窓頭のバレリーナ
SaLa
序章
大きな湖を眼下に望む《白鳥園》にはかつて、ちょこんと窓辺から頭を覗かせる、それは愛らしく、同時に儚げな少女が居ました。
彼女の名前は冬子と言いました。齢を十三にして、将来有望とされる〝バレリーナの卵〟として、沢山の期待をその小さな体に背負っていました。
《白鳥園》は、もう先が長くない人が収容されている養護施設です。春先には白鳥の群れが優雅に泳ぐ、とてもきれいな湖の畔に建てられました。
冬子には右足がありませんでした。とても若くして骨肉腫を患い、切除してしまったからです。
そして彼女が《白鳥園》に居る理由は、骨肉腫の発見がとても遅れてしまったことに関係します。つまるところ癌の全身転移という、十代の少女にはとても耐えがたい爆弾を抱えてしまったと言えましょう。
冬子が《白鳥園》へやってきたのは、彼女が十三歳になる数か月前でした。
まったく生気の無い、しかしとても整った顔立ちを見て、私は動く蝋人形でも見ているのかと思ったほどです。それが、私と冬子の出逢いでした。
冬子は収容されて以来、ずっと病室の窓際に居ました。ベッドの隣、腰辺りの高さに設置されている大きな窓で、手前には物を置くスペースがあります。
大抵の人は植物などを飾って気を紛らわせたりするのですが、彼女の場合はポツンとオルゴールが置かれているだけでした。
毎日ベッドに腰かけ、窓の外を虚ろな目で眺めながら、オルゴールの奏でる旋律と共に何かを口ずさんでいました。
いつしか〝
そんな〝窓頭のバレリーナ〟についての話です。
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