ep.6 突入前日

徐々に光が落ち着いていくと、精霊はエクスに近付いた。


《助かりました、人の子よ。お陰でこの辺りに闇の魔力は消え去りました》


言うと同時に、エクスが暖かな光に包まれる。


「これは……?」


《森の魔力の一部を貴方に分け与えました。これで魔力の回復も速まるでしょう。そして─────》


精霊が右手を振ると、湖からふわりと水色の結晶がこちらへ飛んでくる。


《これが、約束の物です》


目の前にふわふわと浮かぶ結晶の塊を、エクスは受け取る。


「これを、どうすれば……?」


《魔力を用いて作った、霧の結晶です。これを使えば幻惑の塔への入口が開けるでしょう…》


精霊の姿が薄くなっていく。


「これで………ありがとうございます!」


《礼を言うのはこちらの方です。森があるべき姿を取り戻せたのですから…》



やがて姿が見えなくなると森の中に静寂が訪れる。



「これで、幻惑の塔に辿り着けるんですね……」


トーフェは頷く。


「あぁ、これでようやく、だな。とはいえ今日向かうのは無理そうだな。月も出ている。今夜は宿へ帰るぞ」


エクスは同意すると、そのまま二人で森を抜けた。






《どうか、あの者達が苦難に負けないように……》



二人が去っていった湖で、精霊は祈る。


《願わくば誰一人欠けること無く、帰れますように……》



草木が、風で静かに揺れた。









宿屋に帰ると、荷物を部屋に置き食堂へと足を運ぶ。


「お腹も空きましたし、明日に備えて沢山食べましょうね!」


いつになく張り切るエクスに、トーフェは溜息をつく。


「あのなぁ……此処で金をあまり使うなよ?明日は魔族や魔物との戦闘になるかもわからん。ポーション等の消耗品を買うからな」


「分かってますって…!あ、ここ空いてますよ!座りましょう!」


エクスの様子にまた、溜息をつく。


「はあ………まぁいい。私も食べるとしよう」



席に着き、暫くの間食事を楽しんだ。




食事を終え、部屋に戻る。



「明日の夕暮れまでに装備を整える。童子に貸した剣とは別に、この街で買った剣はどうだ?」



王都で魔族と相対した際に折られた剣の代わりとして、トーフェから修行用に剣を借りていた。


「しっかり買いました。明日はこれで行きたいと思います。剣の重さにもすぐ慣れましたから」


剣の鞘をぽん、と軽く叩く。


「ふむ、ならばよい。後は消耗品の類だけだな。防具の方も買ったな?」


「はい、動きを阻害しない様に、最低限の重さで揃えました」


そう言いながら見せたのは鎖帷子と、小盾。


「まぁ、いいだろう。それでは明日に備えて寝るか」


そう言うとトーフェはベッドで横になる。


エクスも自分のベッドへ飛び込むと、間も無く夢の世界へと旅立った。




(思わぬ足止めを食らったな……連絡の付かなくなった者が無事であるといいが……)





暗い、暗い地下で息を殺し身を潜める。


下手に動けば、たちまち魔物に囲まれてしまうであろう、そんな極限の状態で。



「わたしは、諦めない………!」



その者はまだ、光を失ってはいなかった。


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