様々な動き

第138話:色々な一日

 翌朝、廻は早起きをしてジーエフの門まで向かう。

 カナタ達を見送ろうと思っての行動であり、廻が到着して数分後には三人とロンドが姿を現した。


「みんな、おはよう!」

「あれ、メグルさん、どうしたんですか?」

「みんなを見送ろうと思ってさ」

「それじゃあ僕と同じですね」


 ロンドも自分のことで三人がスプリングに向かうとあって、早起きをしてわざわざ家の前で待っていたようだ。


「昨日、食堂で挨拶をしたんですから、わざわざ必要ありませんが」

「そんなこと言うなって、トーリ。経営者が見送りだなんて、ジーエフじゃなかったらあり得ないんだぜ?」

「そうだよ、トーリ君。メグルちゃん、ロンド君、本当にありがとう」

「……さん付けもちゃん付けもあり得ないんだがな」


 顔を覆いながらそう呟いているトーリを無視して、カナタとアリサは握手を交わしていく。


「何かあればすぐに戻ってきてね。僕の家族よりも、まずは自分達の安全を第一に考えてね」

「ロンドは心配性だな。大丈夫だって、俺達も一応は冒険者だからな」

「自分達の安全を第一に考えることは、フェロー様に嫌というほど言われ続けたからな」

「その中で、全力でロンド君の家族を説得してみるよ」


 そうしてカナタ達はジーエフを出発した。


 ※※※※


 一方、換金所ではアルバスがリリーナに窓口について説明を始めていた。


「――というわけで、この神の遺物アーティファクトのダンジョンからのドロップアイテムを入れるだけでゴルが出てくるから、何にも難しいことはない」

「確かに、これなら接客さえ間違えなければ問題はなさそうですね」

「そうなんだ、接客さえ間違えなければな。なのにあの小娘ときたら、最初はどんだけ冒険者を怒らせたことか……あぁー、思い出しただけでも腹が立ってきたぜ」


 愚痴を溢すアルバスにクスクスと笑っているリリーナ。

 そんな仲の良さそうな様子を見て、ボッヘルは内心気が気ではなかった。


「……おい、リリーナ。ボッヘルは何であんな遠くからこっちを見ているんだ?」

「きっと、私のことが心配なんですよ」

「まあ、冒険者を相手にするわけだからな。双剣のリリーナだって分かれば、あいつらも手なんて出さないだろうが」

「そこもですけど……いえ、なんでもありません」

「ん? ……まあいいさ。というわけで今日は一日、俺も隣に立って対応するから頼んだぞ」

「分かりました」


 そうしてしばらくすると、朝一番でダンジョンに潜っていた冒険者が換金所にやって来た。

 初顔の冒険者だったのだが、窓口に立っているのがアルバスとリリーナだと分かると、入り口から近いアルバスの方を避けてリリーナの方へと行ってしまう。


「いらっしゃいませ。こちらにドロップアイテムをお願いします」

「あ、あぁ、よろしく、頼む」


 初顔の冒険者はびくびくしながらアイテムをトレイに置いた。

 リリーナが神の遺産にアイテムを入れている間も何故だか落ち着きがないのだが、それもそのはずでアルバスがじーっと睨みを利かせているのだ。

 これは単純にリリーナが舐められないようにという意味だったのだが、初顔の冒険者からすると避けて別の窓口に行ったからだと思われても不思議ではなかった。


「お待たせいたしました……あの、冒険者さん?」

「あっ! す、すみません、ありがとうございましたー!」


 そして、ゴルを受け取るとさっさと換金所を去ってしまった。


「どうしたのでしょうか?」

「……さあな。見た感じだと、全く問題はなさそうだな」

「ありがとうございます。それでは――あなた」

「お、おう!」


 突然声を掛けられたボッヘルは慌てて立ち上がると駆け足で近づいてきた。


「見ての通り私は大丈夫です。なので、宿屋の方を手伝って来てくれませんか?」

「いや、だがしかし……」

「こんなところで油を売っている暇はないでしょう? ジーエフには人手が足りないのですから」

「それはそうだが……」

「……あーなーたー?」

「は、はい! いってきます!」


 声音が一段階低くなり、笑顔の中に怒気がこもると、ボッヘルは直立不動で返事をして先ほどの冒険者のように換金所を後にした。


「……なんだったんだ?」

「うふふ、なんだったのでしょうね」


 その後、ぽつぽつと冒険者の対応を終えてからピークを迎え、二人は換金所で仕事をこなしていった。


 ※※※※


 ジーエフを出発したカナタ達は砂漠を抜けると森の中を進んでいた。

 最初にジーエフへやって来た時よりも速いペースで進んでおり、これだけでもアルバスの指導が身についていると実感することができていた。


「この分だと、予定よりも早くスプリングに到着できそうだな」

「ご両親と弟がいるんだったな」

「弟さんが元気だったら、移住の時も楽に進めるんだけどね」


 行きは三人だけなのでペースを速めても問題はないのだが、移住となれば両親と体の弱い弟が一緒になる。

 そこでの砂漠越えは体力勝負にもなるので、帰りは色々と考えることが多くなる。


「まあ、そこは帰る時になって考えればいいんじゃないか?」

「カナタは考えなし過ぎるんだよ。弟に何かあってからでは、ロンドに顔向けができないだろう」

「でも、会ってもいないんだから今考えても意味ないじゃないか。会ってから、その時の様子を見て考えるでいいじゃないか」

「そうかもしれないが、少しくらいは案を考えていても悪くはないだろう」

「うふふ、本当に二人は仲良しだね」

「「仲良くないから!」」

「息ぴったりのくせにー!」


 楽しそうな道中だが、三人は知る由もない。

 スプリングではジーエフのダンジョンに次ぐ冒険が待っていることを。

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