生まれてから お互いの告白と理解

 今日も森を散歩しているけど一人じゃない。なぜか最近は兄弟が僕の散歩についてくる。


 僕は三人兄弟の末っ子で上に兄一人と姉一人がいて二人とも欠色けっしょくの僕と違い、黒の竜人族りゅうじんぞくらしい星のない夜空みたいなキレイな黒色の肌と鱗だ。


 兄のガルドは周りからはガルと呼ばれていて同年代の中では、いわゆるガキ大将のような存在らしく子供の遊びでしている狩りもどきでも、先頭に立って獲物を狩っているらしい。次に姉のマイネリシュは周りからはマイネって呼ばれて同年代の女子の間で中心にいる事が多いらしい。竜人族りゅうじんぞくは男女関係なく身体能力が高いため女性でも狩りの達人と言う人は割と多く、姉さんもその例に漏れず狩りもどきで活躍しているみたい。


 ちなみに兄弟の事なのに「らしい」や「みたい」って曖昧に言うのは、僕が普段は一人でぶらぶら散歩しているため実際に見た事がないためだ。


 そんな二人が僕の散歩についてくる理由がわからないから、二人の方を向いて聞いてみた。


「なんで最近、兄さんと姉さんは僕の散歩についてくるの?」

「……ヤート、お前本気で聞いてんのか?」

「うん」

「ヤート、それはね父さんと母さんにというか、周りのみんなから頼まれてるの」

「なんで?」

「前におまえが上着を無くして血だらけで帰って来ただろ? あれが原因の一つだ」

「あれはケガした奴が居たからで、上着はその手当てに使ったってちゃんと説明したよ?」

「その説明は聞いたしわかってる。ただもう一つ原因がある」

「もう一つの原因? ……他に問題を起こして無いはずだけど」

「「……」」


 兄さんと姉さんの様子がおかしい。二人してお互いの顔を見て、どっちが言うのかを押し付けあっている感じだ。話しにくい事なのかもしれないけど、もう一つの原因っていうのが気になるから話を先に進めよう。


「それで原因って何?」

「それは……」

「それは?」

「ヤートが普段何をしてるか、誰も詳しく知らないからよ」

「え? ……今さら?」

「「…………」」


 僕の微妙な顔を見て二人とも顔を背けた。どうやら自分達が変な事を言っているという自覚はあるみたいだ。まあ、実際のところ変な事を言っているわけだけどね。なぜなら僕はここ数年一人でよく散歩に出かけていたからで、その間に父さんや母さんや村のみんなに気をつけるようにとは言われるけど誰かがついてきた事はない。今さら詳しく聞かれるのも妙な話だよ。


「何をしてると言われても夕食の時に話してるような事だね」

「詳しくって言ったでしょ」

「詳しくって言っても本当に夕食の時に話してるような事だけだよ。村をグルッと回ったり、森でお気に入りの場所を果物とか薬草を採取しながらぶらぶら歩いてるだけ。ケガした奴に出会ったのだって、この前が初めてだし」

「そうなのか?」

「そうだよ。それに僕の体力が余りないって、兄さんと姉さんも知ってるでしょ? 無理はしないよ」

「ヤート……」


 素直に聞かれた事に答えてるだけなのに、なぜか二人は顔をしかめていた。なんか変な事を言ったかな? どうしたんだろ?


「……実はねヤート、今話したのは建前なの」

「おいっ!! マイネ!! それは話を聞いてからだろ!!」

「……建前?」

「良いじゃない。ヤートはヤートでしょ? ガルはヤートが嘘ついたり誤魔化すと思ってる?」

「思わねぇ。思わねぇけど……」


 突然、目の前で兄さんと姉さんが言い合いを始めた。明らかに僕の事で言い合ってるね。このままだとケンカになりそうだから割り込もう。


「兄さん、姉さん、何の話をしてるの?」

「あっ、悪い。あー、なんというか……」


 兄さんが、頭をボリボリ書きながら黙り込んだ。どうやら言いたい事を、まとめているみたい。そんなに難しい事を聞きたいのかな? だったら大人がくれば良いのに……って、思うけど村の大人達は子供同士の方が良いって考えたのかもしれない。


「ガル、私が言った方が良い?」

「……ああ、頼む。俺だとうまく言えねえ」

「わかったわ。ヤート、この辺で落ち着いて話せるところはないかしら?」

「少し行ったところが開けてるから、そこなら良いと思うよ」

「じゃあ、そこで話しましょう。案内してちょうだい」




 少し歩いて開けた場所に出たのは、僕が散歩中の休憩場所に決めているところ。倒木がちょうど良い長イス替わりになっている僕のお気に入りの場所の一つで、普段はこの倒木に座って空を眺めたりもしている。村の中からも空は見えるけど、樹々の間から見える空の方がなんか好きだ。


 前世でも病室から空は見えていたけど、病室から見える空は僕を拒絶しているような感じがしたから嫌いだった。もちろん僕が勝手にそんな風に思っていたんだけどね。そんなお気に入りの場所で、僕達は一本の倒木に並んで座る。ちなみに並び順は、僕を兄さんと姉さんが挟んでいる。


「……私達が最近になってヤートと一緒にいるのは、ヤートの事を知りたいからなの」

「僕の事? どんな事?」

「ヤートは、私達と違うじゃない? それはどう思ってるの?」

「身体の事? ……そうだね、白いなって思うよ」

「……他には?」

「え? それだけだけど?」

「え?」

「どうかした?」

「ヤート……、本当にそれだけか?」

「…………考えても他に思いつく事は無いね」


 僕が答えるたびに兄さんと姉さんが困惑していく。……僕はそんなに変な事を言ってるかな?


「…………ヤート、父さんや母さん、それに村のみんなは、あなたがわからないの」

「例えばどんな事が?」

「ヤートは「欠色けっしょく」よね? 欠色けっしょくは身体が弱いし魔力も少ないし、ヤートがどれだけ鍛えても私達のようにはなれないわ。なんでヤートは平気なの? みんなは、それがわからないの……」

「ああ、その事か。だから、みんな僕が身体の事を言った時に微妙な感じになってるんだね」


 やっと兄さんと姉さんが僕に聞きたい事がわかった。


「それで、どうなんだ?」

「これって言う不満がないからだよ」

「なんでだ?」

「前にも言ったと思うけど普通に歩けて食べれて話せるから何も問題ないよ。それに卵の中にいた時の事もあるしね」

「卵の中って生まれる前の事?」

「そう。僕ね、卵の中で死にかけてたんだ。ちょっとずつ自分が無くなっていくのがわかったんだけど、殻を割る力がほとんど無くなって諦めた。そしたら母さんが僕の入ってた卵を持って泣いて必死に生まれてって声かけてくれたし、父さんの震える声も聞こえた。だから生まれたいって、せめて父さんと母さんに顔を見せたかったから残った力を振り絞って殻を割ったんだ」

「そうなのか……」

「うん。僕は生まれて良かったって思ってる。優しい父さんと母さんに、頼りになる兄さんと姉さんもいる。 不満なんか持てないよ」




「ヤートが、そう言ったんじゃな?」

「おう!! ヤートが、そう言ってたぜ!! 嘘じゃねえぞ!!」

「ガル!! 村長むらおさに失礼よ!!」

「マイネ、構わんよ。マルディ、エステア、良かったの。お前達の子は強く優しい子みたいじゃな」

「はい……、ありがとうございます。 村長むらおさ

「ありがとうございます」

「これで結論は出たのう。良いか皆のもの、ヤートはこれまで通り見守るように!! 良いな!!」


 ガルドとマイネリシュの証言を受けて、村長むらおさの家に集まっている村の大人達はホッと胸をなでおろす。これは「欠色けっしょく」であるヤートが自分達とは違う存在なのかもしれないと心のどこかで考えていた事を表していて、実際そう思える程にヤートは落ち着いていて何の不満を見せなかった。


 長い村の歴史の中で初めて産まれた「欠色けっしょく」の存在をどうするかを村のもの達は何度も話し合ってきたが結論を出せなかった。これがヤートの感じていた村のもの達の微妙な態度の原因だったのだが、それが今回のヤート本人の言葉を聞けて落ち着いた静かな子供であると結論が出て理解され、ヤートが村に本当の意味で受け入れられた瞬間となった。




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◎後書き

最後まで読んでいただきありがとうございます。


注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。


感想・評価・レビューなどもお待ちしています。

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