ep.29 今は一人で
「おお…!勇者様……、森の異変を解決して下さったのですね……!」
エクス達が村に着くと、入口から歩いてくる影が一つ。
「村長さん…!大丈夫でしたか!?」
トーフェに先程、死人は居ないと聞かされていたがエクスは実際に自分の目で確認するまで心配だった。
杖を突きながら、それでも歩いてくると村長はそのまま崩れ落ちるようにエクスの手を握り、跪く。
「村を救って頂いただけでなく、老い先短い老婆のこの身すら心配してくれるとは……ありがたや……!」
このまま平伏しそうな勢いに、エクスは強引に話を断ち切る。
「無事なら良かったんです……!それより、ちょっとお話が!!」
「はて、お話ですか……それに、こちらのお嬢さんは……?」
「今からする話はこの人の事です…」
そう前置きをすると、エクスはこれまでの事を話した。
「……そうですか……霧に魔力が……それがお嬢さんの物だと……」
「はい」
暫くの沈黙の後、村長はルシエラを見る。
「お嬢さん」
声を掛けられたルシエラは、一瞬身体が強張る。
きっと、これから恨み言を言われるのだろう。罵られるのだろう。
それでも受け止めると決めたから。
怯える心を押し込め、目を見据える。
「あんた、苦労しなさる」
「っ…………」
届いた言葉は、想像していた言葉のどれでもなくて。
言葉に込められた思いは同情以外の何物でもなくて。
「………若いもんが死んだ。それも、心を壊した上でだ。けど、私はそれが不幸な事故だったとしか思えないんだ」
「ちがっ………!彼等は私のせいで……!」
いっそ、罵ってくれた方がまだ良かったのかもしれない。
「それでもお嬢さんは何処までも自分のせいだと責め続けるんだろう。目を見ればわかる。怖くて、悲しくて、それでも覚悟を決めた目だ」
そう言うと村長は手を伸ばし、ルシエラの頭へと乗せる。
「………いい子じゃないか。そんな子を責める気にはなれないね」
優しい暖かさの込められた言葉に、流れそうになった涙をただ堪える。
「だけど、残された者がどう思うかは別だ。分かるね?」
ルシエラは静かに頷く。
「……死んだ者の家族の所に案内しよう。さ、おいで」
そう言うとルシエラと村長は村の中へと入っていった。
その背を追い掛けようとして、エクスは諦める。
きっと、今だけは自分は必要ない。
そう感じたエクスは、ティエラとトーフェの元へと向かう事にした。
「ん……童子か。あの魔女は?」
程なくして、トーフェ達の元へと辿り着いたエクス。
「今、死んだ人達の家族の所に行ってるよ」
少しだけ悲しみを漂わせたエクスの言葉に、「そうか」とだけ返すトーフェ。
「あ!エクスさん!大丈夫でしたか!」
家の中から出てきたティエラと目が合うと、そのまま駆け寄ってくる。
「うん、大丈夫。ティエラさんも大丈夫そうだね」
そう言うと、ティエラは少し怒ったように腕を組む。
「〜〜っぜんっぜん!大丈夫じゃなかったです!!トーフェさんのせいで!!!」
予想外の返しに思わずエクスはトーフェの顔を見るが、本人は素知らぬ顔をしている。
「え、えっと………?」
「トーフェさん、私を荷物みたいに抱えた挙句、凄い勢いで走るんですよ!!!!視界が揺れるし、振動がお腹に響くしでもう凄い酔ったんです!!」
酷いですよね!と憤慨するティエラと、何処までも我関せずを貫いたトーフェの表情に、乾いた笑いしか出ないエクスであった。
「そう言えば、今夜宴をするそうだぞ。鎮魂の意も兼ねてだそうだ」
ふと思い出したようにエクスに伝えるトーフェだが、その姿を見たティエラが無視をするなと言わんばかりに更に吼えた。
エクスはその光景から逃げる様に、ルシエラが歩いていった方角を見る。
(大丈夫かな……ルシエラさん……)
「だから!!もう少し考えて運んでくださいよ!!私だって仮にも女の子なんですよ!!!聴いてますか!!!?」
そんな会話が、空へと溶けていった。
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