ep.19 転移。とある城にての一幕
「大丈夫か?童子」
そう問うたトーフェは油断無く刀を構え、歩み寄る。
敵を警戒する様に歩み寄るトーフェにエクスは安心させるように大丈夫だと伝えると、警戒を解く。
「ご心配お掛けしました。でも、大丈夫です」
軽く鼻を啜り、少し腫れた目を拭う。
「そうか、少女は…………」
「ティエラさんも大丈夫です。気を失ってるだけだと思うので……」
視線を向けた先に居る少女、ティエラは魘されているのか時折苦しそうに声をあげていた。
「後は、ここに居るはずの囚われた人達を探さないと……」
声を上げ、直後。背後から倒れ込む様な音が続け様に鳴り、エクスとトーフェは振り返る。
妖しげに光る珠のあった場所に、重なる様にして倒れている人の姿。
そして、部屋を覆うように広がる魔法陣。
「なっ……!これは…」
焦るエクスを、トーフェは宥めながら答えた。
「落ち着け童子。これは恐らく転移魔法だ。迷宮が討伐された際に中に居るもの排出する仕掛けだな」
魔法陣の中を悠々と歩き、倒れている一人を抱えると状態を確認する。
「………魔力が枯渇している、のか?全員が……?まぁ、街に飛ばされる筈だから何とかなるか……」
徐々に魔法陣が輝きを増していく。
「そろそろ、ですかね?」
「あぁ、忘れ物は無いか?」
からかうようにエクスへと問う。
「今日は疲れました……返す元気も無いですよ……」
そう言うとエクスはふらりと倒れ込み、そのまま寝てしまう。
トーフェは目を丸くしたが、気を取り直す。
(恐らく結界内で戦闘もあったのだろう……疲労して当然だな)
戦闘の跡が残された床を眺め、一人納得する。
抉られる様に消え去っている床に、鋭い剣戟の跡が激しさを物語っていた。
ふと、気を失っている獣人の少女に視線を向けると、涙が頬を伝い床へと零れていた。
『師匠の遺品を────』
エクスの言葉を思い出すと、トーフェは静かに目を閉じて、祈る。
「勇敢なる者、死した者よ。輪廻を巡り、再び輝かしい生を送れる様、祈ろう」
溢れ出る言葉は死者への弔い。
「今は唯」
魔法陣が輝きをさらに増し、転移が発動する。
「─────静かに眠れ」
次の瞬間、部屋には誰1人として残っている者は居なかった。
暗い城の中で、一堂に会する者達がいた。
「あれ?下っ端に創らせた迷宮が一つ、終わったみたい」
幼い声が部屋に響く。
「創らせたって……どうせ元からあるものに魔核を寄生させただけでしょう?」
鈴を鳴らす様な声に、不満げに唸る幼い声。
「うぅー。ゼロから創り出すのって手間かかるし嫌なんだよー……つまんないし…」
最後の方は小声で呟いた為、聴こえなかったようだった。
それに同意する様に豪快な男の声が、部屋を揺らすほどの音量で話し始める。
「弱い迷宮とはいえ、討伐出来るほどの者がまだ居るとはなぁ!!!!やるじゃないか!!!!なぁ!!!?」
「…………貴殿は少々、声を落とせ。煩くて敵わん」
低い声で、それでいて不快な様に声を上げる男の声。
「あぁ!?なんか言ったか!!」
「はぁ………落ち着きなさい。王がそろそろ来られるわ」
瞬間、青い光が怪しげに部屋を照らす。
それを合図に、声の主が一斉に跪く。
コツン、コツン。と軽快な音を鳴らし、歩む者は。
黒髪の長髪を揺らし、人ならざる禍々しい角を携えた者は、玉座へと腰掛ける。
それが当然であるかのように。
瞬間、部屋に黒い魔力が満ちた。
この場に居る者が唯の兵であれば、また、弱き者であれば、その者は圧倒的な威圧感を前に儚い生命を無惨に散らす事は想像するに難くない。
それをものともしない者が、四人。
そしてその四人が膝を付き、頭を垂れる者こそ。
人を、エルフを、獣人を。
全てを滅ぼさんとする、王。
「楽にせよ。─────各々、報告を」
勇者が討たんとする者。
「はっ!それでは私からご報告を!」
─────魔王。
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