第52話:苦戦と名物と
一〇階層の開放がアナウンスされてから数日後、ちょこちょこと冒険者の姿が増え出したのだが、その反応はやはり可もなく不可もなくといった感じだった。
廻が一〇階層開放を決断した理由はもちろん一つだけ──ライのレア度3への進化である。
ライガーからハイライガーへと進化したライは体長が三メートルと巨大なのだが、強靭な四肢の筋肉を駆使して俊敏に動き回り冒険者を翻弄していく。
所有していた経験値の実と三軍のモンスターを使ってレベルも最高まで上げている。
それでも可もなく不可もなくの反応なのには理由があった。
「──ライの昇華ができない!」
廻の嘆きが理由の全てだった。
レア度3の最高レベルは30。ライのレベルはすでに最高まで上がっているため、これ以上のレベルにするには昇華をしなければならない。
昇華には同じモンスターが必要になるのだが、ようやく進化させたハイライガーを持っているわけもなく、これ以上の強化ができない状況になっていた。
「スラっちやゴブゴブも進化はできたけど、レア度1から2に上がっただけじゃあそれほど変わらないし……」
冒険者は冒険を求めている。そしてその先にあるレアアイテムを求めるものだ。
レア度3からはレアアイテムも出やすくなるものの、昇華されなければその確率が上がることはない。
レア度2の種類が増えたくらいで解決できる問題ではなく、レア度3を手に入れた廻だったが、やはりここでもレア度問題は継続していたのだった。
「だがまあ、料理と道具屋は繁盛してるじゃねえか」
「……本当に、ニーナさんとポポイさんがいてくれて助かりましたよ」
冒険者が求めるのは冒険だ。
だが、その次に求めているものと言えば美味い料理と美味いお酒、さらには冒険に欠かせない便利な道具である。
お酒に関しては知識の浅い廻なのだが、ニーナの料理が美味しくて名物になり得ることは以前の話し合いで分かっている。
ポポイの道具も必死に改良を重ねてくれた結果、
そのどれもが広範囲に効果を及ぼすものであり、
そんな中、一番飛ぶように売れたのは
瓶シリーズは効果は別にしても他の都市でも購入が可能だが、影縫いに関してはポポイオリジナルの道具であり、今のところジーエフでしか購入することができない。
モンスターの動きを止める道具も比較的出回っているのだが、ナイフの形状で持ち運びがしやすく、なおかつ単体に使える道具はとても少なかった。
冒険者ランキング一位のジギルが使っているという宣伝も相まって、冒険者が集まり始めたのだ。
廻が言った通り、料理と道具屋がメインとなり、ダンジョンがついでという状況が生まれていた。
「レベル上げには十分じゃねえか?」
「そうですね。換金所はまあまあ暇ですけど」
ついでにダンジョンに潜った冒険者がちょこちょこと来ているものの、それでも数は少ない。それどころかレアアイテムが出てこずに換金額もそこまで高くならないのでいざこざが時折起こっている──主に廻が窓口に立っている時に。
その都度アルバスが睨みを聞かせて難を逃れているのだが、まだまだ廻を一人では立たせられないと判断されて、今のように二人で換金所に立っているのだ。
「おぉーっ! 本当にアルバスさんだ!」
「いらっしゃいませー!」
「……なんだこの子は?」
そして、アルバス目当てでやってくる冒険者に対して廻が我先にと声を上げて接客しようとするのでアルバスは手で顔を覆うことが多い。
「あー、すまん。今は窓口を教え込んでる最中だ」
「アルバスさんが子供にって、大丈夫なんですかい?」
「お任せあれ! ささっ、ドロップアイテムをどうぞどうぞ!」
「いや、まだ潜ってないし」
「……そうでしたかー。あははー」
アルバスのことを知っている冒険者なら問題はない。多少の粗相も多めに見てもらえるからだ。
だが、そうでない時がいざこざの元になる。
「それで、今日は潜るのか?」
「一応な。目当ての道具も買えたし、ちょっと試してみるさ」
「あんま無駄遣いすんなよ?」
「アルバスさんに言われるとは思わなかったよ! それじゃあ行ってくるわ!」
こんな感じで気さくに話をしている。
廻も廻なりに頑張っているのだが、どうしても冒険者と言い合いになることがあり、首を傾げる毎日なのだ。
「ストナももうすぐレア度3に進化できそうですし、楽しみですねー」
「いや、昇華できないんじゃあここから上を目指すのはなかなか厳しいもんがあるぞ」
「そうなんですか?」
「ジギルが言っていた最低ラインの500位からは、レア度4だけでなくレア度5も普通にいるからな。レア度3で満足していたら、一生上には上がれんぞ」
「……レア度5」
レア度4ですらまだまだ先の話にも関わらず、レア度5の話など言われても分からないものだ。
「まあ、私は自分が見れる中で良い都市を目指すつもりですから、無理して上の順位に行くつもりはありません!」
「……そうなのか?」
「そうですよ? あれ、言ってませんでしたっけ?」
驚きの表情を浮かべているアルバスに、廻は自身の考えを説明した。
「……まあ、そういう都市作りもありっちゃありか」
「私が分からないところで何か起こるのが怖いんですよね。だから、目の届く範囲で大きくして、その中で良い都市を目指したいと思ってます」
「それなら──分かるんじゃねえか?」
納得顔のアルバスが突然低い声で廻に問い掛ける。
「な、何がですか?」
「俺の目が届かないところで小娘は何度も何度も何度も何度も、問題を起こしてくれたよな?」
「……あー、えっと、それはー」
「真面目に接客しろよな!」
「酷い! 私は真面目なのに!」
「だったらなんでいざこざばかり起こすんだよ!」
「わ、分かりませんよ! 換金機材に聞いてください!」
「聞けるか!」
二人のやり取りは換金所の外にまで聞こえている。
そのことを知らない二人の声はどんどんと大きくなり、気づけば換金所の前には多くの人が集まっていた。
「おーおー、まーたやってるのか」
「あの二人は仲が良いのか悪いのか分からんな!」
「このやり取りも名物よねー」
そんなことを言われているとは思ってもいない二人なのだった。
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