ep.16 貴方は
「こうして話すのは初めての事で、少し緊張します」
嬉しそうに手を合わせ、笑顔を見せる女性。
「改めて、名乗らせて頂きます。私の名前は──」
凛とした表情で、名乗る。
「────エリエス。この世界で女神と呼ばれるモノです」
そう言うと深々と頭を下げた。
「そして、貴方に大変な役目を押し付けてしまったモノでもあります」
その言葉を聞いたエクスは、自然と納得した。
同時に、目の前の存在が確かに女神であると理解する。
「……顔をお上げください、女神様」
そう声を掛けても、目の前の女性───女神エリエスは顔を上げなかった。
「貴方にしてしまった事を考えれば、どうして私が顔を上げることが出来ましょうか」
エリエスの頬から涙が伝い、地面へと零れ落ちる。
「人の期待をその身で一心に受け、人の為に死地へと赴く役目を押し付けたこの私が………っ!!」
「それでも、顔を上げてほしいんです」
エクスはエリアスの肩を掴もうとし、すり抜ける。
それを見たエリエスは恐る恐る顔を上げた。
肩を掴めなかった事から少し気まずそうに、恥ずかしそうに目を逸らすエクス。
「………勇者として産まれた事を、教会に初めて伝えられた日の夜、僕は確かに怖かったです。なんで僕がって思いましたし、僕にだって夢があったんです」
エリエスは涙を流しながら自らの肩を抱き、目を逸らした。
「でも、それでも。誰かがやらなきゃ行けないから。だから、僕は納得しているんです。女神様を恨んだりなんて事は、絶対に有り得ません。でも…………」
声が、震えた。
「……僕みたいな臆病者が、勇者で良いのか思ってしまったんです。強くもない、死に怯えている僕なんかが……」
「……それは違いますっ!!!」
エリエスが声を上げる。
「貴方はっ!勇者だと言われる前から人を助けてきました!王都の時だってそうです!!貴方は魔物に襲われていた人を助け、魔族に殺され掛けている幼子を助けました!迷宮での事だって!」
エリエスは膝を付き、エクスを見上げた。
「死が怖いのは当然です!それでも貴方は、人を助けてきたでしょう……っ!臆病者などではありません!そんな貴方が勇者に相応しくないなど、誰が言えますか!!」
「……で、でも、僕はほかの二人よりも弱くて……」
「強い人が勇者になるのではありません!人々を救う為に道を切り開ける者が勇者なのです!」
エリエスは大粒の涙を流しながら、続ける。
「……想いは、時に神をも凌駕するのです。貴方達の進む道の先にどんな敵が待ち受けても、心が負けなければきっと勝てます」
触れる事の出来ないエクスの手に、エリエスは手を重ねる。
「だから、もう。自分を弱いなどと、臆病者などと言わないでください」
重ねられた手は、触れる事が出来ない筈のその手は不思議と、心地良い暖かさに包まれていた。
「貴方は確かに、強いのですから」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます