第50話:道具屋
廻はというと、ジーエフの名物になり得るだろうポポイの道具屋へと足を運んだ。
「ポポイさーん」
中を覗くがポポイは窓口に立っていなかった。
予想していた廻は窓口を抜けてそのまま奥へと進んでいく。そこには調合部屋が併設されており、ポポイは多くの時間をそこで過ごしている。
「――あれ? メグルちゃん、どうしたの?」
「ポポイさんの道具がジーエフの名物になりますよ!」
「そんなもの当然じゃないの! ……それで、どういうこと?」
話の流れが分からないポポイに、廻は経営者の部屋で話し合われた内容を説明した。
「任せてよ! ダンジョンが軌道に乗るまでは……いえ、軌道に乗ってからも私の道具がジーエフを支えてみせるから!」
頼もしい返事をもらった廻は、さらにお願いを口にする。
「それでね、
「もちろんよ! ……と言いたいところですが、開発と言ってもなかなか難しいんですよねー」
「まあ、そうですよねー。何かを一から作り出すのって本当に大変ですよね」
「あれ、メグルちゃんも経験があるの?」
日本にいた頃の知識からそう呟いたのだが、ポポイは今の廻の見た目から驚きの表情を浮かべていた。
「私が何かを作ったわけじゃないんだけど、何かが一から出来上がっていくところや作ろうと努力している人達を見てきたからね。ポポイさんにも無理を言ってるのは分かるんですけど、今はポポイさんの道具とニーナさんの料理に頼るしかないんです」
身近なところでは一つの家やビルが出来ていく様を見てきた。
テレビやネットでは国内だけではなく外国の情報を見て新たな挑戦を目の当たりにした。
実際に外国へ行った時には理不尽に立ち向かう人々をこの目で見てきた。
一から何かを作り上げる、何かを成し遂げるというのは大変なことなのだと廻は理解していた。
「……そっか。それなら私も頑張らないといけないわね!」
「これがうまくいったら、できることはやらせていただきます!」
「あっ! それじゃあ経営者の部屋の研究を――」
「そこはニャルバンの領分なので私にはどうにもできません! ダンジョンの研究ならアルバスさんの時間がある時にでも!」
「えぇーっ! あの人、怖いんだもんなー」
「根は良い人ですよ」
軽くフォローを入れた廻は、ポポイがやっていた作業に目を向ける。
「今は何をしているんですか?」
「これ? これは火炎瓶に続く新しい攻撃用の道具ですよ!」
「おぉっ! まさに今のジーエフに必要な道具じゃないですか!」
「でも、上手くいかないんですよねー」
「そうなの?」
調合部屋を眺めてみると、そこには失敗の痕跡がすぐに見つかった。
焼け焦げた壁に凍り付いている床。粉々になった机や椅子の破片がそこかしこに散らばっている。
さすが攻撃用というべきなのかもしれないが、廻は違うところで怒鳴り声を上げた。
「ちょっとポポイさん! 部屋の中で実験を行ったんですか!」
「そうだけど……えっ、ダメなの?」
「ダメなの? って、ダメに決まってるじゃないですか! 危ないですよ!」
「そうでもないよ? この部屋は頑丈にできてるし、完成品の火炎瓶を使っても壊れないようになってるんだからね!」
「部屋がじゃなくて、ポポイさんが危ないんですよ!」
「だいじょーぶ! ちゃんと安全対策はしてるからさー」
軽い感じで言うポポイは、乱雑に積んである洋服の中から一着の作業着を取り出した。パッと見ではただのつなぎのように見えなくもないが、廻はその服を見て首を傾げることしかできない。
「……それがなんですか?」
「ふっふっふー! これは私が作り出した安全に特化した作業着なのです! 耐熱耐寒、さらに防刃にも特化した作業着だから失敗したとしても大丈夫なのですよ!」
「却下です」
「即答! 本当に安全なのに!」
「やるならダンジョンでやってください! もしくはまだ建物も少ないんだから外でもいいですから!」
「外、暑い」
「それだけの理由ですか!」
砂漠の中にあるので暑いのは分かる。
だが、この小さな部屋で熱波を浴びる方が熱いのではないかと冷静に考えれば分かるので、これは単にポポイが面倒臭がっているだけで、廻は興奮していることもあり全く気づいていなかった。
「絶対にダメですからね! カナタ君達が大工さんを連れてきたら専用の建物を造りますから、それまでは外で安全第一で実験をしてくださいよ!」
「でも木だと燃えちゃうしー、ここだからできる実験もあるんだけどー」
「だったらここを実験室にして、調合部屋を別に造りましょう!」
「……えっ、いいの?」
「いいですいいです、だから安全第一でお願いしますね!」
「了解です! ひゃっほーっ!」
やる気になってくれているポポイの気持ちを落とすことなく良い着地点を見つけることができたと思っている廻だが、実際のところただただ先走ってしまっただけだった。
「よーし! それじゃあまずはこいつを完成させるだけですね!」
「ところでポポイさん、これはどういった道具なんですか?」
肝心な道具のことを聞いていなかったと思い出した廻が質問する。
「これは
「あぁ、あっちの凍ってる床ですね」
「そうなんですが、なかなか氷が広がらないんだよね」
「ここで広がるのは危ないので失敗していてよかったです」
本気でホッとした廻はその他に開発中の道具がないかを聞いてみた。
「そうですねぇ……同じような瓶で
「……結界?」
「あれ、分かりませんか? モンスターと対峙した時に身を守る為の道具ですよ」
「いや、それは何となく分かるんだけど……そんなすごいものまで作れるの?」
火炎瓶や影縫いだけでもすごいと思っていた廻は、結界という耳馴染みのない言葉に驚くとともに、一道具屋が作れるものなのか疑問に感じていた。
「結構簡単ですよ? 作り方は公開されてますし」
「こ、公開?」
「知らないんですか? 多くの道具は基本の作り方が公開されていて、それを私は改良しているだけなんです」
「そ、それじゃあ、影縫いも?」
「あれは私のオリジナルです」
「……そ、そうですか」
火炎瓶はなんとなくイメージできたものの、影縫いは影にナイフを刺すだけで動けなくするという摩訶不思議な構造をしている。
廻の知識では理解できないものなので、それをオリジナルで作り出したポポイに驚きを隠せなかった。
「火炎瓶や氷柱瓶は公開されている道具で、多くの道具屋が取り扱ってるね。それを改良してより良い商品に仕上げるのが、道具屋として腕の見せ所なんだよ」
「そうなんですね。でも、そんなどこにでもある商品でジギルさんに認められたんだから、やっぱりポポイさんはすごいですよ」
「ありがとねー」
ポポイは嬉しそうにはにかんだ。
その後、廻はしばらくポポイの作業を見守っていたが、地道な作業の邪魔をしてはいけないと思い静かに調合部屋を後にしたのだった。
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