ひ弱な竜人 ~周りより弱い身体に転生して、たまに面倒くさい事にも出会うけど家族・仲間・植物に囲まれて二度目の人生を楽しんでます~

白黒キリン

プロローグ 生まれるまで

 今日も窓を開けて朝のさわやかな空気を胸いっぱいに吸い込んだ後、寝ている間に固くなった身体をほぐし身体の調子を確かめる。……うん、身体はいつも通り動く。この身体になって八年になるけど、本当に今でも健康って大切だなと心の底から思えるよ。


 僕には毎朝身体をほぐす時に考える誰にも言ってない秘密がある。それは僕が前世の記憶を持っているいわゆる転生者という事だ。ちなみに前世は病人……それも重度の病人で、まともに学校には行けてないし実家の様子もほとんど覚えていない。


 前世の僕はもうすぐ十二歳になるという時に病状が急変して死んだ。親より先に死ぬわけだから、前世で読んだ本にあった賽の河原さいのかわらで石ころを積む事になるだろうなって、ズレた事を考えながら意識を無くしたのを最後に、この世界に産まれた。




 気がつくと真っ暗な狭い空間にいたから最初はわけがわからなかった。でも、身体に触れている壁を手で確かめたり耳をすませたりした結果、何となく危ない事はないとわかったからそのまま目を閉じ眠る。


 その後にどれくらい時間が経ったのかわからないけど、ある時周りからバキバキとかバリバリっていう何かが壊れる音と鳴き声も聞こえてきて、やっと自分が卵の中にいるという状況がわかった。しばらく周りの音を聞いていたら僕自身も急に殻から出たくなったのは、きっと本能みたいなものが働いたんだと思う。


 なんとか殻を破ろうと、ジタバタしてみたけど中々破れない。それから数分間ジタバタしていたら、だんだん息が苦しくなってくる。頭に酸欠の二文字かチラついて一気に血の気が引き、自分にはあまり時間がないとわかって一撃に賭ける事にした。


 今は卵の中に膝を抱えた状態でいるから、できるだけ力を伝えやすいように背中を殻壁に当てて支えにする。そして酸素が少ない中で深呼吸をし意識を集中した後に、心の中で三つ数え身体を伸ばすように一気に殻へ力をぶつけた。


 身体にミシミシと殻が軋む感じが伝わったけどヒビは入らない。あと一息のはずだけど、その一息が難しかった。それでもなんとかしようって力を込めたけど、意識が遠のき始めクラクラしてくる。さらに全力を出してたら意識がさらに薄れてきた。


 そうして殻を破れないでいると一度死んだせいか、それとも前世での長い闘病生活の影響で活力が無くなっているのか、途中であっさりと諦めがついてしまう。身体の力をスッと抜いて二度と目覚めないだろう眠りに落ち始める中、また周りの音が聞こえてきた。


「あなた、この子……」

「お前は初産なんだ。初産の場合、全員無事に生まれるのは難しいと言われていただろう……」

「でも、まだこの子はここにいます!! 世界に還ってません!! 殻を割ってあげれば、この子だって……」

「それだけはダメだ!! お前もこの子が自力で殻を破れなければ、結局は世界に負けて死ぬ事になるとわかっているだろう?」

「ううっ…………」


 両親と思われる二人の話を聞いていると、卵がかすかに揺れて動かされた。どうやら持ち上げられたみたいだ。母親らしい人の祈るような声が殻越しに聞こえてくる。


「お願い……。顔を見せて……、声を聞かせて……。お願いだから……」

「……諦めろとは言えない。だが、他の二人は無事に生まれたんだ。そちらに思いを注いでやろう」

「あっ……、そう……ね…………」


 卵が静かに床に置かれて、母親の悲しげなささやきが聞こえた。


「ごめんね……。私が初産じゃなかったら生まれて来れたのに……、ごめんね…………ごめんね…………」


 母親のささやきが、薄れた意識の中ではっきりと聞こえた。そのささやきの間にポタッポタッという刺激が殻にあった。それが母親の涙だとわかった瞬間に生まれたのは、あなたのせいじゃないという思いだった。


 考えてみれば前世では何も親孝行ができていないし、両親を泣かせてばかりだった。それなのに今世の親も泣かせている事が情けなくて腹立たしかったから例え命が燃え尽きても、せめて顔を見せて死のうと無理やり意識を戻して、さっき以上に全力で力んだ。


 時間が経ってささやきが聞こえなくなったから、父親だけじゃなく母親も離れたみたいだけど関係ない。とにかく両親に顔を見せようと必死だった。あいかわらずミシミシ軋むだけで殻にヒビは入らなかった。それでも全力で力んでいると、今度は噛みしめすぎたのか口の中に血の味を感じた。


 さらに時間が経ってようやくピキッと言う音がして、かすかに光が射し込んできた時はうれしくてたまらなかった。外に出たい。光を浴びたい。風を感じたい。両親に顔を見せたい。いろんな思いが溢れ、さらに力を振りしぼった。


 そして、ピシ……、ピシ……、ピシ……、ピキッ、ピキッ、ピキピキッ、バキン!!


「キャオー……」


 小さい産声しか出せなかったけど、母さん、父さん、僕は生まれたよ。


 そんな思いと光や空気を感じながら、今度こそ意識を失った。




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◎後書き

最後まで読んでいただきありがとうございます。


注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。


感想・評価・レビューなどもお待ちしています。

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