ep.18 願い
エクスの目の前には、リッチの胸を穿ったティエラの姿。
「───ティエラさん!!!!」
その姿が崩れ落ち、今にも倒れ込もうとするティエラにエクスは駆け寄ろうとして
リッチが優しく受け止めるのを見て、歩みを止める。ティエラへと向ける眼差しがとても優しくて、何処か誇らしそうで。
エクスは直感で、もう大丈夫なんだ、と。もう終わるんだ。と感じ取る。
「……ティエラさんの、お師匠様ですね?初めまして。僕はエクスと申します」
声を、掛けた。
リッチは、ティエラの師は、エクスへと顔を向ける。
『……初めまして。エクスさん……いや、勇者様。お見苦しい姿で申し訳ございません』
エクスの頭の中に優しい声が響く。
『声を出せない為、魔力を伝って思念を飛ばしております』
飛ばされた思念にエクスはひどく驚いた。魔力に思念を乗せるというのは非常に難しく、熟練の魔導師でさえ出来るのは数人しか居ないとされている為である。
「あなたは……非常に高名な方なのですか…?僕は田舎者なので、あまり外を知らなくて…」
その言葉に、愉快そうに体を揺らす。
『いえいえ、今となっては唯のリッチですよ。勇者様を驚かせて何よりです』
そう言うとティエラの師は改めて体を向けると深々とお辞儀をした。
『此度の出来事、解決した上で更に私の様な者に最期の時間を与えて下さった事に、最大の感謝を。そして、勇者様と共に往く魔王討伐の任。果たせない事をお許し下さい』
「いいえ、貴方が共に往こうとしてくれた。その事実だけで僕は嬉しい。その上で……
その上で…………ッ!』
エクスは肩を震わせ、涙を流す。
「あ、貴方をっ………救う事の出来なかった僕を……勇者、と呼んでくれる………!その事が僕はとても悔しくて、悲しい……っ!」
その言葉を聞き、心の底から嬉しそうに
『勇者様にそこまで思って頂ける、これ程嬉しい事はありません。……あぁ、これで満足して逝けそうです。弟子の成長を感じ、夢にまで見た我等の希望と出会えただけでなく、暖かいお言葉を頂けたのですから』
そう言うのだから。
「……最期に、残す事はあります、か?」
言葉はつっかえ、声は未だに震える。それでもエクスは聞く。
自分が救えなかったのだと、そう思いながら。
『そうですねぇ……では、お一つ程』
そう言うとティエラの師は人差し指を立てた。
その体からは光が立ち上り、ぼろぼろと少しずつ砕けては優しい光の粒子へと変わっていく。
時間はあまり無い、そう訴えるように。
『私の死を引き摺らないこと。貴方様は確かに私を救って下さったのだから』
そう言うと一つ、ウインクをして見せた。
少しでも明るく、彼が、エクスが後悔しないようにと。
『エクス君。良く、頑張ってくれたね。ありがとう』
そう言うとエクスの頭にぽん、と手を乗せた。
「………っ、ありがとう、ございます………っ!!」
優しい温もりに、言葉に涙が溢れる。
その言葉を切っ掛けに、体の崩れる速度が上がる。
『あぁ、あともう一つだけ、良いですか?』
思い出した様に言うと、ティエラに優しい眼差しを向ける。
『どうか、この子を私の代わりに同行させてください。既に今の時点で私と同じくらいには補助も癒す事も出来る。それでいてまだ伸び代はある子だ』
気を失い、眠るティエラの頭を撫でる。
『きっと、私が居なくても立ち直れる子だけれど。それでも支えは必要だ。せっかくならば勇者様にお願いしたい』
その言葉にエクスは数巡迷い、決めた。
「分かりました。貴方の言葉通りにします。そして、必ず仲間が一人も欠けることなく魔王を討伐します」
その言葉を聞き、満足した様に頷く。
『ええ、頼みましたよ。勇者様。何時も側で見守らせていただきましょう』
そう言うと体が崩れ落ちた。
まるで言いたい言葉全て言い終えたかのように。
事実、全て言い終えたのだろう。
最期、満足気に笑っていたのだから。
『貴方達の旅路に、幸運があらんことを』
結界が解けるように溶け。
光の粒子が、ティエラの胸に一つ落ちた。
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