談話 十五時十五分
男が顔を上げると、高い位置にある窓からは月明かりが射し込んでいた。
「今は何時ですか?」
近付く靴音に彼が問い掛けると、ちょうど月明かりの下で立ち止まった影が応えた。
「二十時四十五分だが、君とて懐中時計を持ちこんでいるだろう?」
「ええ。ですが、どうも壊れてしまっているようでして、私の時計では十五時十五分になっています。時間というのは大切でしょう。起床、食事、睡眠、あるいは仕事など、そういったことを行う上での基準となるものですから」
「それには同意するよ」
「ところで、その靴。履いて下さっているようで安心しました」
「ああ」
男の眼前に立つ少女にしか見えない女性、シャルロット・ホームズは踵を鳴らした。
「私はプレゼントを無碍にするような女ではないよ。それに君の事だ。意味のないことをするはずもないだろう?」
そう言って口の端を持ち上げると、彼女はコートの内から一冊の本を取り出す。
「さて、日誌を残していた意味を教えてもらおうか、ワトスン君。いや―――」
牢屋の中の男が笑みを浮かべた。
「『犯罪者』ジョン・H・ワトスン」
END
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