ep.28 少しだけ

「さぁ、森を出ようか。………私の家も無くなってしまったことだしね」


「あ……」


二人が振り返ると、薙ぎ倒された木々の隙間から家であった残骸が見え隠れしていた。


「おっと……足場も酷くなってしまったかな…」


ルシエラが杖を軽く振ると、地面が動きだし均される。


「木は……うん。薪にして持っていこうかな……」


ふわりと木々が浮かび上がると急速に枯れ始め、手頃な大きさへと切り分けられる。


そのまま腰に付けていた袋をルシエラが広げると吸い込まれていくように入っていく。


「よし、おしまい。行こうか!」


気が付けば家の残骸すら消え失せ、辺りは小さな広場の様に整備されていた。


「あれ……家は……」


「中身だけ選んで取り出した後、腐らせて土に還したんだ」


「帰る所無くなっちゃったじゃないですか!」


驚くエクスに、ルシエラは悪戯な笑みを浮かべると小さくウィンクをして見せる。



「助けてくれるんだろう?」


そのまま歩き出すルシエラの背を、エクスは追い掛けていく。


やがて誰も居なくなったその空間に、小さな風が吹いた。







「良くやったな、童子」


村へと戻ると、トーフェはエクスの頭を乱雑に撫でる。


「いえ、ルシエラさんが居なければ僕は何も出来なかったかもしれません」


そう言うと、エクスはちらりとルシエラの方を見る。


見られている事に気が付いたルシエラはにこりと笑い、エクスへと手を振っていた。


「まぁ、そういう訳だよ」


胸を張り、自信を持って言うルシエラにトーフェは


「原因はお前だろうが」


手刀を落とす。


「何をしてるんですか!」


「原因が偉そうにしていたから手刀をしただけだ」


驚くエクスに返すトーフェ。


「……それで、どうするんだ?」


痛みに悶え蹲るルシエラを見ながらトーフェはエクスに問う。


「今回は村に死人は出なかった。ティエラが今村人を一人ずつ診ているが、問題は無さそうだ」


ティエラはトーフェに魔力を流し見届けた後、村へと戻っていった。

殆どが軽度の倦怠感と魔力酔いによる吐き気であった為、幸いにも死者は居ない。


「だが、狂って死んだ者が少し前に居ただろう。それはどうするのだ?」


少し暗い表情を見せるエクス。


「……誰も、悪く無いんです」


「遺された者が納得出来るとでも思うか?」


「それは………」



「償うさ。私の生涯を掛けてでも」


睨む様にルシエラを見るトーフェ。


「償いで死人は生き返るか?」


「生き返らないよ。死んだ者は」


それでも、とルシエラは続ける。


「残された者が居る。死んだ者が、愛した相手が居るから。代わりに守る。それを拒まれたとしても。どれだけ罵られようとも。それを受け止める責任がある」


「自己満足だろう。そんなものは」


「だから、魔王を討伐する旅に加えてくれ」


ぴくりと、トーフェの眉が跳ねる。


「……意味が分からんな……贖罪の為に魔王を討つとでも?」


「あぁ、そうだ。生きて帰って、その上で償うんだ」


その眼は、何処までも澄んでいて。


「……まずは残された者と話して来るんだな」


トーフェは冷たい視線を送ると村へと戻って行った。




「……っふぅ………」


息を吐くルシエラの手を、エクスは握る。

その手は氷の様に冷たく、微かに震えていた。


「……少しだけ、手を握っててもいいですか」


エクスの言葉に、軽く笑うルシエラ。


「……何で、君が泣いているのさ………あぁ、でも、少しの間そうしていてくれると、助かるよ」





─────どうか、私に勇気を下さい。

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