青の村への旅にて 青の老竜人の見えない底と深まる謎

「ちくしょう。あそこまで力を込めて頭つかまなくても良いだろーが……」


 兄さんが仕留めたワニみたいな魔獣の焼けた肉を食べながらぼやく。血抜きや解体とかで、そこそこ時間が経ってるのにラカムタさんにつかまれた頭がまだ痛むみたい。僕は持参していた乾燥果物を食べるのをやめて兄さんに聞いた。


「兄さん、そんなに痛いなら同調で状態を確認しようか?」

「ヤート、ガルの自業自得なんだから気にしなくて良いわよ。それにガルは無駄に頑丈だしね」

「マイネ……」

「何?」


 兄さんが食べるのをやめて姉さんを鋭い目で見て、姉さんも姉さんで兄さんを冷めた目で見ている。ほんの一瞬前まで和やかな食事時だったのに、今じゃ少しのきっかけで大乱闘になりそうな緊張感が満ちていく。いっしょに食事してるリンリーとイリュキンは急な展開に対応できないみたいだから僕が止めるしかないみたい。


「ホッホッホッ、元気なのはよろしいが、もっと落ち着くべきですな」

「オワッ!!」

「キャッ!!」


 緊張感が高まり兄さんと姉さんが正に動き出そうとした時に、いつのまにか僕達のそばにいたタキタさんが兄さんと姉さんの肩に触れていた。……いつ僕達のそばに来たんだろ? いくら兄さんと姉さんの様子に集中してとはいえ、河沿いっていう開けた場所で近づいてくるのを見逃すなんてありえない。イリュキンも突然現れたタキタさんに一瞬身体をビクッとさせていた。


「……タキタ、何かあったのかい?」

「ガル殿とマイネ殿にご忠告をと思いましてな」

「じいさん、何の用だ」

「ガル、失礼よ」

「マイネ殿、構いませんよ。ただ、あちらの御仁をこれ以上刺激しないようにお願いしたい」


 タキタさんが二人の肩に触れていた手を離して大人達が座っている方を指差す。タキタさんの指の方向を目で追ったら、噴火寸前の火山って感じのものすごく険しい顔で僕達を見ているラカムタさんがいた。兄さんは目が合ったらしくヒュッて小さく息を飲み、リンリーは恐る恐る兄さんと姉さんに声をかける。


「……ガル君、マイネさん、今は静かに食ベましょう」

「私もこれ以上ラカムタ殿を刺激したくはないな」

「「…………」」


 兄さんと姉さんはお互いを少し見た後、同時にフッと息を吐いて静かに食事を再開した。タキタさんは大丈夫と判断したのか僕達を見回した後、軽く頭を下げてラカムタさんや他の水守みずもり達の方に戻っていく。僕はその後ろ姿を見ながらイリュキンに聞いた。


「イリュキン」

「何かな? ヤート君」

「タキタさんって、どんな人?」

「……タキタか。一言で言えばよくわからないかな」

「よくわからない? 水守みずもりのまとめ役でいつもいっしょにいるのに?」

「いつもというわけじゃないよ。実際、赤の村での交流会には来なかったしね。あとよくわからないっていう言い方がピンとこないなら、こう言い替えよう。タキタは何をどこまでできるかの底がわからない存在だね。それに……」

「それに?」

「タキタが何歳なのか私は知らない」


 イリュキンの言った事が不思議で僕達は顔を見合わせた。


「俺達竜人族りゅうじんぞくは子供の時は別として、大人になってからは歳なんて数えねえから当たり前だろ」

「それでもだいたい何歳かは知ってるものだよ。だけどタキタの場合、お祖母様や青の村長むらおさに他の水守みずもり達にもタキタの年齢を聞いた事があるけど誰も知らなかった」

「なんで、そんなにタキタさんの年齢が気になったんですか?」

竜人族りゅうじんぞくは魔力量が多いから老化しにくいという事があるにせよ、昔からタキタは見た目が変わらないからさ」

「じいさんばあさんの見た目なんて俺達が生まれてからの数年でそこまで変わるか?」

「うん、確かに私が生まれて十年程度で老齢の域に達してるものの見た目が急激に変わるとは思っていないさ。だけど、タキタの見た目がのは、さすがにおかしいだろう?」

「「「…………」」」


 どうやら僕がタキタさんを観察する事にしたのは間違ってなかったみたいだ。同じ青から見てもよくわからないなら観察しかないよね。ただ問題なのは、どうやってタキタさんの素や実力の底を見るかだ。タキタさんに同調を使えばいろいろわかると思うけど、もしかするとタキタさんなら同調をごまかすくらいできるかもしれない。……虎穴に入らずんば虎子を得ずって前世で言われてたし僕の方から動いてみようかな。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

◎後書き

最後まで読んでいただきありがとうございます。


注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。


感想・評価・レビューなどもお待ちしています。

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