ep.17 魔王

「………しかし、魔王の強さは異常です。それこそ、神に届きうる程に」


エリエスは涙を拭い、憂いの表情を見せた。


「……それ程までに、強いのですか…?」


「はい。……一度だけ、彼の者は戦場に立った事がありました。数年前に起きた、人魔大戦をご存知ですか……?」




人魔大戦。

エクスが産まれてから6年程後に、とある大陸に攻め入った事があった。


その数は魔族5万に加え、魔物は10万程であったものの、攻め入った大陸は当時最強と謳われた国が存在していた。


それに加え、英雄と呼ばれる4人が迎え討つために前線へと向かったのだ。


負けるわけが無い、追い返してくれる筈だと。

誰もがそう思っていた。




「……あの戦争で沢山の命の灯が消え去りました。それでも、人の子が英雄と呼ぶ方々は凄まじく、それでいて皆を鼓舞しながら誰よりも血を流しながら戦い、後少しで押し返せた筈です」


「………それ程までに、強かったんですね。英雄の方々は……」


人と魔族、魔物が入り乱れる戦場で輝く英雄の背をエクスは想像する。


無数の魔法が飛び交い、剣戟鳴り響く中で戦うという事がどれ程の事なのか。


「……その戦況を、魔王はたった一人で逆転させました」



「………え?」



「空から膨大な闇の魔力を解き放ち、人の軍の大半を蹂躙し、英雄と呼ばれる者達を切り伏せたのです」



エリエスは悲しそうに目を伏せる。



「……あの魔力の量は、異常です。それに加え、飛んでくる魔法の全てを跳ね返し、剣で切りかかった者はその斬撃の全てが自分へと向かい、倒れ伏せました」



「……そんなの……ありえない………」



魔法が跳ね返され、剣で切りかかっても跳ね返され、その上相手は攻撃が自由に通る。

そんな相手に誰が勝てるのだろうか。



「……だから、せめて貴方達の旅に力になれるよう、授ける物があります」


「授ける……もの……?」


エリエスは掌に光を灯すと、エクスの身体へと飛ばす。


「……一つは、相手の能力を封じる事ができる力です」


「相手の能力を………」



「はい。………ですが、能力が複数ある場合は、一つしか封印が出来ません。加えて、一度きりです」



「……分かりました」


「そして、もう一つの力はここぞという時に使ってくださいね?」


エリエスは赤い光を掌へと宿らせると、エクスへと飛ばす。


「これは……?」



「これは、自らの限界を超えた力を出せる能力になります。しかし、身体への負担はその分重いものになります。……具体的には、使用後は筋肉が軋み動けなくなってしまいます」



そこまで説明した所で、エクスは表情を曇らせた。


「……与えられてばかりの僕に、勝てるのかな……光の魔力も、この場の魔力を借りているだけなんですよね……?」


エリエスは少し驚いた表情を見せたあと、微笑み掛けた。


「光の魔力は、確かに神域の魔力を使います。しかし、本来は貴方にさえ使えないものなんですよ?」


「……そうなんですか?」



「はい。光の魔力を貴方が使えるのは、神域の魔力を貴方が変質させ、光の魔力へと変化させてるからです。間違いなく貴方の力なんです」


「……僕の、力……」


エクスは自分の掌を見つめる。



「それに、与えられた物でも勝てるか負けるかは使い手次第ですからね」




徐々にエリエスの姿がぼやけていく。



「そろそろあなたの身体が目を覚ますようですね……」



「………ありがとうございます。僕、頑張ってみます」



先程までの苦しさや悲しさはもう、無かった。


「貴方がもし、また人の期待に押し潰されそうになってしまった時は仲間を頼ってください。気が付かないだけで、勇者ではない貴方を見てくれる人が居るはずだから……」



そして、視界が光に呑まれる─────

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