第155話:レベル上げと換金
──そして、場面はダンジョンへと移り。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……は、速くねえかあ!?」
息を切らせ、三人の背中を追い掛けるヤダンの姿がそこにはあった。
アルバスやジギルに追いつけないのは仕方ないとしても、まさかロンドにまで置いていかれるとは夢にも思っていなかった。
「ヤダン、ついてこれなかったら置いていくからな」
「頑張れー、せんぱーい」
「ヤダンさん、速く!」
「ち、ちくしょう、やってやるぜこのやろー!」
半ばやけくそ気味に三人を追い抜いたヤダンを見て、顔を見合わせながら苦笑する。
「あの調子じゃ、ランドンまでは持たないわねー」
「っていうか、今回も一五階層まで潜るのか?」
「も、潜らねえのか!?」
敏感に反応したらヤダンがすごい勢いで振り向いた。
「俺達の目的はライとストナのレベル上げだからな。わざわざランドンと戦う意味がないんだよ。ランドンは昇華しねえとレベルも上がらないしな」
「……そ、そんなぁ~」
肩を大きく落としたヤダン。
それでもドロップアイテムで一番価値のあるものを渡すと言うとすぐ元気になった。
「ったく、現金な奴だな」
「へへへ、それが冒険者ってもんでしょう?」
「冒険者の鏡ね。あまり誉められたもんじゃないけど。ロンド君は参考にしちゃダメよ」
「あは、あはは」
こんな感じでライ、ストナと時間を掛けて戦った四人は地上に戻った。
※※※※
換金所では廻とリリーナが冒険者の対応をしている。
廻のことは認知されているものの、リリーナのことを認知している冒険者はまだまだ少ない。
ちょっとしたトラブルは日常茶飯事なのだが、ここでも仲良くなった冒険者が助けてくれた。
「うわー。あいつ、元冒険者ランキング27位に喧嘩売ってるぜ?」
「実力は健在って聞いたし、死んだな」
「隣に経営者様がいるのになぁ」
そんな感じで相手に聞こえるよう話をすることで矛を引き、騒動を収めてくれた。
しばらくするとアルバスまで戻ってきたものだから、相手が顔を青ざめて出ていくのも見慣れた光景だった。
「ったく、まーだ文句をつける奴がいるのか」
「リリーナさんがかわいいから、余計に声を掛けられるんでしょうね」
「うふふ、お世辞を言っても何も出てきませんよ、メグルさん」
笑いながらリリーナがそう口にすると、廻の窓口にヤダンが上機嫌でやって来た。
「おう、メグルちゃん! こいつの換金を頼むぜ!」
「はいはーい。ヤダンさんはいつも変わりませんねー」
「美味い飯と酒があれば問題ないからな! それはそうと、まーだ酒場はできないのか?」
酒場と言われて廻は腕を組み唸ってしまう。
「これでも酒場を任せられる人を探してるんですけどねー。ジーエフに来てくれる人がいないんですよ」
「そうかぁ……仕方ねえ、俺が一肌脱ぐとするか!」
「冒険者を引退するんですか?」
「なわけねえだろうが! 俺の人脈で酒場のオーナーになれる奴を探してやるっていってるんだよ!」
「ほ、本当ですか!」
ヤダンはアークスを連れてきてくれた実績がある。廻としても信用をおいている人物の一人なのでありがたい話だった。
「まーた問題を持ってくるんじゃないだろうなぁ」
「ひ、ひでえなぁ、アルバスさん。でもよう、結果としてアークスも移住できたし、オレノオキニイリと友好ダンジョン都市になれたんだからよかったじゃねえか!」
「結果が良ければいいってわけじゃねえんだよ」
呆れたように呟くアルバスに対してヤダンは笑って誤魔化している。
「でも、アークスさんの件はヤダンさんの言う通りですよね」
「さっすがメグルちゃんだぜ!」
「でも! 問題には変わりないので、できたらすぐに移住ができるように進めてくださいね」
廻からも念を押されると、さすがのヤダンも笑みを引っ込めて頭を掻いた。
「仕方ねえなぁ。まあ、俺様の手腕ならすぐに見つけ出せるから任せておけよ!」
「……不安だ」
「……不安しかねえ」
「……不安ですねぇ」
「さ、三人とも同じ感想かよ!?」
最後には笑い声が響き渡り、廻はドロップアイテムを換金するために一度後ろに下がる。
そしてヤダンが換金した中では最高額を差し出すと満面の笑みを浮かべて喜んでいた。
「うっほー! さすがレア度4から出てきたドロップアイテムだぜ! それじゃあ、俺は今日まで泊まってからオーナーを探してくるぜ!」
意気揚々と出ていったヤダンを見て、今日はこれから一日中飲んで食べてを繰り返すのだろうと三人は苦笑を浮かべた。
「……そういえば、ランドンから出たアイテムがそのままだったな」
「そうでした! たくさんのお金が出てきそうですね!」
「アルバス様がそのまま使うのではないのですか?」
「外のダンジョンで手に入れた素材なら使うだろうが、ここで出たなら有意義に使ってもらう方がいいだろう」
そう言って自らが換金機材に入れようとしたのだが、その手がピタリと止まった。
「どうしたんですか?」
「……てめえら、なんでさっきからジーっとこっちを見てるんだ?」
「「えっ?」」
アルバスの視線の先では、ジーエフに通い慣れた冒険者達が換金機材を見つめていた。
指摘された途端にある者は口笛を吹き、ある者は意味のない会話を始め、ある者は横目でこちらを伺っている。
この場にいる全員が、どれだけの金額が出てくるのか気になっていたのだ。
「……換金は、換金所を閉めてからにするか」
「「「「なんで!?」」」」
「てめえら、絶対に俺にたかるだろうが!」
一悶着あったものの、アルバスの一喝により収まると冒険者達は肩を落として散り散りに去っていった。
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