第69話:イベント企画
ここで考えるべき案件が二つ出てきた。
レア度3進化フードを使用するかと、経験値の実をどのように使うか。
進化フードは当然グランドドラゴン──命名ランドンに使うのだが、経験値の実に関してはレア度3のピクシーと、アウリーもガチャから出てきたので考えどころだ。
ランドンをレア度4に進化させるとレベル40まで上げることができるが、手持ちの経験値の実は一〇個であり、全て使っても最大まで上げることはできない。
だからといってランドンに全て使うとピクシーとアウリーをレベル1のまま配置することになるので弱いままなのだ。
「普通に考えると四個と三個ずつ分けるのかな」
「レア度4にたくさん使う方がいいのにゃ!」
「どうして?」
「えっ? 強いからだにゃ!」
「……あ、そう」
「酷い反応なのにゃ!」
廻とニャルバンのやり取りを横目に、アルバスは別のことを考えていた。
オレノオキニイリに勝つことは当然ながら、さらにその先のことを。
「……ピクシーとアウリーに二個、ランドンに六個だな」
そしておもむろにそう進言する。
「どうしてですか?」
「レア度4に進化させたランドンのレベルを上げて最下層に配置、さらにちょっとしたイベントを開催する」
「……イベントですか?」
アルバスが何を言っているのか理解できない廻は首を傾げる。
「階層を一五階層まで開放して、その上であえて噂を流すんだ。ダンジョン最下層にレア度の高いモンスターがいるってな」
「で、でも、それって冒険者の暗黙のルールでしたっけ? それに引っかかるんじゃないですか?」
ダンジョンの情報は基本的に外に漏らしてはならないことになっている。それはダンジョンを攻略するのは冒険者だからということに起因している。
アルバスが口にしたことである。それを本人が破ろうというのだから疑問に思って当然だろう。
「別にグランドドラゴンがいると言うわけじゃねえよ。階層が開放されたってことは、自ずと冒険者はそう考える。そこを突くんだよ」
「……いやいや、全然納得できないんですけど! ニャルバン、これはセーフなのかしら!」
「僕は分からないのにゃ」
「あんたそれでも神の使いなの! ダンジョンのことには詳しいんだよね!」
「にゃー。今アルバスが言ったことを実践した経営者はいるのにゃ」
「そういう答えが欲しいのよ! ってか分かってるんじゃないのよ!」
「セーフってなんなのにゃ?」
「そっちかい!」
まさかの食い違いに脱力しながら、それでもアルバスの提案が問題ないことが分かったので良しとすることにした。
何故これが問題ないのか。それはアルバスが言った通り、冒険者は階層が開放されればレア度のことを真っ先に考える。
そして自分の目で確かめる為に潜るのだが、アルバスが言ったのはただレア度の高いモンスターがいると噂を流すだけであり、明確にどんなモンスターがいるとは言っていない。
攻略するには情報が少なく、また噂程度の情報なら信じる信じないは個人に任せられるので、アルバスが言っていた暗黙のルールにも抵触しないのだ。
「でも、そうしたところで何が変わるんですか? 冒険者さんが潜ってくれるのは嬉しいですけど、今はランキングを優先して──」
「配置するだけでもランキングは上がるだろう。なら冒険者からの評価も上げておけってことだ」
「冒険者からの評価もランキングには影響するのにゃ!」
「……ニャルバン? 何度も言ってるけど、そういう大事なことは最初に言ってよね!」
「ご、ごめんなのにゃー」
謝っているニャルバンを見ながら、アルバスはさらに説明を続ける。
「それなら好都合じゃねえか。俺はオレノオキニイリに勝った後のことを考えていたんだが、そういうことならやるに越したことはねえな」
「オレノオキニイリに勝った後?」
「先を見据えてモンスターを配置したりダンジョンを開放しただろう? それの延長線上の話だ。何もオレノオキニイリに勝つだけが終わりじゃないからな」
「そうですけど……いいんですかね。この勝負はアルバスさんとアークスさんの将来を決める勝負なんですけど」
「どうせ勝つ為にやっている勝負だ。今やれることをやって、先を見据えて動くのが一番最良だろうよ」
廻では考え至らなかった点に気づいてくれるアルバスに感謝しながら、目の前の勝負に勝つことだけではなく、当初思い描いていた先を見据えた勝負ができるように意識を切り替える。
「それで、そのイベントというのはどういうものなんですか? アルバスさんのことだから何か考えがあるんですよね?」
廻の言葉にアルバスはニヤリと笑った。
「せっかくだからな、ジーエフにいる全ての冒険者を巻き込んでランドンの討伐イベントを行おうと思う」
「ランドンの、討伐イベント?」
「さっきも言ったみたいにレア度の高いモンスターが最下層にいると噂を流す。ただ他の都市に噂が流れるのには時間が掛かるし、実際に冒険者が見ないことには信憑性も薄い。なら、今ここにいる冒険者が証人になればいいのさ」
「でも、一五階層まで開放したらその分時間も掛かりますし難易度も多少は上がっちゃいますよ? それに参加する冒険者に得がないんじゃないですか?」
命を懸けてダンジョンに潜る冒険者である。自身に旨味がなければなかなか潜ってくれないだろう。
今は宿屋の料理を無償提供することで潜ってくれているが、それは一〇階層までしかなく、さらにモンスターも強くないからだと廻は思っていた。
「安心しろ。冒険者の得は討伐できた時のドロップアイテムってことにする」
「でもレア度4、それも希少種のランドンってことは相当強くなりますよね? アルバスさんが言うくらいですから」
一つ上のレア度と同等の力を持つ希少種である。実質レア度5の実力を持っているとなれば、冒険者ランキング100位以内の冒険者が複数人必要になると考えて間違いない。
もしくはアルバスのような桁違いの実力者が必要だ。
「冒険者を募ってダンジョンに潜る、まずは一五階層の
「……いやいやいやいや、討伐の流れだ。って言われても、だからランドンは相当強いですよねって話ですよ!」
「そこは問題ないぞ」
「……理由は?」
「俺が先導して潜るからな」
「…………はああああああああっ!?」
当然のように口にしたアルバスの発言に、廻は声を大にして驚きを露わにした。
「な、何を言ってるんですか! アルバスさんは今日、つい今しがた、大怪我をして戻ってきたばかりなんですよ!」
「あれは怪我の内に入らないぞ? もう治ってるしな」
「そんなわけ! ……えっ、治ってる?」
「ポーションを飲めばあれくらいならな」
「メグルは心配性なのにゃ」
「……ニャルバンも知ってたの?」
「僕は最初から心配ないって言ってるのにゃ」
一人で心配して、安心して、また心配しての繰り返しだった廻は目をぱちくりさせている。
そして改めてアルバスに視線を移すと、血が流れていた傷は確かに塞がっており、どこにも怪我らしい怪我は見当たらない。
「小娘が言う通り、今回は一人で潜るわけじゃないからな。何も問題はないと思うが?」
「ぐぬぬぬぬっ!」
「メグルは自分の発言に責任を持つべきだにゃ」
「ニャルバンはアルバスさんの味方か!」
「アルバスの提案がダンジョンにとっても一番いいからだにゃー」
廻もアルバスの提案がジーエフを宣伝するうえでも最良だと気づいている。
そしてアルバスが言う通り一人で潜るわけではない。多くの冒険者が協力してダンジョンに潜るのだから危険も少なくなるだろう。
「あと三日でランキングも更新されるから時間はない。やるとするなら明日には冒険者に声を掛けて、潜るのは二日後だな。どうする、やるか? やらないか?」
結局のところ、これはアルバスの提案でありどうするかは廻が決めることである。
廻の表情を見れば確認する必要はないとアルバスもニャルバンも分かっているのだが、そこは経営者と契約者としての関係性があるので仕方がなかった。
「やりましょう。アルバスさん、毎回言いますけど絶対、無事に戻ってきてくださいね」
「当然だろう。他の冒険者も死なさずに戻ってきてやるさ」
「それじゃあ進化と経験値の実、それに配置を考えていくのにゃ!」
ニャルバンの言葉を受けて、アルバスは一度ジーエフに戻って行く。
カナタとトーリを家に迎え、事情を説明してまた
そこからは寝る間も惜しみダンジョンの配置について話し合われた。
その中でアルバスは嬉々として提案を繰り返し、そしてランドンの進化を目の当たりにして笑みを深めていた。
「こいつは、楽しめそうだな」
――そして翌日の早朝を迎えた頃、ジーエフの一五階層開放がアナウンスされたのだった。
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