……それはそうだね」


 僕が言った事をイリュキンも想像したのか眉間にしわを寄せたけど、タキタさんは変わらず微笑んでいた。……このタキタさんの自信というか余裕は、どこから来るんだろ? ラカムタさんと三体がキレたら災害級の被害が出てもおかしくないんだけどな。


「とりあえず水守みずもりの一人を村に走らせて事情は説明しておくよ」

「うん、お願い」


 イリュキンとタキタさんは前の集団に戻ると近くの水守みずもりの一人に指示を出し、指示を受けた水守みずもりが走り去っていく。おおーって、イリュキンの仕事が早さに感心しながら、僕はまたっている破壊猪ハンマーボアの背中を撫でながら話しかけた。破壊猪ハンマーボアを落ち着かせるのは僕の役目だ。


「僕はヌイジュがいても気にしないよ」

「ブオ」

「僕を心配してくれるのは嬉しいけど、そのせいで周りに威圧を放つのはダメ」

「……ブオブオ」

「僕達なら、どんな事が起こっても大丈夫」

「ガア」

「ほら、鬼熊オーガベアも大丈夫って言ってるよ」

「ブオ」

「落ち着いてくれて良かった」

「最終的ニハ私ガ守ルノデ安心シテクダサイ」

「……ブオ?」

「……ガア」

「ソノママノ意味デス。アナタガタガ失敗シテモ私ガイルノデ大丈夫デスヨ」

「「…………」」

「何カ?」


 はあ、何で破壊猪ハンマーボアが落ち着いたと思ったら三体のにらみ合いになるんだろ? そこは協力し合うところじゃないの? 別の意味で心配になってきた。僕と三体の様子に気づいたラカムタさんが大丈夫か? っていう顔をしてるのが気まずいよ。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

◎後書き

最後まで読んでいただきありがとうございます。


注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。


感想・評価・レビューなどもお待ちしています。

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