黒の村にて 僕の影響と知らなかった事
黒の村の中でリンリーとイリュキンが並んで歩くのが見慣れた光景になって数日経ったある日、僕が畑で薬草の世話をしていると
「イリュキン、そんなに薬草が珍しい?」
「青の村でも育てているから珍しい訳じゃないんだけど、どれも青の村の数倍は育ち具合が違うから驚いてる」
「まあ、ここは
「倍ぐらいなら君の言う通りだと思う。でも数倍となると絶対に環境の違いだけじゃない」
「そう?」
「ああ、その証拠にここ二~三日の間にリンリーに案内してもらった他の畑のものは、ここまで異常に育ってなかった。
イリュキンが微妙に興奮しながら
「その通りじゃ。交易品としてもヤートの育てたものは、狩人達の獲ってきた魔獣の素材を上回る事もあるぐらい飛び抜けて成長しておるのう」
「やっぱりそうですよね。ヤート君差し支えなければ教えてもらいたんだが、こんなに育つなんて何か特別な事をしてるのかい? 」
「同調して一つ一つの状態や与える最適な水の量とか土中の栄養状態を確認してるだけ。薬草に満足してもらえる環境になるように心がけてる」
「それは君にしかできない事だね。しかし
「それがのう、むしろ他のもの達のやる気は上がっておるんじゃ」
「なぜです?」
「先ほどヤートが言った通り
「なるほど、確かに私も明らかに自分が負けていたら超えたくなって燃えますね」
「今では品種ごとに記録をつけ手入れを改善したり異なる品種を交配させたりもして、黒の村全体の収穫量はそれまでの六割増になったんじゃ」
「ろ、六割も増えたんですか。……そういえば青の村に戻った時にヤート君に渡された薬草やその加工品を見せたら騒ぎなっていました」
「そうじゃろうな」
いつからか黒の村のみんなが僕に植物の手入れについて聞いてくるようになったのは、そういう理由だったのか。というか、僕の育てた薬草がきっかけでそんな事になってるなんて知らなかった。僕が納得と驚きに包まれてると、ふと一つ疑問に思った事があったから
「
「おお、そうじゃった。忘れておったわ」
「それで用って何?」
「青の村に行くもの達と出発する日が決まったから、決定事項の共有のために集会所に集まってほしいんじゃよ」
「わかった。道具を片付けてくる」
……
「それで兄さん達は何でケガして汚れてるの?」
「それはだな……」
ラカムタさんが僕の方に近づいてきた。そしてケガして汚れてるみんなを一度見回すとポツリとつぶやいた。
「青の村に行くものを選抜する勝ち抜き戦をやったんだ」
「は?」
「その結果、ガル、マイネ、リンリーが勝ち抜き青の村に行く事になった」
兄さん達のケガや汚れはどう考えても数時間以内にできたものって感じだな。……えっ、という事は僕が薬草の手入れをしてた時に兄さん達は勝ち抜き戦をやってたの? 全く気付かなかったし勝ち抜き戦が開催される事を知らなかった。いや、それよりもだ。
「僕は勝ち抜き戦に参加してないんだけど」
「ヤート、お前は始めから青の村に行くのが確定してるんだから参加しなくても良いんだよ」
「ラカムタさん、それじゃあ不公平でしょ」
「大丈夫よ」
「何が大丈夫なの? 姉さん」
「勝ち抜き戦を始める前に
「それに?」
「ヤートと戦うのは色んな意味で大変そうだから、
「そうだな」
「そうですね」
姉さんの言葉にみんながうなずいてる。……ものすごく納得がいかないのは何だろう。僕がモヤッとしてると隣にいたイリュキンが笑い出した。
「いやあ、黒の子供のみの勝ち抜き戦とは言え、実に見事な戦いだった。見ている内に私も途中から参戦しようか本気で悩んだよ」
「やはりですか。なりませんぞ。姫さま」
「たまには良いじゃないか」
「なりません」
「タキタは、黒の子供達の戦いを見て何も感じなかったのかい?」
「見事なものだったというのは同感ですからダメだと言っているです。熱戦の中で姫さまに万が一の事があったらどうするのですか?」
タキタさんが、真っ当な正論を言うと、イリュキンはごく当たり前に僕を指差した。
「私に何かあってもヤート君がいる」
「治療されるのを前提にしないでください」
「はあ、たまには全力で戦いたいんだが……」
「
「
客であるイリュキン達がいるのに何してるんだって思ったらイリュキン達は観戦してたのか。やっぱり何かしら重要な立場になるといろいろ大変なんだな。そういえば前にラカムタさんも顔役になりたての頃は、それまでした事がなかった交渉事に慣れるまで大変だったって言ってたね。まあ、勝ち抜き戦の事を誰も教えてくれなかったのは納得いかないけど、イリュキン達が楽しめたんだから良しとしよう。
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◎後書き
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
感想・評価・レビューなどもお待ちしています。
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