第42話:ダンジョンと換金所
廻はすぐさま
「アルバスさん、絶対にロンド君と一緒に戻ってきてくださいね!」
そう声を漏らすと、急いで換金所へと駆け出したのだった。
※※※※
——三〇分。そう宣言したのはロンドが心配だからではなかった。
「小娘に換金所の受付を任すのは怖いからなぁ」
アルバスは換金所の管理人を受けるにあたり、建物内にあった説明書を熟読している。
冒険者の頃からやるべきことは徹底してやる性格だったアルバスにとって当然のことだったのだが、廻が同じように対応できるのかを考えて——
「……無理だろうなぁ」
という感想のもと、アルバスは少し駆け足でダンジョンを進んでいく。
飛び出してくるオートゴブリンを足蹴にして、さらに複数現れた場合は軽くクレイモアを横薙ぐだけで首や胴体が両断されていく。
ランダムモンスターが現れた場合も同様であり、アルバスの速度が落ちることは一切ないままボスフロアにまで到達した。
『グルアアアアァァッ!』
現れたのはゴブリンである。
ゴブを進化させる為のモンスターなのでレベルも33と高いのだが——
「邪魔だ」
『ギャフンッ!』
一振りだった。
地面を蹴り一足飛びにゴブリンを間合いへ捉えると、振り下ろされた刃がゴブリンが持つ錆びた短剣もろとも両断し、その場で白い灰を舞い踊らせる。
ドロップアイテムには目もくれず、アルバスは二階層へと降りていった。
※※※※
——一方その頃。
ロンドは四階層から五階層へと進んでいた。
四階層のボスであるレア度2ゴーストナイトのストナには苦戦を強いられたものの、ポポイから購入していた
オートやランダムを相手にして遅れを取ることはなくなったものの、数の暴力にはどうしても足を止められてしまう。
そういった時にも、やはりポポイお手製である
通路には焼け焦げた匂いと白い灰が視界を覆い、影から襲い掛かってくるモンスターがいないか警戒する。
特に何もなければ視界が晴れてから前進し、襲い掛かってくるようであれば戦闘を繰り返す。この時点では残っていても数匹なので今のロンドならば苦にもならない。
アルバスに鍛えられているロンドは、新人の中でも抜きん出た実力をすでに有していた。
「ふぅ。ようやく五階層のボスフロアだ。メグル様にバレる前に倒して、早く戻らなきゃ」
すでにバレてしまっているとは知らずに、ロンドは少しの休憩を挟んでボスフロアへと足を踏み入れた。
『——グルアアアアァァッ!』
レア度2、ジーエフ最強のモンスターであるライがロンドを視界に収めるのと同時に咆哮、そして四肢で地面を蹴りつけてロンドの喉笛に噛み付こうと加速する。
使い慣れたショートソードはすでに手の中にある。カウンター気味に開かれたライの口の中へ刃を滑り込ませようと袈裟斬りを放つ。
刃をライの口内に侵入——が、皮膚を斬り裂く直前に強靭な顎で刀身に噛みつき、牙での白刃取りをしてみせた。
多くの冒険者がこの時点で驚愕に顔を染めるだろう。だが、ロンドは一瞬の動きの乱れもなくそのまま一気に振り切る。
背中を地面に強打し、呼吸を乱したライめがけて大股で一歩前進、体を伸ばしての刺突。
眉間に迫った剣先を回避する為に大きく飛び退いたライだったが——これがロンドの狙いだった。
「
四肢が地面から離れている状態で、ライは回避する術を持っていなかった。
加速しながら刀身を腰に添わせ、通り過ぎざまに居合を放つ。
胴体が上下に分かたれ、声を上げる暇もなく白い灰へと変わってしまった。
ジーエフに来た当初は一階層のゴブリンにも苦戦し、なんとか勝利したもののすぐに経営者の部屋に戻っていたのだが、今では五階層のライにも一人で傷を負うことなく勝つことができる。
ロンドは今、自身の成長を肌で感じることができていた。
「これも、アルバス様のおかげだな」
ロンドが師事しているアルバスからは冒険者の心得だけではなく、戦い方についても教えてもらっている。その一つ一つを実践することで、ロンドは実力を付けているのだ。
「それじゃあ、ドロップアイテムを回収して戻ろうかな——あれ?」
白い灰の中からドロップアイテムを拾い上げると、初めて目にするアイテムだったこともあり首を傾げてしまう。
考察したい気持ちもあったが、早く戻らなければ廻にバレてしまうと思い踵を返す。
五階層の
「な、なんでアルバス様がここに?」
「小娘にバレてるぞ」
「……あー、えっと、まずいですね」
ニヤニヤしているアルバスに対して、ロンドは頬をピクピクさせている。
経営者の判断に逆らったという思いもありながら、廻なら結局は許してくれるのではないか? という感情もあり、どうするべきか悩んでいるのだ。
「小僧の判断は間違ってないと思うぞ」
「えっ?」
「あの小娘なら、最初はギャーギャー怒鳴り散らすだろうが、最終的には無事で良かったと言って許してくれるだろうよ」
「……そう、ですね」
アルバスの言葉で最終的には苦笑を浮かべることになったロンドは、そのまま来た道を引き返していく。
「そういえば換金所は大丈夫なんですか?」
「それが心配だから急いで戻るぞ」
「えっ?」
「……その小娘が受付に立っているんだよ!」
「…………ええええええええぇぇっ!」
ロンドの驚きはアルバスとはまた違ったものだった。
経営者に受付をさせるという行為がロンドにとってはあり得なかったのだ。
「ア、アルバス様、さすがにそれは」
「だよなぁ。俺も心配だからちょっと急いでるんだ」
「ちょっとじゃなくて、本気で急ぎましょうよ!」
「まあ、仕方ないか。それじゃあ走るぞ、ついてこいよ!」
「は、はい!」
お互いに違う懸念を抱きながらも噛み合ってしまった話によって、二人は全速力でダンジョン内を駆け出したのだった。
※※※※
「——……ほうほう、ふむふむ……なるほどー」
換金所の受付では、廻が説明書を片手に換金機材の操作を行っていた。
受付前では冒険者がまだかまだかとイライラした様子で廻を睨んでおり、人差し指で机を何度も叩いている。
「どれどれ……おぉー! 出てきた、出てきましたよー!」
「分かったから早くしてくれよ!」
怒鳴り散らす冒険者に笑顔を向けて——後ろを向いていた時には表情を一変させていたが——、廻は換金額をトレイに入れて差し出した。
「……たったのこれだけかよ!」
「これだけみたいですね」
「みたいですねって、どうにかしろよ! こんなところまで足を運んでこれだけって、割に合わねえじゃねえか!」
「換金機材は平等ですよ。って、説明書に書いてあります!」
どうだ! と言わんばかりに胸を張る廻なのだが、そのような主張で納得する冒険者ではなかった。
「……てめぇ、舐めてんのか?」
「いやいや、本当のことですから」
満面の営業スマイルを浮かべる廻に、冒険者はついにキレてしまった。
「ぶっ殺されてえのか!」
腰に差していたロングソードの柄に手をかけた——その時である。
「——やっぱり問題を起こしていやがったか!」
鬼の形相を浮かべたアルバスが換金所の入口から姿を現した。
柄にまで手を伸ばしていた冒険者はアルバスを見た途端に顔面蒼白となり、換金額を鷲掴みにするやいなや飛び出してしまった。
その光景をポカンとした表情で眺めていた廻だったが、目の前にアルバスの表情がぬっと現れると小声で『ひっ!』と声を漏らしている。
「何かあれば俺の名前を出せって言ったよな? 聞いてなかったのか?」
「い、いやー、ちゃんと使いこなせたんですけど、まさか納得しないだなんて思わなかったんですよー。あは、あははー」
明後日の方向を向きながら、冷や汗を流して呟く廻。だが、アルバスは再びぬっと顔を出して真っ直ぐに睨みつけてきた。
「こんの——バカ野郎がああああああぁぁっ!」
「ご、ごめんなさああああああいっ!」
換金所にはアルバスの怒声と、廻の悲鳴がこだました。
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