赤の村にて 初戦闘とかみ合わない二人 中編
「そこまでにしてもらえないかな?」
こいつは、確か昨日クトーと檻の前にいた青の竜人だったかな? それにしても一応決闘なのに、まさか横槍が入るとは思わなかった。
「どうかな?」
「無理だね。というか誰?」
「ああ、申し訳ない。私は青のイリュキンという。理由があれば聞かせてほしい」
「僕もクトーが
「それは、……そうだね」
「それでも止めないといけないの?」
「できれば、仕切りなおしてもらいたい」
「何で?」
「彼……、クトーが実力をほんの少しも出せていないのは、あまりにもかわいそうでね」
「相手の実力を出させないようにするのは当然だよね? まして、僕は肉体的にも魔力的にも、この場にいる誰よりも弱い。それなのに決闘の相手に実力を出させて戦えと?」
「すまないとは思う。それでも頼めないだろうか……」
「…………はあ、わかった。一度仕切り直すよ。ただし、僕はクトーに実力を出させるつもりはない」
「感謝する」
本当に面倒くさい。次もさっさと準備して終わらせよう。一度仕切りなおしたから次は文句言われる筋合いはない。僕が
「ねえ、クトーが動き出すまで待たないといけない? それとも、クトーを動けるようにするのも僕がやらないといけないの?」
「…………」
僕の疑問に答えるようにイリュキンは腕をクトーに向けて、僕から奪った水で作った水塊を飛ばした。そして、倒れてるクトーの顔の上に止まると水塊はバシャッと崩れた。
「フワッ!!」
「クトー、意識ははっきりしたかい?」
「冷てえだろうが!! 何しやがる!! イリュキン!!」
「いろんな意味で目が覚めただろう? 状況は理解できてるのかな?」
「……ああ」
「私は恥をかいた。それこそ何一つ筋の通っていない事を言ってね。だから、もしさっきのような無様な姿を晒して、さらに私に恥をかかせたら君は私が潰す」
なんか勝手に二人で盛り上がってるな。……その間に準備しよう。クトーも今度はマジメにやるだろうし仕込みは多い方が良い。……
「そろそろ始めて良い?」
「待たせてしまって申し訳ない。クトーも気持ちを切り換えたから、次はもっと良い勝負になるはずだ」
「相手がどんな感じでも、やる事は変わらないからどうでも良いよ」
僕が言い終わると、クトーが
「なんで最初からそうやって、まともにやらなかったの? まともにやれてれば、あんな自滅って言っても良い醜態はさらさなくて良かったよね?」
「……うるせえ」
「まあ、どうでも良いか。それじゃ始めるけど今回は先手は僕だ」
特にクトーから異論がでなかったから、こっちから仕掛ける。どの種を使おうかな? 幸いクトーは頑丈だから威力を試す実験台にもってこい。……まずは、これで行くか。
「
僕がつぶやくと足元からシュルシュルと蔓が伸びてきて、あっという間に高さ二ルーメくらいになった。その先には蕾をつけており膨らんだり萎んだりしている。そして僕が
「グオッ!!」
発射された種は一直線にクトーに向かって行く。当たる寸前になってようやく反応できたクトーは、とっさに腕を胸の前で交差させて直撃を防いだけど種の威力に数ルーメほど後ろに弾かれた。クトーに防がれた種はというと、はね返り地面に完全にめり込んだ。
「
「ちくしょう!!」
「それは頭が冷えて冷静に構えてたのに、まともに僕の攻撃に反応できなかった自分に対する叫び?」
「……」
図星だったのか黙り込んでギシッとかメキッていう音が聞こえるくらい噛み締めてるのに歯が折れる音がない。本当に
「ところで止まってて良いの? 良い的だよ?」
「クッ!!」
僕は、次々と種を射ち込んでいく。ドン!! ドン!! って射つ時もあればドドン!! って射ったりもした。かなり雑に射ってるせいかクトーには避けられていて、避けられた種は広場のあっちこっちに埋まっていく。その後、三十発くらい射つと、
「おっ、種切れか……、次はどうしようかな……」
へえ、種切れってわかった途端に、また飛びかかってくるかと思ったけどこない。まあ、迷ってるのがバレバレだけどね。…………本当に待ってるのに来ない。さっさと来てくれた方が楽だから来てほしい。……しょうがないな。
「ずいぶんと今回は慎重だね。まるでさっきとは別人だ」
「うるせえ、てめーのやり方はわかってんだよ。俺を挑発して攻めさせて罠にはめる。そんな臆病者のくだらないやり方だろ?」
「否定はしないよ。考えなしに突進してくる奴と戦う時は、勝手に自滅してくれるから罠が一番効率が良い」
「てめえ!!」
「単なる事実。さて、このままにらみ合ってても時間の無駄だから、こっちからも行くよ」
「何言ってやがる。てめえにそん、ガハッ」
僕も
「さ……せ……るか!!」
「おっと、危ない危ない。お前じゃないけど、少し油断しすぎたね」
うずくまっているとは言え不用意に近づいた僕を、クトーはつかもうと腕を伸ばしてきたけど、なんとか避けて離れた。クトーを見ると、まだ多少グラつきながら立ち上がっていた。……これでも顎に全力で打ち込んだのに、やっぱり今の僕だと
「反省……は後にして、覚悟は良い?
クトーは僕のつぶやきを聞くと自分の肩を確認する。さすがに僕が無駄な行動をしないって学習したみたいだな。まあ、完全に手遅れなんだけどね。すでにクトーが僕が触った肩を確認した時には、見た目がタンポポような花が咲いていた。
ズドーーーン!!!
「…………さすがにやりすぎかな」
爆風で舞い上げられた土煙の中で少し反省していると、クトーがいた辺りからコツンっていう石が落ちた音とかゲホッっていう咳の音とかが聞こえてきた。本当に、この決闘の最中に頑丈だなっていう驚きと呆れが混じった思いが浮ぶのは何度目だろ?
「ゲホッ!! ガハッ!! こ……の、ゲホッ、野郎!!」
「…………本当に、
至近距離であの爆発を喰らったのに、痛みを感じさせず猛然と飛びかかってくるクトーに加減の必要がない事が理解できた。
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◎後書き
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
感想・評価・レビューなどもお待ちしています。
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