第44話:レアアイテム
「あー、やっぱりおかしいんですか? 私も枚数が多いとは思ったんですけど……まさか、何か操作ミスでもしちゃった!」
慌てだした廻に対して、アルバスが声を掛ける。
「いや、見ていたが小娘の操作に間違いはなかった。あるとするなら、小僧が持ってきたアイテムだろうな」
顎に手を当てながらアルバスは受付窓口に入ると、換金機材から所有者が廻に変わったアイテムを取り出した。そして——
「……マジかよ、これは」
「何かレアなアイテムでもあったんですか?」
アルバスの足元でぴょんぴょん飛び跳ねている廻に、ロンドは苦笑を浮かべている。
一方のアルバスはというと、もったいないといった具合にロンドへ視線を向けた。
「……早く鍛冶師が来てくれるといいな」
「えっ? な、何なんですか?」
「こいつは、ライを倒した時に出たアイテムだな?」
アルバスは右手で一つのアイテムを摘んでロンドに見せる。
「そうですね。見たことないアイテムだったのでレアアイテムだとは思いましたけど……貴重なものなんですか?」
アルバスが持つアイテムを見たことがないロンドは、どういったアイテムなのか気になっていた。
「これはレア度2からはほとんど出てこないんだがな……こいつは、魔石だ」
「………………ま、魔石!」
「えっ、何? 何事?」
ロンドの驚きに困惑顔の廻は、アルバスに説明を求めるよう視線を向ける。
仕方ないと言わんばかりにアルバスは口を開いた。
「魔石ってのはモンスターの核になる部分だ。大抵の場合は殺した時に白い灰になっちまうんだが……稀にこうして形を残してまま残ることがある」
「げっ! ……それって、モンスターの心臓ってことですよね? それの何が貴重なんですか?」
「小娘が言う通り、こいつはモンスターの心臓と言って間違いない。そして、モンスターの力が凝縮された石でもあるんだよ」
「……だから何なんですか?」
廻はこの世界の知識を有していない。アルバスが当然のように言うことであっても全く分からないのだ。
だからこそオウム返しのように疑問を口にするのだが、アルバスは変な者を見るような目で廻を見ている。
「お前、なんで知らないんだ? 魔石が高価なものってのは常識だろ?」
「だから、私はこの世界のことは分からないんですってば!」
「あー、なんかそんなこと言ってたか? 大人だかなんだかよく分からんが、魔石で武器を打てればただの鉱石から打つよりも等級の高い武器が出来上がるってことだ」
「それでさっきは鍛冶師の話をしていたんですねー」
納得顔の廻に溜息をつくアルバス。その横ではロンドが目の前に積まれたゴルを見ながら固まっている。
「そのゴルっていくらなの?」
「た、たぶん、5000ゴルはあると思います」
「えっ! 5000ゴルって、一ヶ月分の給料の五倍の額じゃないの!」
「それだけ高価で珍しいものなんだよ」
魔石を使って打った武器は付加価値が付いてさらに値が上がる。廻はアルバスから魔石を受取ると早く鍛冶師が住民になってくれないかと心底願ってしまった。
「その金は小僧が取っておけよ」
「えっ! こ、こんな大金さすがに受け取れませんよ!」
「小娘と契約したとはいえ、お前は冒険者だろう。自分がダンジョンに潜って手に入れたアイテムの対価なんだから、受け取るのが筋だぞ」
「そうだよロンド君。心配はしたけど無事に戻ってきてくれたし、ロンド君が持って返ってきたものなんだからちゃんと貰いなさい!」
アルバスと廻に言われてしまったロンドは、断ることができなくなり渋々ゴルを受け取ることにした。
今はまだジーエフでゴルを使う施設が少ないものの、いつか入り用になる時がくるだろう。その時まで貯めておくのも必要だとアルバスは言う。
「小僧が将来一人で別のダンジョンに潜る時だって来るだろう。そうしたらゴルはいくらあっても足りないことが多いからな。その場その場で稼ぐのもありだろうが、今はジーエフに根を下ろしているんだから貯めておけ、いいな?」
「……はい」
二人のやり取りを聞いていた廻は驚いていた。
傍若無人な感じを醸し出しているアルバスが、まさか将来設計について語っているのだからそれもそうだろう。
その視線に気づいたのか、アルバスは廻を睨みつけながら口を開いた。
「まあ、俺の場合はすぐに稼げたから宵越しの金なんて持たなかったがな!」
「せっかく格好良かったのに、最低!」
「なんだ、俺に惚れたのか?」
「そんなわけあるかー!」
最後にはいつもの雰囲気を取り戻した換金所内は、次の話題に移っていく。
「……でも、これだけ高価なアイテムがドロップするなら、それを宣伝して集客を図るのはどうですかね?」
「ダメだな」
「即却下ですか!」
「あまりにも運の要素が強すぎる。それに、レア度が低いモンスターからは基本出にくいってのは周知の事実だ。レア度が低いことを指摘されたのは、こういうことも含まれているんだよ」
「……むむ、正論ですね」
「当然だ」
そうなると、やはり課題はレア度ということになってしまう。
「せめてレア度3がいてくれたら多少は宣伝できるんだが、ライの進化もまだまだ先だからな」
ジーエフ最強のモンスターであるライは、昇華を二回行っておりレベルは37である。進化用に育てているライガーは昇華一回でレベル25。まだまだ先は長いのである。
「小娘がやってるそのノーマルガチャだったか? それでもレア度3は出るんだろうに、なんで出さないんだよ」
「出さないんじゃなくて、出ないんですよ! これこそ運なんですからね!」
「……どれだけ運が悪いんだよ」
「ぐふっ!」
神様に選ばれた時点で自身の運の無さを自覚している廻にとって、アルバスの一言は心に刺さるものがあった。
「……ふふふ、いいんですよ。どうせ私は運が悪いんですから。だからここにいるわけだし? 努力が報われない可能性もあるんですよね、ふふふ」
「……おい小僧、こいつどうしたんだ?」
「……ぼ、僕に言われましても」
しばらく呆けてしまった廻だったが、慌てて気を取り直したのか作り笑いを浮かべながら決意を口にする。
「そ、それでもガチャは引き続けますよ! レア度3が出たら嬉しいですけど、それ以外でも育てたり合成したり、やりようはあるんですからね!」
手を腰に当てて胸を張る廻。
ロンドとアルバスは顔を見合わせて苦笑を浮かべた。
しばらくの間、換金所でどうしたらジーエフが盛り上がるのかを考えていた三人だったが、ニーナから先ほどの冒険者が発ったこと聞いて場所を変えることにした。
「ニーナさんはポポイさんに声を掛けて、開発に勤しんでくださいって伝えてください。その後はゆっくり休んでくださいね」
「分かりました、ありがとうございます」
換金所を離れていくニーナを見送り、ロンドとアルバスは廻に連れられて
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