幕間にて 青の姫の気づきと青の老竜人への決意
「あのじいさん、本当に強いんだな……」
ガルの言った事は私も同じ気持ちだからよくわかる。タキタはずっと私のそばに微笑みながらいてくれる存在で、年齢不詳であるし一度も戦いなんかで激しく動いてるところを見た事がない存在だった。なんというか一歩……いや五歩ぐらい引いて私達を見ている感じかな。そのタキタがヤート君と戦っている。
「ホッホッホ、これだけ動くのは久方ぶりですね」
私達には見せないタキタの顔を見ていると胸がモヤモヤする。この気持ちはなんだ?
「タキタさんってヤート君に似てますね」
「そうかい? ……いや、そうかもしれないね」
リンリーのつぶやきに始めは疑問しかなかったけれど、ヤート君とタキタの言動が平均的な
「イリュキンは、じいさんが戦ってるところを初めて見たんだよな?」
「……そうだ。初めて見たよ」
「あんたらもか?」
「我らも初めてです」
「そうか……」
ガルが私や他の
「ガル、何を考えている?」
「あのじいさんの強さを見せない理由は何でか考えてた。ヤートは強さに興味がないからわかる。それじゃあ、じいさんは?」
「タキタは年だから身体を動かす事は若いものに任せるって言ってたよ」
「黒のじいさんばあさん達は何かあったら若いものには負けるかって言いながら暴れてたぞ? なあ、おっさん」
「全員が老いて益々を体現していたな」
「……青も似たような感じさ」
タキタは青のものとは戦いたくなかったのか? いや、闘争心がなくなっていたところをヤート君に触発された? 確かに青の村でタキタに戦いを挑むものなんていないし戦ってもらえるとも思われなかったはず。それなら何でヤート君にだけ? 私が考えているとタキタがラカムタ殿と離れていった。
どうやらタキタがラカムタ殿に何かを聞いてるみたいだ。……そういえば青の村でタキタが誰かに何かを聞いてるところを見た事がない。決して会話をしないというわけじゃないけど、思い返せばタキタが自分から話しかける事はなかった。本当にタキタは私達から何歩も引いた状態でいたんだな。はは……、今更こんな事に気づくなんてどうかしている。でも、まだ遅くない。絶対に遅くないはずだ。
ラカムタ殿との話が終わってタキタが戻ってくる。言いたい事はまとまっていないが、とにかくタキタに何か言おうと思い近づいていく。
「タキタ、青の村に戻ったら私と手合わせをしてほしい」
タキタの顔を見上げたら口から自然に出ていた。そしてそれとともに自分の中のモヤモヤが形を持ってストンと落ち着いた。……そうか私は悔しかったのか。ずっとそばにいて戦わないものだと思っていたタキタが、私の見た事のない一面をヤート君に見せていたのが悔しかったんだ。
「わかりました。お相手しましょう」
「楽しみにしてる」
「それにしても姫さま……」
「なんだい?」
「今までよりも覚悟の決まった良いお顔をされてますね。何に影響されたのか聞いても?」
「……タキタ、わかっていて聞いているだろ?」
「いやいや、若いものの急な変化は年寄りには着いていけないものです。しかし、成長するのを見るのは楽しみでもありますから、どのようなきっかけがあったのか聞きたいのですよ」
タキタが微笑みながら話している。少し前ならいつものそばにいる存在だと思うだけだった。でも今は違う。見上げるタキタが私よりも遥か高みに到達している存在だというのが、ほんの少しだけどわかるようになった。
タキタが目立たないようにしていたにせよ、タキタの事を何も疑問に感じてなかった過去の私は、本当に自分の事で精一杯で周りが見えてなかったんだね。しかも交流会でヤート君と話して少しは変われたと思ってたのに、それでも今の今まで気づかなかった。もし過去の私に何かできるなら殴り勝ってでもタキタの事を知るように絶対に言ってやる。
それにしても誰に影響されたかだって? そんなのヤート君とタキタの戦いに決まっている。とはいえ、素直に話すのは少し悔しい。
「……あとで話すよ。今はヤート君達の方に専念しよう」
「そうですね。今はそうしましょう」
タキタの微笑みが深くなったから、たぶん私の少しの意地は見透かされてる。それでも良いさ。
「いやー、この年寄りにも新しい楽しみができたので嬉しい限りです」
「できるだけ長生きしてくれれば私がタキタを満足させてみせるよ」
「ホッホッホ」
まだまだ私は未熟だけど、いつか必ずタキタに勝ってみせる。まずは任された役目をこなす事が私の成長に繋がると信じて、しっかりヤート君達を青の村に案内しよう。
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◎後書き
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
感想・評価・レビューなどもお待ちしています。
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