赤の村にて 再会と会話
あの意味がない決闘から二日が過ぎた。
黒が間借りしている建物から出ると暑くも寒くも無く、そよそよとさわやかな風が吹いている晴れた良い天気だった。
近くにいた黒の大人に散歩に行く事を伝えて歩き出す。黒の村がある
どの方向に行くか? どんな植物・風景を見れるか? そんな事を考えていたら、いつの間にか赤の村の門が見えてきた。
「黒のヤーヴェルト、散歩に行きたいから通って良い?」
「あ、ああ、わかっているとは思うが……」
「そこまで遠くに行くつもりもないし無理もしないから大丈夫。それに黒の大人にも散歩に行くって言ってある」
「……そうか、それでも気をつけてくれ」
「ありがとう。それじゃ」
そう言えば赤を始め、他の色の
赤の村を出て数分もすると周りを緑に囲まれて、いろんな植物の匂いがしてくる。ちなみに今散歩しているところは当然初めての場所だけど、なんとなく赤の村の方向が分かるから迷う心配はない。野生の勘に感謝だ。一応変わった形の樹を覚えたり途中で採った蔓を枝に結んだりして迷わないように対策はしてるけどね。
サクサクサク。
チッチッチッ、ピーピッピーピッピーピッ。
ヒュー。
やっぱり散歩は良い。落葉が覆う地面を歩く音、何かの鳴き声、風が吹き抜ける音、いろんな音が聞けるのは病室で寝てばかりだった前世と比べたら天と地ぐらい本当に違う。そんな風に自然に囲まれ自然を感じるっていうごく普通の事に幸せな気持ちになっていると、遠くの方からドドドドドドッという音が聞こえ、その音が僕の方に近づいてくるのがわかった。
何だろって思っていたら音とともに地面から規則的な振動が伝わってくる。……この感じは正体はわからないけど、かなり大きい奴が走ってるみたいだな。なんとなく大丈夫かなって思いそのまま待っていると、僕の右斜め前方から土煙に覆われた大きい奴が飛び出してきて僕の横を通り過ぎ少し離れた所に地面をガリガリ削りながら止まった。じっと煙が晴れるのを待ってたら、土煙の中からヌッと巨体が出てくる。
「おっ、久しぶり……で良いのかな?」
「ブオ!!」
目の前に現れたのは、赤の村到着初日に傷の手当てをした
「完治したみたいで安心した」
「ブオ」
「それにしても……、そんなに時間経ってないのにお前大きくなってない?」
「ブオ?」
本人? 本猪? は自覚してないみたいだけど、触った感じも前より筋肉がみっちりと詰まってるし足周りとかも太くなってるから絶対大きくなってる。そういえば
「ブオ?」
「あ、ごめん。ちょっと考え事してた。いっしょに散歩する?」
「ブオ!!」
「そうか、なんか良い感じのところがあったら案内してよ」
「ブオ」
思わぬ散歩仲間ができた。こういう事があるのも散歩の良いところだね。特に危ない事をする気も危ない場所に行く気もないけど、これで安全が確保できたから遠出してもみんなに怒られる事はないはず。散歩してるだけなのに、たまに危ないって怒られるんだよね。
その後もう一刻ほど散歩した後、小川の近くで休憩する事にした。もっと僕の内臓が丈夫なら川魚を獲って食べるんだけど、弱いものは弱いから素直に諦めて別の事で楽しもう。適当な河原の岩に座り水に腰から外した小袋と足を浸けて、川辺を吹き抜ける風と川の流れる音を聞きながらボーッとする。……贅沢な時間だね。おっと川の水で冷してたリンゴみたいなリップルを忘れてた。採りたての奴も美味しいけど冷した奴も最高だ。一口かじれば、常温の奴よりも良い香りが口の中に広がり冷して果肉が締まったのか、シャリシャリからガリガリと歯応えも増している。冷しただけでこんなにも違うんだから食事は面白い。それとやっぱり動物は、口で何かを食べないとダメだっていうのも実感できる。あ~、自然に囲まれて食事をするのは最高に幸せだ。
「ブオ?」
「なんか良い感じだと思ってさ」
「ブ?」
「美味しいものを食べながら、ボーッとするのが最高って事」
「……ブオ?」
「そうだなぁ……、何か美味しいもの食べて満腹になった時は幸せだよね?」
「ブオ!!!」
「僕にとっては今がそんな感じ」
「ブオォ」
「それに気が合う奴と、いっしょにいれるのも良いしね」
「ブォォ……」
「照れてる?」
「ブォ!! ブオオ!!!」
「ごめんごめん。でも、からかってるわけじゃなくて本気で言ってる」
「ブオ……」
「一人には慣れてるから気にしなくて良いよ」
「……ブオ」
「だから気にしなくて良いって村に帰れば話す人はいるからね」
「ブオ?」
「そうだよ? ブラブラ散歩するのが好きなだけで、別に他人が嫌いってわけじゃないからね。…………ふぁ」
「ブ?」
「んー、ちょっと疲れたし良い天気だから眠くなってきただけ」
「…………ブオ」
「……何?」
僕がアクビをしてウトウトし始めると、少し離れたところにいた
「ブオ」
「良いの?」
「ブオ、……ブオ」
「そうか、じゃあ遠慮なく」
どうやら
どれくらい寝ていたのかわからないけど、
「ブオ?」
「うん、よく寝れた。ありがとう」
「ブオ」
「そうそう、そろそろ帰らないと不味い。完全に怒られる。今日はここでお別れだね」
「ブオ?」
「なんでって、お前も巣に帰るよね? だから、ここで別れようって事なんだけど?」
「ブオ?」
「まあね。遠出になったから、村に帰るのは時間はかかりそうかな」
「ブオ!!」
「任せろって何を……?」
僕が言い終わるより早く、
「マイネ。ヤートは、まだ戻ってないか?」
「あっ、ラカムタさん。ええ、まだ戻ってないわ」
「そうか、…………イギギ、少し出てくる」
「俺も行く」
「ガルとマイネは入れ違いになったら厄介だからここで待っていろ。」
「お前ら、ちょっと待て。ここは土地勘のある俺ら赤が出た方が良いだろ」
「それはそうだが……」
「任せておけ!! おい、動ける奴はヤートを探すぞ!!!」
「「「「おう」」」」
「行くぞ!! …………待て」
赤の竜人達が走り始めようとした時にドドドドドドドドドドドドドドドッという音が遠くの方から響いてきた。
「チッ、こんな時にやっかいな」
「おいイギギ、なんだこの音は?」
「お前らも知ってる奴の足音だ」
門に集まっている全員が音のする方を警戒していると森の奥から土煙が近づいてくる。そしてもう少しで森を抜けるというところで、ガガガガガッと音をたてながら止まった。土煙が晴れると黒の竜人にとっては「やっぱり」で、その他の竜人にとっては「そんなバカな」という姿があった。そこにいたのは
「ただいま。この感じだと夕食には間に合ったみたいだね。ありがとう助かった」
「ブオ」
どこまでもマイペースな会話が、微妙な空気に広がっていった。
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◎後書き
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
感想・評価・レビューなどもお待ちしています。
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